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1章 ルロワ王国編

3話 俺だけ魔法が使えないようです

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 ――*――
「オサム。なぜ?を怠ってはいけない。何事にも疑問を感じなければ人間として終わりさ」

 あれ、賢音さとねの声が聞こえる。なんだか随分久しぶりな気がする。

「賢音は細けーな、これはこういうお話しでいいの!」

「実は、人類はそのほぼ全てが類人猿の誤りであったと言われているけど、君は身近で唯一の人間だと思っていたよ」

「言われてないよ?それに、趣味として見てるラノベくらい妥協しようぜ、設定が甘くてもいいじゃないか」

「君も私を置いて退化していくのか……。私がひとりぼっちになっても、この星最後の人類になっても構わないのかい?」

「めんどくせぇやつだな、分かったよ。付き合ってやるよ、早く先読みたいのに」

「君は知能指数が二百程度しかないのだから、少しでも気を抜くと完全な脳筋、つまり猿になってしまうよ。人間と猿では法律的にも、その、ほら、けっこ」

「ほら、いいから何を考えるんだって?」

「魔法少女がライフル型兵器で放った何らかのビーム砲が、敵の大型戦艦を貫通し大爆発を引き起こす為に必要となる発射時エネルギーの最低値と、そのエネルギーが放出される前に及ぼす、量子脳理論から考察した少女の自由意志への影響についてさ」

「お前正気か?一体今何時だと思って……」

「大丈夫さ。今日は寝かせないよ」

 あれ、結局あれは何だったけな、エネルギーを放とうとした0.3秒前には少女の脳は既に放つことを決めているはずだが、その後0.2秒間の許された自由意志に、武器が内包するエネルギーから溢れた波動が影響して……
――*――

「ム君!……サム君!オサム君!」

「ん、あれ俺、賢音と……」

「よかった!僕心配したよ、不破ふわさんはここにはいないよ、異世界だからね」

 美砂が泣きじゃくりながらこちらを見ている。どうやら何か心配を掛けてしまったようだ。

「異世界?あれ、そうだ!アレクシス団長と、イテテテテ」

 訓練中に何か強い衝撃を受け、吹き飛ばされたことを思い出し、起き上がろうとすると身体中に寝違えたような痛みが走った。

「すまなかった!」

 痛みに耐えて、なんとか声の方を見ると団長が土下座している。

「えーと、謝られているということは、あの衝撃はアレクシス団長の攻撃だったんですね?」

「ああ。好きにかかってこいなどとデカい事を言い、虚を突かれて本気で抵抗するなど、指導者としてあってはならぬことをした」

「いや、全然気にしてませんから頭を上げてください。俺も剣を投げつけるとか卑怯なことしましたから、おあいこにしましょう」

「熊井殿は戦いのセンスがありそうだな。お望みとあれば、是非騎士団で鍛えよう」

 誠実でいい人なのだと思いかけたが、悪い笑顔で告げられてしまい、そんな事もないかと思い直すことにした。

 どうやら気を失っていたのはほんの十数秒らしい。なにか親友のことを思い出していたような気もするが、もう忘れてしまった。

 ちなみに、美砂は団長と戦わずに済んだ。
 
 剣を両手で握り、持ち上げることは出来たのだが、振るのは難しかったようだ。戦うレベルではないということで、開始前に終わってしまった。

 身体が痛いので、座って壁に寄りかかりながら、団長に質問してみる。

「この世界には、レベルみたいなものは無いんですか?」

「レベル?とはなんでしょう?」
 
 訓練中とは違い、本当に丁寧な物言いだ。普段の会話と訓練時とで言葉遣いを使い分けているのだろう。

「分かりやすい説明としては自分の強さを図る数値なんだと思いますが、他にはステータスのようなものはないんでしょうか?力がどれくらいとか、素早さがどれくらいとか、数値化された物差しのようなものです」

