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5章 獣人国編

66話 獣人国の武道大会が開幕です

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 謁見の間で獣王との話しが済んだので、俺たちは熊のはちみつ亭に帰る。観光の前に推薦参加者を決めちゃおう。

「という訳で、俺の参加は問題ないんだけど、一人推薦していいんだって、誰か参加したい?」

 軽めにお昼ご飯を食べながら、皆で打ち合わせ。この後は食べ歩きが待ってるからな、お昼は軽食で済ますんだ。

「僕は遠慮しようかな」
「私は出たいですわ!」
「リオンも戦いたいのです!」
「私も力は試してみたいですが、お任せします。私の任務は護衛ですから」

 美砂以外は参加希望か、俺の仲間は戦闘狂ばっかりだな。

「オサム、類は友を呼ぶって諺があるらしいよ」

「な!?一体そんな言葉をどこで!?」

「オサムの頭の中で」

 俺の深層心理だと!?戦うのは好きだけど、自分が戦闘狂だなんて思ってないぞ!

 それより、誰がいいだろう。

「まず申し訳ないけど、倫理的に五歳児は出せないだろ。リオンはつまらないかもしれないけど、美味しいもの沢山買って、一緒に観戦しような」

「むぅぅ、美味しいもの食べれるなら我慢するのです……」

 なんていい子なんだろうか。リオンの頭を撫でながら、抱きしめてあげる。

 後はエリーズとエドモンだけど……。うん、決めた。

「エドモンを推薦するよ。これで恩を返し終えたとは言わないけど、エルフの里で助けて貰った恩返しもしたい」

「恩など……私が……」

「エドモンはそう言うだろうけどさ、いつも助かってるんだよ?特にエルフの里では命をかけて俺たちを助けてくれた訳で、本来ならエドモンの恩返しは済んでると思う。むしろ……」

「麻薬の離脱症状はツラいけど、命に関わるほどじゃないからね。普段お世話になっているだけじゃなくて、命まで助けて貰ったら僕たちの恩の方が大きいよ」

 その通りです。

「エリーズに世話になってないって話しじゃないんだ。エドモンが参加したいならさせてあげたい、今回は譲ってくれるかな?」

 俺はエリーズに確認する。

「そんな言い方をされたら断れないではありませんか。私だって助けられたら一人なんですわよ!」

「ありがとう、それじゃあエドモンにお願いしよっか」

「ありがとうございます」
「エドモンさん!頑張ってね」 
「負けたら許しませんわよ!」

 参加者も決まったので、俺たちは街に繰り出し観光を楽しんだ。獣人国全土から強者を集める武道大会は、国としても一大イベントのようで、既に出店などが沢山出ている。

 普段見かけないような面白いものも探したいけど、当日観戦席で食べるものにも目星をつけておかないとな。

 ――数日後。

 武道大会の予選が始まった。

 どうやら本戦出場は八名のみ。その上、黒い三連獣と呼ばれる国軍の幹部三名は本戦出場が決まっているらしい。

 つまり、残りの五枠をかけた予選になる訳だが、参加者が百名を超えるそうなので、本当に大規模な大会だったみたいだ。

 エドモンは選手の控え室に向かったが、俺たちは観客席に座って改めて武道大会の内容を確認する。

 まず場所はコロッセオ、選手達は四十メートル四方の闘技場で戦うため、この観客席も高さがあって闘技場を一望出来るような作りになっている。

 大会説明を見ると、武器の制限などもなく、目潰しや噛みつきなどの急所狙いも可、本当に何でもアリである。

 いわゆる格闘技のバーリトゥードを更に激しくしたものだ。もちろん体重は無差別、時間制限や判定勝敗もない。

 勝敗を決めるのは、選手が死んだ場合、降参した場合、闘技場以外の地面に立って十秒経過した場合のみ。

「なかなか過激だね」

「ああ、殺すのもオッケーとか……。獣人って野蛮だな、リオンやエリーズを参加させなくてよかったよ」

「私も流石に殺し合いは遠慮しますわ」

「ホークス!レディース、エーンド、ジェントルメン!長らくお待たせしました、これより武道大会が開幕するぜ!」

 どこからか、会場に声が響き渡る。観客席は喧騒に包まれていたが、アナウンスが鳴ると同時に静まったため、会場中に響いているのだろう。

 拡声器の技術でもあるんだろうか?

「ホークス!本日司会進行を担当する、お馴染み鷹の目ホクだ!今年の大会も最っ高の漢たちが集まってる、その最高の野郎どもを解説するのは、過去に本戦出場も果たした大顎のバオだ!」
 
「お腹減ったカバァ!」

 カバ〇君じゃねぇか!?

 てか二つ名が大顎なの?身体的特徴を名前にするのは良くないと思います。

 ていうかホークスホークスうるせぇな。 

「ホークス!さあ、野郎ども!肉の準備はいいか!?しばらく買いに行く暇なんてねぇぞ!第一組の予選開始だー!!!」

 司会の合図と共にクラッカーのような、花火のような破裂音が鳴り、予選が開始された。

 なんかめちゃくちゃお祭り感あるじゃんか、これは楽しそうだな!

