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5章 獣人国編

69話 準決勝の決着です

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 エドモンの初戦が終わったのもつかの間、その後も一回戦が続く。

 ――本戦二試合目。
 黒ラーテルのガイと狼獣人の戦い。

 終始オラついている黒ラーテルだが、狼獣人は不格好に逃げ惑うように攻撃を避け、避け様に上手いこと攻撃を当てるカウンタースタイルのようだ。

「ホークス!相変わらず逃げ腰狼だぜ!兇猛の黒ラーテルが、果敢に攻めるがそのことごとくを躱しているぜ!」

「三連獣のガイは名前負けカバァ!あんなチキン狼はさっさと倒して欲しいカバァ!!」

 獣人にも、あんなに逃げ腰な奴もいるんだな。逃げ腰だと嫌われるのはイメージ通りではあるけど、アイツの見た目以外どの辺に狼の特性があるんだ?

「ホッホークス!なんってクソみてぇな試合だ!獣人の風上にもおけねぇチキン狼が、この国の幹部に勝っちまったぜ!これで黒い三連獣の二人が初戦敗退だァァァ!」

 確かに、一試合目と違って冴えない試合だったなぁ。終始逃げ腰だった狼獣人の顔を逸らしながら放った前蹴りが、黒ラーテルのお腹に上手く当たってトドメになったようだ。

 黒ラーテルはもう黒い三連獣とか名乗るのをやめた方がいいんじゃないか?黒熊との強さも離れすぎだろう。

 ――本戦三試合目。
 象獣人とゴリラ獣人の戦い。

「ホークス!棒術使いの象獣人と握撃のゴリラ獣人はどちらが強いのか!」

「熱い戦いがみたいカバァ!お腹減ったカバァ!」

 棒術使いの象獣人が棒術と鼻で果敢に攻める。ゴリラ獣人は何を狙っているのか、微動だにせず叩かれながらもジッと象獣人を見つめている。

 ゴリラ獣人が動いたかと思えば、象獣人の鼻を両手で掴み、振り回そうとしているのか足を引いた。

「ホークス!象獣人も、鼻を掴んだゴリラ獣人に鼻を絡ませピクリとも動かなくなったぞ!これは手に汗握る展開だが、一体どういう状態なんだ!?」

「力が拮抗している綱引きの状態カバァ。気を抜いた方が、相手に振り回されるカバァ」

 しばらく拮抗した後、象獣人が自慢の鼻でゴリラ獣人を振り回し、何度も地面に叩きつけると、試合は終了した。

「ホークス!これは熱い戦いだったぜ!前回初戦敗退の象獣人が初の準決勝進出だァァ!!」

 ――本戦四試合目。
 黒豹のマシとサイ獣人の戦い。 

「ホッホークス!黒い三連獣最後の出場者になっちまったが、瞬影の黒豹マシの登場だぜ!!相対するのはブチカマシのサイ獣人だ!」

「前回圧倒的な強さを誇った黒い三連獣が誰も残らないのは寂しいカバァ!でも、時代の移り変わりも見てみたいカバァ!」

 解説の葛藤はよく分からないが、サイ獣人のブチカマシが黒豹に当たる機会は訪れず、試合は一方的であった。

 黒豹は一度だけブチカマシを避けると、高速移動を続けたまま一方的に攻撃を加え続け、いよいよ立っていられなくなったサイ獣人が降参した。

「ホークス!見ろお前ら!これが黒い三連獣の強さだッッ!そう言わんばかりの圧倒的な勝利だったぜ!!準決勝でも不甲斐ない他の幹部共に見せてやれェェェ!」

「今日から黒い三連獣の最強は、瞬影の黒豹カバァ!!」

 コイツらアレだな。黒い三連獣のことが大好きで、むしろ誇りにすら思ってるんだろうな。だから不甲斐ない結果に終わるとボコボコに言うし、司会とか解説のくせに公平性の欠片もないんだろう。
  
「ホッホークス!今大会はなんという大波乱だァァァ!準決勝に残った四人の内、黒い三連獣は一人だけ!牙狼と無慈悲は初出場で準決勝進出だァ!」

「準決勝進出者を整理して欲しいカバァ!」

「ホークス!準決勝に進出した漢たちを紹介するぜ!黒い三連獣から黒豹のマシ、棒術使いの象獣人、牙狼の狼獣人、無慈悲のエドモンだ!」

「新顔ばかりで、この後の戦いも楽しみカバァ!」

「ホークス!出場者にとって一番の壁となるのは、本戦が終わるまで回復出来ない過酷さだ!初出場の奴らは慣れてないだろうが、早速準決勝が始まるぜェェェ!」

「初戦は誰カバァ!」

「準決勝の初戦は、象獣人と黒豹マシの戦いだァァァ!!!」

 ――準決勝一試合目。
 象獣人と黒豹の戦い。

 展開はサイ獣人の時と同じだった。象獣人の攻撃が当たることは無く、終始黒豹が攻撃を当て続け勝利した。

 あの黒豹は確かに速いな。オーバーライドを発動した仲間達と同じくらいの速さがあるかもしれない。

 こうなると、魔力を切らしたエドモンでは黒豹に勝つのは難しいかもしれないな……。

「ホークス!勝者ァァァ黒豹マシィィ!こんなに安定している試合運びはなかなかないぜ!今大会、スイッチが入ったような強さを発揮し、二大会連続で決勝進出を決めたァァァ!!!」

