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6章 人魔戦争編

73話 戦力差は絶望的です

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「おい、それはいつの話だ!?」

 確かに京介は魔人族が攻めてきたときの為に居た訳だが、実際に攻め込まれたと聞くと焦るものがあるな。

 俺は責め立てるように聞いてしまった。

「先程、魔物鳥の速達で届いたものなので、人族の国との距離も考えれば一週間は経っていると思う」

 おいおいマジかよ。俺たちが今から行ってどれくらいかかる?

 俺は地図を取り出し、概算で距離と時間を計算するが、どう考えても十日近くかかる。高速移動出来ない森が邪魔だな、全て破壊するか?

「人族にも魔人族にも、なるべく被害を出さないで欲しいのだが……オサム殿達が辿り着くまでに随分犠牲者が出そうだな」

 クソッ、なんとかならないか!?魔法で時間を……いや……。

「チッ、ここに転移魔石があれば……」

 ふと吐き出してしまった転移魔石という言葉を拾い、獣王が何か思い出したように話し出す。

「代々継がれているのだが……使えない転移魔石ならある。だが、使用方法などは失伝していてな、使い方が分からんのだ」

 なに?

「おい!その転移魔石を見せてくれ」

 獣人族の少ない魔力では無理でも、俺たちが魔力を込めればもしかして……。

 淡い期待を持ち、獣王に案内される。

 城の中にあって、明らかに城とは造りの違う祠のような建物が建っている。人が一人分くらいしか入れない大きさだが、ここにあるのか?

「ここから地下に下りる」

 俺たちは獣王に連れられて祠の中にある階段を降りていく。

 階段を降り、狭苦しい通路を少し進むと、空間が広い部屋に辿り着いた。そしてそこには、よく見慣れた転移魔石があった。

 転移魔石の高さ三メートル程あり、横幅や奥行は二メートル程のダイヤ型の八面体だ。

 俺が所有することになった三つの転移魔石とように思う。

 だが、今までの転移魔石は表面に薄らと透明な部分もあったのだが、この魔石は全てが濃い紫であり、地下の灯り不足もあってとても冷たい印象を受ける。

 俺は転移魔石に触れて魔力を込めてみるが、行先などは浮かばない。

 時間はない、時間はないんだが……コイツを使えるようにした方が早い、という確信めいたものがある。

 どうすれば……。

 俺が考えていると、エリーズと美砂も試すように魔石に魔力を込めている。やはり誰がやってもダメか、魔力の込め方……いや何かスイッチがあるのか……。

「東部様の生体を認証しました」

 は!?

 転移魔石の方から、突然機械のような音声が聞こえ、皆で顔を見合わせてしまう。

 今、東部様って……?

 機械音が鳴った後、すぐに沈黙してしまった転移魔石に触れてみたのだが、どうやら何も反応しないようだ。

 美砂しか使えない?

 美砂に目配せし、もう一度触れるようにお願いする。

「なんか、他の人も使えるようにするかって……。うん、お願い。行先は、その時選択出来るように……うん、それで」

 美砂は転移魔石に触れ、俺がおかしくなったのでなければ転移魔石と話しているように見える。

「なんだか初期設定が必要だったみたいで、頭の中に話しかけてきた通りに設定したんだけど、これで大丈夫だと思う」

「これって……間違いなく東部夫妻が関わってるよな?」

「僕もそう思う……」

 転移魔石は元々穀倉国の秘宝だと言っていたよな。それが各地に……いや違う。
 
 穀倉王の息子オルランド青年が言っていたな。確か『転移魔石は穀倉国アジェロの東にある、砂漠国への入口で発見された巨大な魔石です』だったか……?

 東にある砂漠。

 東部にある美しい砂漠?東部美砂……?

 東部夫妻が言ったとされる『終の住処は娘と共に、私たちの運命の場所を見つけた』というセリフ。

 おいおい、偶然にしては全ての話が繋がりすぎだろ……まさかそういうことか?

 美砂はまだ気付いていないか、可能性は高いけど今はこれ以上混乱させる訳にいかないな。それに砂漠のどこかってのもまだまだ範囲が広すぎる。

 俺が改めて転移魔石へ触れると、脳内に行先が明示される。うん、今までと全く同じように使えそうだ。

「行くのか?」

 獣王が真剣な顔で聞いてくる。

「ああ、危険なら助けたい奴もいるからな」

「戦争なんだ。難しい願いなのは分かっているが、人族にも、魔人族にも……どちらもなるべく被害が出ないようにしてくれ」

「黒の使徒への対策……か。分かった、可能な限り死者が減るようにするけど、何万という軍勢だからな……俺たちだけで出来ることも限られるけどな」

「大丈夫だ。オサム殿の出来る範囲でやってくれれば、それだけで問題ないだろう」

 買いかぶりすぎでは?
 
「じゃあな、今度はルウを連れてきてやるよ」

「それは是非頼もう。オサム殿は我が国の英雄だ、いつ来ても構わんぞ」

 俺たちは転移魔石を発動してルロワ王国へ帰還する。辺りの景色が揺れ始め、立ちくらみでも起きそうになるこの感覚は何度やっても違和感があるな。

 揺れていた景色が元に戻ると、俺たちは王国の豪華絢爛な一室に転移していた。

 あれ?以前見た個室感丸出しの場所じゃないけど……ここはルロワ王国で間違いないよね?