「あればとても便利そうですが、そのようなものは聞いたこともありませんね」

 レベルだけでなくステータスもないらしい。確かに人間がプログラムされてる訳でもないのに数値化されている意味は分からんが、異世界なんだから理屈なんていいじゃないか。

 チートもないし、優しくない世界だな。

 そんなことを考えていると、遠くから金髪縦ロールの女性が歩いてきた。
 
 歩くたびに髪の毛がふわふわと揺れている。パンツスタイルでマントを羽織っており、動きやすさに特化した騎士団の訓練服よりも、とてもオシャレなデザインだ。

「皆さまごきげんよう。魔法師隊の隊長エリーズ・バルビエラですわ。勇者様方には特別にエリーズと呼ぶことを許しますわ」

 それぞれ順番に挨拶すると、エリーズ隊長はこちらをまっすぐ見て話しかけてきた。

「魔法の訓練で参りましたが、熊井様は参加して大丈夫ですの?」

「頭を打った訳でもなさそうですが、動くと痛いのでこの体勢でもよろしければ」

「そうですか。では、魔法に体勢は関係ありませんのでこのまま進めましょう」

「それでは、私は宰相に報告して参ります」

 やはり、俺の件で怒られるのだろうか。強さと自信があれほど滲み出ていた男の背中は、今では哀愁漂うものになっている。

 そんな団長を見送ると、エリーズ隊長の魔法訓練が再開された。

「まず質問ですが、皆さまはご自分の身体の中に魔力を感じることは出来ますか?」

 どうやら俺たちの身体の中には魔力があるらしい。意識して身体を感じてみるが、残念ながら何も分からない。

「「「分かりません」」」

「仕方ありませんわね。お背中を失礼しますわ」
 
 エリーズ隊長は美砂、京介の順番で背後に回り、それぞれの背中に手をつけた。

 俺の順番になったとき、背中から何かが全身を駆け巡る感覚に襲われる。

「今のが魔力ですわ。手を離しますから、今の感覚を身体の中に探してみてくださいませ」

 すると、美砂はすぐに何か感覚を掴んだようで、何かモゾモゾしだした。

「これ、かな?意識すると、鳥肌というか少しゾワゾワするというか、身体中になにかあります」

 遅れて、俺と京介も感覚を掴めた。

「魔力を感じることができたら、身体の内側に留めるように意識なさってください」

 確かに、なにか鳥肌が立つような汗腺から蒸気が出ているようなそんな感覚がある。汗腺を閉じるようなイメージでいいのかな?こう、ぎゅっと。

「はい、皆さまお上手ですわ」

 正解だったようだ。

「これで、魔力感知と魔力操作の基礎が出来ています。次は魔力を手のひらに集めて魔法を発動してみてもらおうと思います」

 おお、ついに!魔法が使えるのはテンションが上がるな!魔法でどんなことをしようか。

「手のひらの魔力が火になるイメージを持ち、火を意味する『ファイア』と口にすると発動しやすいですわ」

 手のひらに魔力が集まっているのを確認し同時に唱えた。
 
「「「ファイア」」」

『『ボッ』』
『…………』

 京介と美砂の手のひらからは火が出ている。
 
 京介の火はオレンジ色でゆらゆらとしているため蝋燭のよう。美砂は青色で定まっているのでガスバーナーのような火だ。
 
 俺の手のひらにだけ何も起きない。

 エリーズ大隊長と目が合ったので、もう一度やってみることにした。
 
「ファイア」

『…………』

 出ない。

「魔力は手のひらに集まっていますので、魔力操作はできているようですが、イメージのしやすいファイアが発動しないのは珍しいですわね。まあ、他の魔法も試してみましょう」

『火』はファイア、『水』はウォーター、『風』はウインド、『土』はアース、『光』はライト、『闇』はダーク、『回復』はヒールである。

 な、何も発動しないだとぉ。
 
 二人は問題なく全ての魔法が使えたようだ。

「困りましたわね。魔力は集められているのに、なぜ発動しないのでしょうか?」

 エリーズ隊長が分からなければ、俺たちには分からないと思います。頑張って分析して!

 しかし、魔法が使えないのは悔しいな、何がいけないのだろうか?

 その後、いろんな魔法を試している二人と違い、俺はどれだけ試しても魔法が使えなかった。
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