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2章 ナーヴェ連合国編

31話 いつの間にか英雄です

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 俺たちは深夜から夜通し戦っていた訳だが、暗殺者が千人いる街で安心して眠る訳にもいかず、一度水国へ帰ることにする。

 来る時にゆっくり見られなかった大瀑布をしばらく眺めていると、改めて心のモヤが晴れたような気がした。

 滝を見た後、俺は馬車の中で爆睡だったらしい。気づいた時には二日近く経っていたようだ。

 更に数日で穀倉国へ到着し、穀倉王と共に水国へ転移した。

「お帰りなさい」
「改めて、お帰り。良く無事に帰ってきた」

 水国王と穀倉王が笑顔で迎えてくれる。

「それで、滝国カスカータはどうでしたか?」

 俺は、滝国であったことを全て包み隠さず共有した。既に住人はおらず、暗殺者の街になっていたこと、降魔薬研究所での研究内容や、触手魔人がいたことなどだ。

「そうでしたか、やはり壊滅状態ですか」

 予想はついていたようだ。そうだな、滝国を飛ばして、穀倉国を狙うのは難しいからな。

 水国王と穀倉王は目を合わせ頷き、俺に頭を下げてくる。
 
「私たちナーヴェ連合国は、ルロワ王国の庇護下に入りたいと考えています。滝国を除く四カ国は既に合意済みです。オサム様を介して、ルロワ王国へお取次ぎ願えませんか?」

 そうだな。穀倉国の次は間違いなく水国だったろうし、砂漠国アルバニアは行ったことないが、対岸の火事とは言えない状況だろう。

「政治のことは分からないけど、ルロワ国王に会えるようにする所までは約束しますよ」

「感謝いたします」

 水国王と穀倉王は改めて頭を下げてくる。

「それで、転移魔石はもう王都へ通じてるんでしたよね?」

「ええ、繋がっています」

 思えば随分久しぶりだな。召喚されてから半年も経っていないと思うが、本当に濃厚な日々を過ごしたと思う。

「じゃあ行ってきます。会見の許可がとれたら報告に来ますね」
 
 俺たちは転移魔石を発動し、道なりで四千キロ程離れている王都へ、体感では一瞬のうちに到着した。

 ここは?

 辺りを見回すと、豪華な待合室のようだ……。

 入口にいた騎士が驚いた顔をしている。

「く、熊井理殿でお間違いないでしょうか!よろしければ身分証を拝見します!」

 胸に手を当て、敬礼のような形で尋ねてくる。

「はい、間違いありません」

 俺は騎士さんに身分証を渡すと、そのまま謁見の間へ連れていかれた。

 召喚された時と変わらず、ルロワ王が話しかけてくるのだが……なんか随分下手に来るな。

「英雄熊井殿、良くぞお帰りになられた」

「英雄……ですか?」

「お話しはかねがね聞いておる、国境王や水国王、穀倉王からも手紙が届いていてな」

「あー、その事なんですが……」

 俺は諸々の出来事を報告し、ナーヴェ連合国との会見を依頼した。

 そこからは大忙しで準備が進められ、俺たちも軟禁状態で手伝いをしたことで、なんとか一日で全ての準備を整えることができた。

 会見の準備も整ったので水国王に共有し、後は王様同士の話しになるとのことで、俺たちはようやく解放された。

「二人ともお帰り!」

 黒髪の長身イケメンが手を振りながらこちらに走ってくる。なにかキラキラエフェクトまで見えてきそうだ、ドルオタ女子なら失神案件だな。

「ただいま、京介」 
「ただいま!」

「二人の噂は沢山流れて来てたんだ、後で詳しく聞かせてくれよ!」
 
「もちろん。京介は刀鍛冶を習ってるってことは聞いたけど、今までどうしてたんだ?」

「ああ俺はな、今はようやく鉄を叩かせて貰ってるんだ!」

「それにしても京介はそんなに刀が好きだったんだなー」

「刀も好きだけど俺が本当に好きなのは孫六兼元なんだよ、尖り互の目の三本杉が綺麗なんだよなー」

「尖り互の目?」 

「刀の刃文だよ。刃文ってのは直刃と乱れ刃に大別されるんだけど、俺は乱れ刃の特に互の目が好きでね!まぁじいちゃんの影響でもあるんだけどさ」

 どうやら押してはいけないスイッチだったようだ。京介が止まらない……。 

「それでな?この互の目の頭が乱れて連なってるように見える刀って意外と無くてさ、見かけたら兼本の系譜を継いでいると言っても過言じゃないんだよ!」

 京介は目を輝かせ、夢を語る少年のような顔で、刀鍛冶の事を教えてくれた。京介も立派なオタクだったんだな。
 
「じゃあ勇者は現代人で、兼本の系譜で刀鍛冶が出来て、味噌を作れる人ってことだな」

「味噌?」

 あ、そうか京介はまだ知らなかったか。

「水国マルクスって所に勇者定食ってのがあってな、ご飯と味噌汁があったんだよ。ご飯はこっちに送って貰うようにお願いしてるから、そのうち京介も食べられるぞ」

「マジで!?やった!お米だ!」

「ね、ねえ二人とも?」

 美砂が何か躊躇したいのを振り切るように話しかけてくる。

「どうした?」

「オサム君あのね、召喚当日のことって覚えてないかな?」

「覚えてるぞ?」

「そ、そうだよね……」

 どういうことだ?質問の意図が分からん。

「ああ、もしかして思い出したんだね?」

 京介には美砂の言いたいことが伝わっているようだ。一体何の話しだろうか?

