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2章 ナーヴェ連合国編

29話 渡る世間は敵ばかりです

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 街並みを見て分かったが、滝国カスカータの規模はかなり小さめで、遠目に見える城も屋敷と言えるほどの規模のようだ。

 だけど……なんだろう?

「なあ、なんか住人が少ないというか……声はよく聞こえるけど閑散としてないか?」

「そうだね。街の規模も小さいと思うけど、それにしても……」

 言語化出来るほどではないが、何か小さな違和感を感じながらも、俺たちは宿屋アナトラポッロに到着した。

「いらっしゃいませ!」

 宿屋に入ると連動した鐘が鳴り、奥から女将さんが慌てて出てくる。

 うん、建物内は古民家みたいで悪くないな。

「三部屋頼みたい」

「すみません、予約で埋まっていまして、四名で一つの大部屋になってしまうんですがよろしいですか?」

「んー、そしたら別の宿を探そうか」

「今日は、他の宿も予約が一杯だと思いますよ」

「何かあるのか?」

「ええ、祭りがありましてね」

「お祭りですか、ああそれで街を歩いてる人も少ないんですかね?」

「そうですね」

「オサム君、僕大部屋でも大丈夫だよ」

 美砂が問題ないと言うので、他に行くのも面倒だし、料理が美味しいというここに泊まることにした。

「そうか?じゃあ大部屋で頼む」

「かしこまりました」

 俺たちはお金を払い、大部屋へ案内される。

「ここ、なんか血の匂いが凄いのです」

「血?」

 俺には分からないので、美砂とエドモンを見ると二人も首を横に振る。

 女将の方を見ると、はて?と血の匂いについては分からない様子だ。

「血と言えば、先日布団や枕、壁を掻きむしって血まみれにしたお客がいましたね。獣人さんは鼻がいいですからね、もしかしてそれのことでしょうか?」

 エドモンと同じ離脱症状か?

