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1章 ルロワ王国編

7話 師匠?との邂逅です

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「ふぅ、終わった、と思います」

「よくやった。少し休ませてやりたいが、お前達の決断が生んだ結果だ。こちらを見ろ」
 
 エドモン騎士の声がする方を振り返ると、そこには生きた女性が立っていた。

「あなた達が、救出を決めて下さったと聞きました。助けていただいて本当にありがとうございます」

「無事で……無事で、よかったです」

 何かがはち切れるような、そんな感覚とともに涙が込み上げてきたが、何とか堪えた。奥を見ると美砂はボロ泣きだ。
 
「被害者はどうしましょうか?」

「連れ帰ってやりたいのはやまやまだが、今は保護対象がいる。血の匂いは他の魔物や獣を呼び寄せてしまう。遺品となりそうなものだけ持って、ここで焼いてあげよう」

「そう、ですね」

 遺体に近寄り改めてみると、女性のようだ。先ほどよりも気持ちは大丈夫だが、申し訳ないことに長い時間直視することは難しい。

 ふと、耳にイヤリングのようなものを付けているのが見えたため、そっと取り、手を合わす。

「遺品になりそうなものがあったよ」

「そうですの」
 
 それを聞いたエリーズ隊長がファイアを唱え、遺体を燃やした。

「ではこれより帰還する」

 周囲を警戒しながら来た道を辿るように戻ったが、帰りは何事もなく、無事に森から出ることができた。

「お母さん!」
 
「よかった、あなたも無事だったのね!」
 
「うん、僕頑張って走ったよ」
 
「ありがとう、助けを呼んでくれたのね。ありがとう」

 森から出ると、助けを求めてきた子供が待っており、お母さんと涙の再開である。

 周囲の目も気にせず泣きじゃくりながら、まるでお互いの身体の暖かさを感じているように抱きしめあっている。

 それを見た美砂は、またしても大号泣だ。

「良かったぁ……。良かったよぅ……」

 確かに、家族愛には目頭が熱くなるような感覚も無いわけではないと思うが、美砂は涙腺もろすぎだろう。
 
「エドモン騎士ありがとう。それからエリーズ隊長も」

「ええ、助けられて良かったです」
 
「気にする必要などありませんわ」

 助けられてよかったのだろう。個人的には、魔物相手とはいえ命を取り合う経験も出来たし、得るものは多かったと思う。

 村のまとめ役とも話し、持って帰ってきた遺品を遺族に渡そうと思ったのだが、この村でいなくなった人間はいないというのだ。

 じゃああの死体はなんだったんだ?

 何か不気味なことが起きているような気がして鳥肌が立ってしまった。

 イヤリングのデザインは何か不気味な木の実?果物?を模したものだろうか。禍々しい気もするけどキモカワが流行ってるのか?

