銀の魔眼は楽園を夢見る

黄舞

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第14話【舞台裏】

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「いやぁ。それにしても上手くいったね」

 種明かしは簡単だった。
 ピエールの指示で酷い待遇にいた孤児たちを救うため、ミトラたちはできる限りのことをした。

 一番大きかったのは、テイラーと出逢えたこと。
 これがあったからこその作戦だった。

 そこで知ったピエールの腹違いの弟、ダニエルのことを知った。
 ピエールとは異なり、前領主の信念をきちんと受け継いだ善人だった。

「ダニエル様が居たからこの作戦を思いついたのです」
「とは言ってもまさかあのガーミラ侯をダシに使うとは。思い出しただけでも脚が震えるよ」

 本来長男が家督を継ぐのが正当だが、前領主は人格に問題のあるピエールよりもダニエルの方が領主に相応しいと考えていた。
 そのためにダニエルの地位をあげるため、国に直々に私信を送った。

 しかしそれの勘づいたピエールは書簡が届く前に前領主を殺害し、まんまと領主の地位を確保した。
 これが不幸の始まりだった。

 ピエールの賄賂によって、前領主の送った私信はうやむやにされ、ダニエルはピエールの死を待つ以外に領主になることはできなくなった。
 それがガーミラ侯によってなされたことを利用して、正当に領主の座に着いたというわけだ。

「セトとノーラもお疲れ様!」
「大したことしてないよ」
「私も武具制作の練習ができて、むしろありがたかった」

 探鉱のせいで傷だらけだった孤児たちを健康にさせたのは、セトの魔法だった。
 回復魔法で癒し、更にまともな食事を与え、年相応の健全な身体つきに戻した。

 ノーラは、孤児の探鉱用の武具や工具を作り揃えた。
 時間が無い中でも、手を抜かずどれもきちんと実用に耐えうる出来栄えだ。

 もしガーミラ侯が無作為に手に取ったとしても、騙すために作ったとは思わなかっただろう。
 それほどまでにノーラの鍛冶師としての基本はできていた。

「おいおい。俺らだってがんばったんだぞ」
「そうだぞ。私たちには労いの言葉は無いのか?」
「ああ。ごめんごめん。ジルバとククルもありがとう。お疲れ様」

 ジルバとククルは、孤児の周りで見張っていた者たちを一時的に拘束し、退場願った。
 孤児を健康に戻すためにはそれなりの時間が必要で、どうしてもその間の探鉱は中断させる必要があったからだ。

 その他にもテイラーは自分のツテを使って、町中の者に根回しをした。
 つまりガーミラ侯が来た時になるべく被害が少なくなるようにだ。

 そうでなければピエールを殺され、領民をも殺されてしまった場合、ダニエルはそのままガーミラ侯を帰すのが難しくなってしまう。
 この作戦の肝は、ガーミラ侯にピエール殺させ、特にいさかうことなくダニエルが領主になることだった。

「ミトラには全く頭が上がらないな。改めて礼を言うよ」
「いいえ。ダニエル様が孤児たちを含めて、領民にとっての幸せな領地運営をしていただければと」

「うん。そうだな……それについて一つ提案があるんだが――」
「え!? それは……」



「ようやく約束が果たせる時が来たようだね。ミトラ。いや、ミトラ侯」
「お久しぶりです。ダニエル様」

「様はよしてくれ。君だってもう子爵だろう?」
「いえいえ。それでもダニエル様は伯爵ですからね」

 ダニエルの屋敷に呼ばれたミトラは、恭しく礼をする。
 しかし、今後は立場が逆になるのだと、お互いが知っているのだ。

「クランの方は順調なのかな? 一度顔を出せればと思ったんだが、なかなか難しくてね」
「はい。ジルバやセトがよくやってくれています。それにここの孤児院を出た者達が続々と加入してくれていますからね。今じゃあ、一、二を争う規模ですよ」

「それは良かった。それで、昔の約束。問題ないね?」
「本当によろしいのですか?」

 ダニエルの言葉にミトラは念の為、確認をする。
 あの日、ダニエルが提案した話を一時も忘れたことはなかった。

 ミトラの夢に実現。
 それをダニエルが叶えると言い出したのだから。

「当たり前じゃないか! むしろ待ち遠しかったよ。それにね。実を言うと私には器じゃないと痛感させられる毎日だったよ。今まで持ったのはテイラーを始め、良い部下に恵まれたからだ」
「そう言えるだけで、ダニエル様がここを統治されるのには十分なのでは?」

「まぁ、そう言うな。押し問答してもしょうがないだろう? 書類はここに用意してある。既に私のサインも王の承認もな。後はミトラ侯、君のだけだよ。受け取ってくれるね?」
「ありがたくっ!」

 ミトラはダニエルが用意した羊皮紙にサインをした。
 この瞬間、この街マルメリアを含めたダニエルの領地はミトラのものとなった。

 ダニエルがミトラに提案したもの、それはミトラへ領地と爵位を譲渡するということだった。
 跡継ぎが居ない領主にのみ許される行為で、もちろん国王の承認が必要だった。

 また、譲渡する相手も当然な事ながら誰でもいい訳ではなく、爵位を持つものもしくはその血縁で、かつ領地を持っていない者に限られた。
 それをミトラが満たしたため、この日ようやく約束が果たされたのだ。

「ありがとう。これで肩の荷が降りたよ。いや、今からは敬語を使わないといけないのかな?」
「ご冗談を。それでは、全身全霊をもって、この領地を楽園にすることを誓います!」

「うん。頼むよ。そうだった。忘れるところだ。ククルとの挙式はいつやるんだね?」
「う……何故それを?」

「だって、ほら」
「ミトラ! 私を置いていこうなんてうるさないぞ!!」

 柱の影からククルが顔を出す。
 その顔は口調に似合わず満面の笑みを浮かべている。

「めでたいことが続くな! さて、これからは君が領主だ!! 君の思い描く楽園とやらを楽しみにしてるよ」
「はい! 頑張ります!!」

 こうして、ミトラは孤児たちを含めて住む人に楽園と呼ばれる領地運営を成した。
 妻となったククルとも生涯幸せに暮らした。

☆☆☆

ということで、最後走りましたがここで完結とさせていただきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

合わせて、新作VRを書き始めました。
旧作VRと共にそちらもよろしければお願いします。
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