「黒い三連獣は流石カバァ!」

「ホークス!次も注目カードだァ!黒い三連獣最強である剛力の黒熊テガに勝った無慈悲のエドモン!相対するのは、兇猛の黒ラーテルガイに勝った牙狼の狼獣人だァァァ!」

「チキン狼はここで負けるカバァ!あんな戦いは決勝に相応しくないカバァ!」

 ――準決勝二試合目。
 エドモンと狼獣人の戦い。

 エドモンの魔力は少しだけ回復しているようだが、見た感じ通常の身体強化を維持するだけで精一杯だろう。

 オーバーライドは使えて一瞬、替えの剣も使ってはいけないようだし、一撃にかけるしかないだろうな。

「ホークス!無慈悲のエドモン、黒熊テガと戦った時のキレがないぞ!時間制限のある技だったのか、狼獣人も動きを合わせる、ここは互いに様子見か!?」

「良く考えれば、我々獣人と筋肉の付き方が違う人族であの動きは異常カバァ!もしかすると、剛力の黒熊との戦いは結構ギリギリだったのかもしれないカバァ」

「ホークス!狼獣人は相変わらず自分から仕掛けない!逃げながらのカウンター狙いか、反吐が出るぜ!!」

 とはいえ、逃げながらカウンターが当たるんだから大したもんだろう。

 エドモンが俺の予想通り一撃にかけることを考えているなら、攻撃を避ける前提で考えている狼獣人は天敵に近い相手だ、これは厳しい戦いになるな。

 お互いに付かず離れず、エドモンが間合いを詰めれば、狼獣人が間合いを空けるやり取りが続く。

 なかなか焦れったいが、切っ掛けがないと難しいな。

 そう思った時、狼獣人が闘技場の凹みに足をとられて体勢を崩すをした。

 エドモンが堪えきれず狼獣人へ迫る、誘い込まれたか!

 エドモンが低い姿勢で狼獣人に接近すると、待っていましたと言わんばかりに、狼獣人は崩した体勢からアッパーで反撃に出る。

 エドモンはそのアッパーを上体のスウェーだけで避け、全力のカウンターパンチを決めに行く。

 これは決まったか!流石エドモン!サスモンだぜ!

 と思った瞬間には、最高のタイミングだったはずのエドモンのカウンターパンチを避けた狼獣人が、エドモンの顔に肘を入れた所だった。

 エドモンはその場で崩れ落ち、動かなくなった……。

「ホッホークス!またしても、またしてもお前か牙狼!!しかし逃げ腰だった前試合とは打って変わって、まさに火花が散るような一瞬の超攻防!コレだ、コレが大会のあるべき姿だァァァ!!」

「狼獣人は自分のカウンターが避けられる前提で組み立てていたカバァ!チキン狼のくせにインファイトで一枚上手だったカバァ」

 まあエドモンが調子が万全では無かったとはいえ、いい勝負であったことは認めよう。

「エドモン、負けちゃったのです」
「惜しかったね、相手も強かったからね」

 うむうむ。あとはエドモンが闘技場の外に……。

 …………。
 
 おい、あの狼。今、動けなくなったエドモンに蹴りを入れたか?

「ホッホ、ホッホークス!!!牙狼の狼獣人、三大屈辱の一つ、禁忌とも言うべき死体蹴りだァァァ!!そこまで堕ちるかこの外道野郎ォォォ!!!」

「恐らく、三大屈辱を二つも実行した無慈悲のエドモンへの意趣返しカバァ」

 ハァ?イシュガエシ?ナニ?シヌノ?

 脳は必死に状況を理解しようとするが、それを拒絶するほど爆発的な殺意が津波のように押し寄せてくる。だめだ、抑えられないし、抑える意味も分からん。

 俺はオーバーライドを発動して、狼獣人の前に立ちはだかり、エドモンの顔を踏み潰そうとしている狼獣人の足を止めた。

「ホッホ、ホッホークス!乱入だ!乱入事件だ!!エドモンの仲間だろうか……、ん?出場者?特級?」

「あの人族は出場者カバァ?」

「ホッホッホッホッホ……ホークス!!!なんと!無慈悲のエドモンを助けに乱入した人族は特級参加証を持つ熊井ィィ理ゥゥゥ!!!」

 うるせぇよ。

「お前、殺すわ」

 俺は目の前の狼獣人に対して殺害予告をする。

「はぁ、誰だお前は?特級許可証?知るか、勝負の最中に割り込んできやがって、テメェは失格だボケ」

 ふてぶてしい狼獣人は、俺を挑発するように自らの顔を崩し、大袈裟な仕草で揶揄してくる。

「そうか、最後の言葉はソレでいいな?」

「待つニャー!」

 俺が狼獣人とお別れしようとすると、黒豹も闘技場へ上がってきた。

「貴方の出番は決勝の後ニャー。それに、ニャーがいるからソイツが勝つ事は無いニャー」

 コイツもニャーニャーうるせぇな。

「おい猫。お前、棄権しろ」

「ニャニャ!ニャンていう濃密な殺気ニャ。だけどダメニャー、大会を壊さないで欲しいニャー」

 くそっ。

「クソ狼、遺書は書いておけ。この猫に勝とうが負けようが、今日がお前の最期だ」

 俺はそう言い残し、エドモンにヒール魔石を発動して回収する。

「ホッホークス!あー、よく分からねぇやり取りはあったが、割り込んでエドモンを守ったってのは間違いねえ!つまり、牙狼の狼獣人が決勝進出だァァァ!!!」

「決勝は狼獣人と黒豹の戦いカバァ!!」
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