 正直持っていたくはなかったのだが、遺品を捨てる気にはならず、そのまま持っておくことにした。

 しばらくすると、出発の時間になったため俺たちは馬車に乗り込む。

 助けた親子の声や村人たちからの大きな感謝の声に見送られ、公爵領へ出発した。

「助けられて良かった……」

「美砂はまだ言ってますの?オサム様と同じようにとは言いませんが、そろそろ切り替えませんと」

「うん、うん。そうだよね!そういえば、オサム君は何をしてるの?」

「魔力操作の練習。教わった魔力視で自分を見ると、魔力の強弱が分かるだろ?色々動かして遊んでるんだ」

 魔力操作で魔力を目に集めると、魔力視ができる。なぜか俺には魔法が使えないのだが、魔力操作や魔力視は問題なく出来るらしい。

 魔力視を発動すると、世界が白黒になる。陰影は認識出来るので、色素だけ感じることが出来ないのだろう。

 馬車や荷物など、魔力が通っていないものはグレーアウトして見えるのだが、魔力が通っているものは白く発光しているように見え、その強弱で魔力量も分かるようだ。

「うっわ!何それヤバい!」

「な、なんですの!?」

「オサム君を魔力視で見てみてよ!」

「な!?そ、それは何をしてますの?」
 
「ん?魔力のコブ?を戦わせてる?」

「い、意味が分かりませんわ。それはゴブリンですの?」

「遊んでたらこうなった」

 魔法の使えない俺は、暇な時は魔力操作で時間を潰していた。

 目に見えないまでも、動いている感覚は掴めていたので、ペン回しのように楽しんでいたのだが、魔力視を習ってからは目に見える分、遊びも一気に加速してしまったのだ。

 今では全身に薄っすらと魔力を張り、その上に魔力コブを作り、そのコブをゴブリンの形に変形させ、コブ同士を戦わせたり出来るようになっている。

「魔力操作で遊ぶという発想も分かりませんが、魔法が使えませんのに、魔力操作の練習をしてどうしますの?」

 うっ、何かが突き刺さった気がする。

「いつか身体強化をやってみようかと思っててね。技術自体は魔力操作の応用らしいから、魔法が使えない俺にも出来そうだしね」

「死にますわよ?アレは使用者が必ず死んでしまうから禁術指定されているのです」

「え、なに?オサム君はそんな危ないことやろうとしてるの?」

「いや、人体の仕組みが分かっていれば多分大丈夫だと思うんだけど、死にたくはないからね。よほど確証がなければやらないよ」

「ならいいんだけど」
 
 身体強化は筋力を強化する。つまり筋肉の張る力、いわゆる筋張力を強めればいいはずだ。

 以前見た身体の一部がちぎれるという記述は、強化していない部位がついていけなかっただけだと思う。
 
 それに、消えるように見えるほど急加速して、急停止をした場合、慣性によって内臓くらい潰れるだろう。脳や内蔵、骨などの強化も必須だ。

 あとは魔力枯渇か、魔力は何に使うんだろうか。異常な筋張力によって断裂した筋肉を修復する、自分への回復魔法がセットになるのか?

 いや、筋肉が必要とするエネルギーはどこから摂取している?そのエネルギー、つまり糖質やタンパク質などを魔力で補っているのか?

 それなら魔力枯渇の理由にもなるけど……。もう少しまとまってからだな、お手本でもいればいいのだが。

 また数日ほど進み、ようやく公爵領へ到着した。

 まだ少し離れているが、馬車から見える領都は、町全体が大きな城壁のようなものに囲まれている。遠目だが、建物の規模なども王都と同等の規模だと思う。

「わぁ、思ってたよりもずっと大きい街なんだね!」

「そうでしょう、ここは連合国側からの来る王都への客人が必ず通る所ですからね。他国から舐められないように王都に負けない規模にしているらしいですよ」

 美砂が感動しているのを見て、エドモン騎士が説明してくれている。

「閣下、おかえりなさいませ」

「ああ、変わりはないか?」

「はい、滞りなく。ですが幾つか閣下の裁可が必要です」

「分かった、これからすぐに見よう。熊井殿、東部殿、すまないが仕事が入ってしまった。今日はゆっくりしてくれ、また明日話をしよう」

 公爵の屋敷に到着すると、公爵は仕事があるということで、俺たちは各々の部屋に通された。

 食費も宿泊費も要らないらしい。ベッドで横になりながら考え事をする。あれ?魔王と戦わない選択をした俺たちの職業って、ヒモか?

 衝撃の事実にダメージを負ってしまったため、未成年だからと自分に言い訳しながら、気分転換に外の空気を吸おうと部屋を出た。

 廊下に出るとバッタリと出会ってしまった。

 ちびっこのうさ耳だ!な、なんて愛らしい生き物なんだろうか。

 俺は人間のことはあまり好きじゃないが、動物はとっても好きだと自負している。耳を撫でたい葛藤を必死に堪え、小さい子供に話しかけるように挨拶した。

「こんにち「くそが、」

 ん?割り込まれたし、聞き間違いかな?

「くそが、あの女の言う通り本当に来やがったか」

 異世界に来て初めて見た、愛らしいファンタジー生物は、物凄い毒を吐いて去っていった。

 心に大きな傷を負ってしまった気がする。

 外に出ると、ちょうどエドモン騎士がいたので、先程の出来事を話してみた。

「さっき、部屋の前で可愛らしいうさ耳の女の子に会ったんですけど、挨拶をしたら怒らせてしまったようで」
 
『ガタッ』
『ドサッ』

 周囲の騎士たちが抱えていた荷物を落とすなどしており、明らかに動揺が広がっているようだ。

「え、これは、なにかいけないことをしてしまいましたかね?」

「い……いえ。ですが、その方は恐らくブラッディラビットの二つ名を持つ英傑ルウ様です。我々騎士団の指導をして下さっています」

「へええ、あの人が。小さいウサギさんでしたが、強いのですか?」

「な、なんということを。もう既に聞こえていると思いますが、一度目は知らなかったと許されるでしょう。お気をつけください」

 ブルブルと震えて辺りを見回すエドモン騎士は、俺の肩を掴みながら真剣な面持ちだ。

 どうやら冗談ではないらしい。確かに口の悪いウサギさんだったが、あの愛らしい見た目で罵倒されたら、新しい扉を開いてしまう人もいるんじゃないだろうか。

 とりあえず、今日は一日自由ということだったので、街を散策させてもらった。

 何かを買う訳でも無く、ゆっくりお散歩していると、街の人たちの会話が聞こえてくる。ここはとても暖かく穏やかないい街だな。

 帰る方法が見つからなければ、ここに住み着くのもアリかもしれない。

 そんなことを考えながら、その日は一日ゆったりさせてもらった。
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