【第二部】薬師令嬢と仮面侯爵〜家族に虐げられ醜怪な容姿と噂の侯爵様に嫁いだ私は、幸せで自由で愛される日々を過ごしています

黄舞

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第28話 上機嫌

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「なんだか、今日のビオラ様は上機嫌ですね? 何かいいことありました?」

 乾燥させた根を煎じながら、ハープが私にそう言ってきた。

「あら。そんなに普段と違う?」
「まぁ、違うかどうかと聞かれましたら、明らかに違いますね。いえ……むしろ昨日までの様子が少し落ち込んでいられるように見えて、その反動があるのかもしれません。でも、やっぱり違うと思いますよ」
「うふふ。そうなの。実は今日、良いことがあってね? ハープも聞きたい?」

 ついついにやけてしまうけれど、抑えられない。
 ハープの言う通り、とても気分が高揚している。

「ええ、ええ。聞かなくたって、言いたくてしょうがないって顔していますよ? さぁさ、何があったんですか? 白状なさってください」
「実はね。先日、オルガン様に手紙を出したの!」
「オルガン様に手紙ですか? なんでまた? 会おうと思えばすぐそこにいらっしゃる距離ですのに」
「まぁ、それは、ね。深く考えないでちょうだい」
「分かりました。それで……ああ! オルガン様からお返事が届いたんですね?」
「そうなの! お返事が届くなんて思いもよらなかったから。それだけでも嬉しかったわ。どんな内容が書かれているか見るのが怖かったけれど」
「怖いことなんて書かれているわけないじゃないですか。本当に、お二人は仲睦まじくて。見ている私も嬉しくなります」
「なんて書かれていたかは聞かないの?」
「ビオラ様宛の手紙でしょう? さすがに中身まで聞くのは失礼じゃないですか」

 ゴリゴリと根を煎じる音を立てながら、ハープは呆れ顔を私に向ける。
 中身まで教えたいと思っていることはバレバレみたいね。

「失礼じゃないわ! 私が言いたいんだから、ハープはちゃんと聞いてね?」
「はいはい。それではどれだけお二人が甘いお話を送り合っているのか、不肖ながらこのハープめにお聞かせいただけますでしょうか」
「ハープが思っているようなことじゃないわよ。王都に来る間にオルガン様とある話をしていたの。薬の作り方を他の人に教えるという話よ」
「まぁ。そんな話されていたんですね。とても良いことだと思いますよ。こういう私も、ビオラ様のおかげで簡単な薬であれば作れるようになりましたし」
「手紙には具体的には書かれていなくて、馬車の中での話、みたいな書き方なのよね。でも、間違いないと思うわ」
「変ですね。オルガン様が何か人に物を伝える際には、とても分かりやすく具体的に書かれれるお方ですのに」
「そうなのね。オルガン様と手紙のやり取りをするのは初めてだから、これが普通なのだと思っていたわ。でね! きっと素敵な形で実現させてくださるんですって! そう書かれていたの。どう、素敵な形なのかは、やっぱり書かれていなかったけれど」

 オルガン様の手紙の内容を一字一句思い出す。
 届いてから開けるまでにとても時間がかかったし、開けてからは何度も読み返してしまった。
 最後に書かれていた私への言葉は、さすがにハープにも伝えないでおくわ。
 オルガン様からの私だけへの言葉だから。

「良かったですね。やっぱり、ビオラ様がここ数日寂しそうだったのは、オルガン様と離れ離れになっていたからのようで。お手紙といえども、気持ちが上がったのであれば、喜ばしいことです」
「そんなに昨日まで落ち込んでいたかしら?」
「まぁ、いいじゃありませんか。初々しくて。ところで、薬の方はこれであらかた準備できましたけど、どうしましょう?」
「そうね。さっそく、試してみましょう。治すにしたって、即効性があるわけじゃないから、始めるのは早い方が良いわ」
「かしこまりました。それでは、声をかけてきますね」
「ええ。お願い」

 ハープが外で待機している従者に話をする。
 しばらくして、別の部屋に案内された。
 そこには、数人の男女が壁に沿って並んで立っていた。
 きっと、身体のどこかに火傷の痕が残っている者たちなのだろう。

「それでは、お願いします。そこの者、前に出なさい。事前に話した通り、火傷の痕をこの方に見せるように」

 私を案内した従者が、右端に並んでいた男性を指名し、部屋の中央に呼ぶ。
 男性は少し歩きにくそうにしながら、前へと出ると、左腕の袖をめくった。
 左腕の上腕から前腕にかけて、ケロイド状の火傷の痕が痛々しく残っている。

「ハープ。一番の薬と三番の薬を用意して。三番を先に塗ってから、一度ふき取り、一番の薬を塗るのよ」
「かしこまりました。ちょっと失礼しますね……すいません。少し屈んでもらえますか?」

 ハープも私も背は低い方。
 それに比べて、男性の背は、普通の男の方の身長から比べても随分と高い。
 前腕は問題なく塗れるけれど、上腕を塗るのは見上げないといけなかった。

「こ、これでええでしょうか?」
「ええ。少し辛い体勢かもしれないけど」

 独特の訛りのある男性の腕にしっかりとまんべんなく薬を塗っていく。
 それにしても彼の火傷の痕はかなりひどい。
 残らないように綺麗にするのは難しいかもしれないわね。
 もう一つ、気になることもあるし。
 後で聞いてみないと。
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