「俺が代わりに言うよ。まず結果からいうと、俺たちは死んだんだと思う」

「えっ!?」

「……」

「俺は学校に行くためにバスで最寄り駅へ向かってるんだけど、あの日の朝は、あと少しで小泉学園駅だったんだ」

「京介君は最寄りが小泉学園だったんだね」

「あと少しだった、というのは?」
 
 気になってしまい、話しを急かす。

「まだ脳裏に焼き付いてる……。大型トラックが突っ込んでくるのが窓から見えて、大きい衝撃の後、気づいたら身体に鉄骨とかが刺さってた。そのまま意識をなくしたから痛くは無かったんだけどね」
 
 京介は少し震えながら当日起きたことを説明してくれた。

「京介が召喚当初に変だったのは、それを覚えてたからなんだな……。辛いところ悪いけど、どうして俺や美砂も死んでいると?」

「トラックがバスに突っ込んで来る前に、女の子をはねたんだけど、多分……」

「その女の子が僕かもってことだね?」

「横顔しか見えなかったけど制服は同じだし、髪型とかカバンは同じだと思う。それに二人がそうならあと一人も……」

 そういうことか。三人召喚されて、俺一人だけ死んでない意味が分からんし、多分そうなんだろうな。そうか俺死んでたのか。

「うん。あそこから自転車で通ってるのは僕だけだろうから、自転車で同じ制服の子はいないと思う。それに、そう、トラックが迫ってくる映像は思い出してたんだ……」
 
 頭で整理しながら、しずくの目からはポロポロと涙が零れ出す。

「そっか……。やっぱり僕死んじゃってたんだね」

 涙がこぼれ出した美砂を見て、京介からも涙が溢れ出す。手で顔を覆うようにして震えている二人を抱きしめてあげる。

「ごめん」
 
 しばらくそうしていると京介が謝った。

「何に謝ってんだ、むしろ辛いことを思い出させてごめんな」

 どれくらい時間が経ったろうか。二人が少し落ち着いた所で話しを進める。

「京介が気にしたのは、転送ではなく、転生ってことだね?」

「うん」

「どういうこと?」
 
 美砂が目を赤くし、鼻をすすりながら聞いてくるので、続けて説明する。

「つまり、事故の被害者の身体が消えてしまうような不可解な現象になっていない限り、俺たちの身体は火葬されてるってことだ」

「あっ」

「もし戻れても、戸籍とかがどうなるか分からないから、元の生活が出来るかは分からないってことだ」
 
「そうかも……ね。そういえばさ、オサム君は死んでないんじゃないかな?」

「なんでだ?」

「遺跡でさ、不破さんの字で『この世界で再構成されると……』ってあったでしょ?僕それで気付いたんだ」

「そうか、その可能性は有り得る。俺が魔法を使えない理由はこの世界で構成された身体じゃないからか?そして転移者だけが封印の間に入れると。つまり転移者は女神と敵対するものか?」

「遺跡に封印されているのは邪神の眷属な訳だから、敵対関係にある女神がオサム君を呼んだとは考えづらいよね」

 別の目的で同時に召喚されたのか、俺が巻き込まれたのか、京介と美砂が巻き込まれたのか、可能性は三通りだな。

「まあ、これについては考えても埒が明かないだろう。遺跡を巡れば自ずと分かりそうな気がする」

「そうだね!」

「それより、旅の一番の目的は変えず、地球に帰る方法を探すってことでいいのか?」
 
 自分たちがこの世界で再構築されている事を思い出し、京介と美砂は黙り込んでしまった。

「帰りたい……。おばあちゃんが僕のことを一人で育ててくれたんだ。無事ではなかったけど、楽しくやってるよって伝えたい。大丈夫だよ、って言ってあげたい」

「俺も、家族はそんなに接点無かったけど、やっぱりじいちゃんには会いたい。異世界にも孫六兼元があったよ、打てるようになったよ、って教えて自慢したい」

「よし、じゃあやっぱり地球に帰ることをゴールにしよう。まだ方法は分からないけど、人間が到達していないエリアに何かあるかもしれない」

「俺はここから離れられないから、二人とも頼んだ!」
 
「うん、オサム君と頑張って見つけてくるよ!」

「じゃあ旅の目的は変わらず、地球に帰る方法を探しながら、念の為安住の地を見つけることだな」

「それに、遺跡を巡ることと地球人の痕跡を追うこと、だよね?」

「ああ。しばらく王都でゆっくりして、それからまた出発しようか。今度は……どこに行こうかね」
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