「そのお客さんは?」

「ふふ、私と亭主で叩き出してやりましたよ!こう見えても腕っ節には自信がありましてね」

 女将は右腕を持ち上げで力こぶを作り、左手でパンパン叩く仕草をする。

「それに、その部屋は一旦使用禁止にしてますし、布団や毛布も全部捨てましたから安心してください!」

「リオン、大丈夫そうか?」

「むぅ……。大丈夫、なのです」

 どこか納得いっていなそうだが、無理やり納得してくれた感じだな。後で詳しく聞こうか。

 俺たちは荷物を置き、これからどうしようか話していると、女将がこの宿は温泉付きであることを教えてくれた。

 身体清潔魔法クリーンで、いつでも身体は清潔になっているとはいえ、やっぱり風呂があるなら入りたい。

 俺たちは夕食どきまで温泉に入ったりして、この宿でゆっくりさせてもらうことにした。

 久しぶりのお風呂である。

 露天風呂のようになっていて、すぐそこに見える山の麓が何とも乙だな。来る時に見た大瀑布の音でも聞こえて来そうだ。

 お風呂を上がり、食堂で頂いた夕食も大変美味しく、身も心もゆったりさせて貰った。なんていい宿なんだろう。

 食事を終えて部屋に戻ると布団が敷いてあり、いつでも寝られるようになっている。旅の疲れもあるし、俺たちはすぐに寝ることにした。

 そういえば、リオンに話しを聞き忘れたな。明日聞けばいいか、と考えながら眠気に沈んでいった。

「……!パパ!」

 リオンに揺らされて目が覚める。ん……?朝にはまだ早い気がするけど……。

「周りに人がいっぱいなのです」

 暗い部屋の中、リオンが耳打ちしてきた内容を寝ぼけた頭で吟味する。意味を理解出来た時、俺は慌てて身体強化を発動した。

 新技のお披露目だな。

 俺は手のひらの上で魔力を球体のように集める。集めた魔力が球体を中心に広がっていくようイメージし、均一に拡散させた。

「『魔素粒子波動エーテルサーチ』」 

 水滴が水面に波紋をつくるように、魔力を広げることで魔素を感知し、魔素を内包する物質の形を脳内に象る。
 
 思ってたより沢山いる。

 なんか武器とか持ってるみたいだな、明らかに俺たちを狙っている。天井裏にも五匹くらい張り付いてるな、ゴキブリかよ。

 敵はまだ俺の動きに気づいて無さそうだけど、リオンが居なきゃ全滅だったかもしれない。リオンの頭を撫でてやり、美砂とエドモンに他人身体強化をかけてやる。

「ぶっころなのです?」

「ああ、ぶっころだ!」

 リオンの言葉に俺が返事をすると……。

「やはりバレてるぞ!かかれ!」

 隠れているのはやめたようで、出てきた黒服達は一気に攻撃を仕掛けてきた。

 黒服達は総勢十五名程だ、一人隠れているのを除き、全員が手持ちナイフを投げてくる。

「な、何!?」
「なんです!?」

 タイミング悪く、飛び起きた二人がナイフの射線に被る。他人身体強化をかけているので怪我はないかと思うが、全てのナイフをはたき落とした。

「多分暗殺者、十五人いる」

「え?」
「暗殺、ですか?」

 俺は簡潔に事態を共有するが、まだ頭が働いていない二人を敵は待ってくれない。

「先に座ってる二人から殺れ!」

 部屋の暗さに紛れ、数名の黒服が迫ってくる。さっき気づいたが、武器も全て真っ黒に塗りつぶしているようで、とても見にくい。

 美砂とエドモンの首根っこを掴み、敵がいない壁側にぶん投げる。

「来たら自分で対処しろ!」

 俺はオーバーライドを発動し、迫り来る黒服数名の腹にパンチを入れると、黒服の腹には

「ひ、『ヒール』」

 くそ、敵の身体が軟弱過ぎる。オーバーライドでは即殺だし、身体強化ではコイツらの相手は分が悪い気がする。せめて視界が良好なら……。

「ヒャッハーなのです!」

 そんなことを考えていると、リオンがハイテンションで黒服達を飛ばしまくっている。

 猫は夜目だからな、視界良好だろうし、耳も鼻もいいから余裕だろう。

 人間なら、やはり第六の感覚器官である魔力を使うしかないだろうな。エーテルサーチを単発では無くもっと永続的に、パッシブで発生させられれば……。

 プログラミングじゃないからな、そんなのは無理か。よし、魔力量はアホみたいにあるんだ、数秒に一回エーテルサーチを発動することにしよう。

「『魔素粒子波動エーテルサーチ』」

 美砂とエドモンも一人ずつ倒したようで、襲撃してきた黒服は、終始隠れていたコイツで最後である。

「お前達はなんだ?誰の差し金だ?」

「くくく、我らは始まりに過ぎん。出来るものならこの街にいる千人の暗殺者から逃げのびてみろ」

 今、千人って言ったかコイツ。

「よし!悪いが今回は全て殺す気で行こう」

「え……?」

「俺は敵を見逃して、仲間に何かあった方が嫌だ。千人も見きれないし、敵は全員死んでくれた方が安心だ」

「その通りですが、大量虐殺がオサム殿の心に影響するのも嫌ですね……」

「そ、そうだよね!」

 んー、美砂は我儘だな。時折とても面倒臭く感じる。正直俺には命を狙われてるのに生かしておく必要性が分からないんだよな。

「なら、こういうのはどうでしょう。美砂殿は欠損を修復しない止血程度のヒール魔石を作り、オサム殿は暗殺者の四肢を壊していき止血だけするんです」

 エドモンの提案に、俺はすぐさま相槌を打つ。

「それでいこう!」

「え?そ、それはどうなんだろう?いいのかな?」

「治して問題なさそうなら後で治せば良いんです。美砂殿としても、ひとまず殺していなければいいんでしょう?」

「え、んー、ん?そうかな?死んじゃうよりはいいのかな?」

「よし、じゃあ止血のヒール魔石よろしく!」

 美砂はヒールだとどうしても回復量を下げることが出来なかったため、新たに止血魔法ライトヒールを開発した。

 美砂とエドモンはここで待機、俺とリオンはライトヒール魔石を沢山持ち、この街の暗殺者達を倒しに行くことにする。

「よし、行こうか」

「ぶっころなのです?」

「殺さないよ、手足をもぎ取るだけ」

「モゲモゲなのです?」

 リオンは手をワキワキさせながら、目を輝かせている。

「うむ、モゲモゲなのです」

 訂正も面倒臭いので、そのままにしておこう。さて、行きましょうかね。

「リオン、行くよ」

「はいなのです!キャッフー!」

 俺たちは宿の窓辺から、夜の街へ飛び込んで行く。薄暗い街灯は、どうも人間には優しくないので、魔素粒子波動エーテルサーチを発動することで視覚以外の感覚器官を頼りにする。

「やつらは失敗したのか!?」

「二人出てきているぞ、かかれ!」

 夜の街に呼子が鳴り響く。
 
 先ほどの反省を生かし、数秒ごとに魔素粒子波動エーテルサーチを発動しているのだが、暗殺者がどんどん寄ってきているようだ。

「モゲモゲなのです!」

 俺の感知よりも早く、リオンが次々と黒服へ襲いかかる。身体強化を発動したリオンは超スピードだし、夜で視界も悪いからな、生半可な奴には見ることも出来ないだろう。

 しばらくは、リオンが両手足を破壊した黒服にライトヒールを施す役目を全うしよう。

「キャッハー!リオンは風になるのですー!」

「たった二人だ!殺れ!」

「モゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲモゲ」

「ぐわぁ!」
「た、助け……」
「ひ、怯むな!」
「い、痛えぇ」
「ぐ、ぐす……」

 ちょっ!

 リオンは五十人ほどいた黒服の暗殺者を次々に戦闘不能にしていく。分かりやすく言えば今の一戦で、五十体の胴体と、二百本の血まみれ手足が転がったのだ。

 建物の壊滅具合も凄まじい。この街は今晩で無くなるかもしれないな。

「ちょっと!リオン!」

「モグのです?」

「ちょっと一旦別れよう!」

 音楽性の違いで解散を提案するバンドメンバーみたいなことを言ってしまった。

 いやしかし、致し方ない。

「今まで俺がライトヒールを使ってたけど、今後手足をもいだら自分でちゃんと回復してあげるんだよ?」

「分かったのです!サーチアンドデストロイ!アンドヒールなのです!」

 なんて楽しそうな顔だ……。一体誰だこんな殺戮天使を作ったやつは。
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