 前回と違って誰も迎えが来ないので、俺たちは勝手に部屋の外へ出る。この廊下は……確かにルロワ王国っぽいけど、人の居ない静けさが不気味だな。

「おおお、熊井様!もう戻られたのですね!?」

 ロアの感知で人が沢山いる方へ歩いていると、ジハァーウ宰相と出会でくわした。

「ええ、実は獣人国にも転移魔石があったので直接帰ってきたんですよ」

「な……なるほど。それはそれで対策が必要なのですが……」

 ああ、獣人国が転移魔石で攻めてくることを想定しているのかな?

 どうやら転移魔石は人が少ない区画に置いたみたいだな、まあ転移魔石を帝国にも置かせて貰った訳だからその対策なんだろう。
 
「獣人国の件は……先々を考えれば何か文章でも交わした方がいいかもしれませんが、ひとまず大丈夫ですよ。それより、戦況はどんな感じなのでしょう?」

「かしこまりました。説明致します、謁見の間に来て下さい」

 俺たちは謁見の間へ移動すると、こちらは人の出入りがとても多く、執事やメイド、鎧を着た騎士達が入っては出てと大変忙しなくしている。 

 謁見の間で話しを聞くと、魔人族は四万人で攻めてきているそうだ。

 賢音が魔王になっていると思っていたんだけど……違うのかな?流石にアイツが人間を滅ぼそうとしているとは思えないんだよな。

 魔人族に対する人間国の戦力は、ルロワ王国から三万人、アドルファス帝国から二万人が参戦しているとの事。

 ナーヴェ連合国からは距離が遠く、麻薬騒ぎの復興が済んでおらず人的支援が難しいため、食物や水などの支援に従事しているそうだ。

 人間五万人と魔人族四万人か。

「数だけ見れば余裕がありそうだよな?」

 俺は情勢や大規模戦略など分からないので、素人意見で皆に確認する。

「正直、絶望的と言えるレベルですわ……」

「「え!?」」

 俺と美砂が驚いていると、エドモンも頷く。

「魔人族の兵士は最低でもCランク相当はありますわ、つまり最低でもオークレベルですの……」

 エリーズの説明をエドモンが補足してくれる。

「対して人族は、Cランク相当と言えば騎士の上位レベルに相当しますね。オサム殿と出会った頃の私です」

「なるほど、上位ってくらいだから五万人の内……」

「恐らくCランク相当の実力を持った騎士は全体の二割、人数では一万人程度ですわ」

 それはまた……なんとも絶望的だな。

「Dランクの騎士四人でCランク相当とすれば、人族側の人数はCランク換算で実質二万人程度ということになりますわね」

 魔人族が全員Cランクとしても倍の人数か。

 エリーズの戦力まとめを聞き、覆しようのない戦力差に目を眩ませていると、ジハァーウ宰相が現況をまとめる。

「そうなのです。Aランクパーティの冒険者などもおり、なんとか戦線を維持出来ていますが、正直時間の問題かと……」

「戦線の場所は?」

「この王都から北へ行ったマニフィック平原です。王弟領に含まれる土地ですが、緑と湖がとても美しい平原ですね」

 まあ戦地になってしまった訳だし、その美しい平原とやらはこれで見納めとしても、王弟領ってなんだったか……。

 あ、ヘパイストス遺跡があると睨んでる場所か!

 そういえば魔法少女は……いた!あんなに堂々と立っているのに意識しないと全然視界に入らなかったぞ。やっぱり認識阻害を受けているんだろうな。

「ロア、あの魔法少女が見えるか?」

 俺はロアにだけ聞こえる声で話しをするけど、そういえば心の中で喋ればいいんだったわ。

「どうかした?」

 アイツはなんだか分かるか?

『なんだかって……、オサムより上位種?』

 人間じゃないのか?

『人間じゃないねぇ、魔素密度キモいもん。あれ一人で精霊の楽園くらいあるんじゃね?』

 おうう……比較対象が土地っていうレベルなのね……。

 まぁ一旦おいておこう。

「獣王からの依頼だとな、人間にも魔人族にも被害を出さないようにして欲しいそうなんだが、どうしたらいいと思う?」

 俺は誰にともなく議題を投げかける。

「正直難しいと言わざるを得ませんが、今は小競り合いを数度行っている程度でどちらも被害者はほとんど出ておりません。現場の皇帝、つまり剣聖様の意見では、まだ敵が本気じゃない様子だということです」

 なるほど、何かをキッカケに本気になってしまう前になんとか出来ればいいんだが……。

「現場での裁量は全て皇帝が握っておりますので、戦略に関することでしたら、皇帝と直接お話しされるのがよろしいかと」

 確かにな。

 ここにいても何も変わらんし、現場の細かい状況はここまで入ってこないだろうから、さっさと戦場へ向かうか。

「遺跡へ行け」

 俺が謁見の間を出ようとすると、もう聞きなれたダンディな声が聞こえた。ため息をついて振り返ると、魔法少女は『ポヨッ』と小首を傾げている。

 今まで何度も謁見の間を出入りしたのに、何故今になって?

 魔法少女関連は謎だらけだが、どうせ考えても分からないので、諦めて出発することにした。
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