 闘技場には……、十八、十九、二十。二十名の選手達が立っており、互いに攻撃を仕掛け始めた。

「ホークス!今回の予選は百名の漢たちを五チームに分けて、二十名ずつのバトルロワイヤルだ!最後まで残った一名だけが本戦出場出来る、勝者は誰だァ!」

「前回本戦出場まで行った棒術使いの象獣人がいるカバァ!全員警戒しているようだけど、皆で襲いかかるモヤシ戦法を使わないと勝ち目はないカバァ」

「ホークス!さぁ、既に脱落者が続々、第一組からめちゃくちゃ白熱しているぞ!しかし解説の言う通り、象獣人の棒術に一体一で挑み次々とやられていくゥゥ」

「象獣人の棒術は一級品カバァ。必殺である鼻攻撃も使わず、余裕で捌いているカバァ」

「ホークス!また一人、二人と減っていくぞ。残り六人、そろそろか?象獣人を除く五名が目を合わせて……キターッ!モヤシ戦法だ!!」

 いやいやモヤシ戦法って……。バトルロワイヤルなんだから何やったって自由じゃねえか。

 なんで整列して順番待ちしてまで一体一で戦ってんのコイツら。

「ホークス!獣人の癖にモヤシ戦法なんて使い始めたテメェら!誇り高き獣人の血に逆らってまで勝利を渇望する、その決意天晴あっぱれだぜ!」
 
 お前ら……もうバトルロワイヤルとか向いてねえからやめちまえよ。

「ホッホークス!第一組、予選を突破したのはァァァ、棒術使いの象獣人!!!」

「順当カバァ。やっぱり本戦出場経験者は圧倒的カバァ」

「ホークス!さあ続いて第二組だ!」

 ――予選は順当に進む。

 見ていて分かったのだが、まず獣人にはほとんど名前が付いていないらしい。そして、本戦で一回勝つ、つまり四位までに入れると獣王から直接名前を貰えるそうだ。

 そしてその名前は二文字だということ。確かに思い出してみれば、出会った獣人はほとんど全てが二文字の名前だったな。

 以外は……。

 とはいえ、リオンに獣人の血が入っていないとは考えづらい。耳や尻尾もあるしな。ロアが言っていた通り、獣人族と魔人族のハーフというのが一番現実的なラインだろう。

 俺をパパとして認知させ、預けて旅をさせる意味はまるで分からんけど……。

「ホークス!さあ最後のひと枠を懸けた、第五組が始まるぜ!」

 ようやくエドモンの番だ!

「エドモンぶっころなのです!キャッフー!」

 リオンのテンションが爆上がりだ。途中少し眠そうにしていたけど、今は片手に肉を持ち、立ち上がって叫んでいる。

 獣人の血が騒ぐのかな?楽しそうで何よりだ。

「この組には、前回獣王様から名前を授けられた死回遊デスロールのダイがいるカバァ。強力な噛みつきに回転して引きちぎるような必殺技で、前回も命を恐れぬ獣人が何人も死んでいるカバァ……」

「ホークス!死を恐れぬ漢たちの戦いを、死してなお語り継ぐのは観客の役目!テメェら眼ん玉ひん剥いてよ~く見やがれぇ!!」

 おおう。なんか死者が出る前提で進んでやがるぜ。エドモンは無事だろうけど、あんまり血なまぐさいのはリオンに見せたくないなぁ。

 エドモンなんとかしろ!

 あれっ?目合った?
 
 ――*――
 予選第五組が開始した頃。(エドモン視点)

 さて、始まったか。

 それにしても、あのワニ獣人のダイだったか、控え室でも他の獣人たちを煽っていてあまりいい気分では無かったな。

 それに、殺す殺すと口だけだと思っていたが、先程の解説を聞くと本当に命を奪いに来ているようだ。

 あまりリオンに見せたくないが……。今、オサム殿と目が合ったか?

 どうやら考えている事は同じなようだ。やはりオサム殿は優しい心を持っている、自分が子供の父だからこそ分かる。

 さて、あのワニ獣人はどこに……いた。

「ホークス!死回遊デスロールのダイの周りだけ、ポカンと空間が空いてしまっているぞ!誰も強者に挑む覚悟は出来ていないのか!」

「本戦出場経験者にはモヤシ戦法でいくしか無いカバァ。決して臆した訳では無いカバァ」

「なるほど……、おおおっとォォ!一人ゆっくりと歩いて死回遊のダイの下へ向かっている、アレは人族エェェェドモォォォンッ!!」

 自分が強くなるまで考えもしなかった。こういう風に注目されながら、解説されながら表舞台で戦うのも悪くない気分なんだな。

 ふふふ、これじゃあ戦闘狂のオサム殿みたいじゃないか。

 自分の口角が釣り上がった事に気づき、慌てて元に戻す。

「なんだテメェは?自殺志願者か?」

「ええ、死ぬ気はありませんが、本戦出場経験者に是非お手合わせをお願いしたく」

「グハハ!人族のくせに面白ぇ奴だ!獣人よりもよっぽど獣人らしい精神を持ってるぜ、それを誇りに……死んでいけッ!!!」

 ワニ獣人は口を大きく開き、身体を地面と平行になるよう伸ばし、口から飛び込んでくる。

 食らってみようか。殿はこんな程度の攻撃はしてこない。

 逆にこの程度の攻撃を恐れていては、本気のオサム殿に挑む資格などないということだ。

 さて、どれほどのものだろうか。
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