寝起きでロールプレイ

スイカの種

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第一章

第63話 サワグチの機嫌

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 指定した時間までにパイルを打ち込まないと有線接続が間に合わない。間に合うまでのリミット三十分まで迫っているのに、まだ何本どこに打つか決まらないという。
 両方に撃ち込んで両方に配置すればいいのに。
 どうせ財源は熊谷なんだから、後で取り返せばいいだろ。

”一本五百二十億円するもの。耐用年数二か月くらいだし、実質使い捨て。慎重にもなると思うわ”

 ごひゃ・・・それは・・・、確かに躊躇するわ。

”間に合わなきゃ街全部オシャカなんだろ”

”モノがものだから、自社ローンはしないし、売掛もしない。キャッシュ一括しか認めないわ”

 なんとまあ。
 あそこに出店した会社以外は、金貸さなそうだなぁ。
 損失を抑えるのか、ワンチャンかけるのか。
 熊谷は今、金の工面してるのかな。
 五本買うと言っておいて、その金も用意できてない可能性もある。
 スミレさんは熊谷の予算を把握しているのか?
 あまりスミレさん自身がせっつかないのは、金が用意できるのを待っているのかな。
 ここまで考えたら、またアプローチがあった。

”このままだと接続が間に合わないんだけど、何かいい方法無いかしら?”

 またこのゲーム脳が試されるのか?
 ああ、だからデータ開示許可したのか。
 ド素人から出たアイデアをポイポイ採用したらそれはそれで問題だろ。
 言うだけなら只だしな。

”サワグチにも投げて良いのか?”

 数秒、間が開いた。

”どうぞ”

「サワグチ。スミレさんから、ウーファーパイルの接続間に合わなそうだから何か良い案無いかって来てる。思いつく事無いか?」

「何であたしがあいつら助けなきゃいけないの?」

 めっちゃ怒っている。
 瞬間沸騰してガタガタ震えていた。

「ねぇ。何で?」

 思わぬ情報に一瞬固まった。細切れだった情報が繋がってゆく。
 このキレ様は、つまりそういう事なのか?
 熊谷と幸手が昔からマッチポンプなら、サワグチの誘拐も、ライヴの襲撃も、そりゃすんなりいく筈だ。サワグチの失踪の時、関係者の事情聴取がもやもやして要領を得ないまま済んでしまったのも当然だ。
 そういうのって有りなのか?
 どこまで誰が噛んでるんだ?
 スミレさんはサワグチがキレるのを知ってて話振ったのか?
 でも、救助は茶番じゃなかった。はずだ。
 全部嘘に見えてくる。スリーパーの利権を、熊谷から幸手、今は大宮。
 茶番にしては金掛け過ぎだよなぁ。俺も死ぬ所だったし。
 幸手にも死傷者が相当出たはずだ。
 下手したらこの間の回収作戦でサワグチも死ぬ所だった。
 今このサワグチのどっちが本物かは調べないと分からないが、金庫フロアで繋いだ時に調べたデータは本物だ。
 この話が合う空気感も現代人には絶対に再現できない。

 迷ったときは、基本にかえろう。
 今まで、俺がどんな目に遭ってきたか。
 籠原にも、熊谷にも、大宮にも感謝している。
 スミレさんを中心とする二ノ宮に世話になった。
 相互利用の関係ではあるが、善意だけなんて気持ち悪いのでそこは問題ない。不自由は保身に関する部分だけで、そこは現状少しづつ改善していくしかなく。要望はほぼ通っている。
 寝る前から比べたら天国だ。

 個人的には、サワグチが酷い扱いを受けたのは、人権活動の弊害ではないかと思っている。
 誰かが損をして、誰かが得をして、折り合いを付けるために失踪から脳缶コースになった。
 スリーパーの寿命が短い原因は、調子に乗ってやらかして社会的制裁を受けるという流れが多いのではないだろうか?
 俺が二ノ宮に対してイエスマンでいる限り、そう酷い事にはならないとは思う。
 ウルフェン・ストロングホールドはどうみてもサワグチの味方な点は不安だが、サワグチが俺を消したくならない限り、俺は安泰だと思いたい。

「分かった。意見はいらない」

「聞いてんだけど」

 殺意高いな。

「その方がサワグチの得になると思ったからだ」

 これは、延々絡まれるパターンなのか?
 豹変する奴は顧客や上司、部下でも結構いたが、今の環境で唯一の同世代に絡まれるのは勘弁してほしい。悲しすぎる。

 サワグチが俺を追い出したいのなら、それはそれで仕方ない。
 脳缶も拷問も嫌なので、隙を見て地の果てまで逃げて、サバイバルでもする事になるだろう。なぁに。イザとなったらコボルドたちと狩猟生活でもすればいい。
 一通り心構えも決まった処で、サワグチの顔色を見てみる。
 二人とも、目が爛々と輝いていて、呪い殺されそうだ。
 息も荒く、額に汗が浮き、心音が聞こえそうな程胸が波打っている。
 大丈夫なのか?医療スタッフはモニターしてるよな?

 突然、後頭部に激痛が走った。
 殴られたとかの痛みではなく、針でぶっ刺された気分だ。
 目の前が歪む。
 サワグチが、異形の怪物に見える。
 幻視?ハッキングか?痛い。
 手が、いつの間にかサワグチの手がまた俺の首に触れている。
 振りほどきたいのに、身体が動かせない。

”大丈夫?看護師を送りましょうか?”

”大丈夫だ。問題ない”

”そう”

 スミレさんからのログも勝手に返信される。
 一気にきたなぁ。
 気心知れたと思ったけど、俺も甘いな。
 勝手に身体を操作されて、サワグチに暴力を振るったりしたら面倒だ。
 サワグチは随意筋しか操作できないのだろうか。
 心臓止められたら死ぬしかない。
 一つ、救いがあるのは、スミレさんが早速異変に気付いて、この部屋の外でファージが急速に変化し始め、人も動き始めた事だ。
 この人の勘の良さはほんとチートキャラだよなぁ。
 俺も、タッチパネルが電磁波通信してるだけで、この区画で空気中のファージ接続は確立できないので、本来なら外の環境変化に気付かない。
 でも、この第六感じみた感覚は、超能力などではなく。列記とした五感の成せる業だ。
 現代ではもう解明されているのだが、生き物に第六感は存在しなかった。
 意識的に認識できない五感が、なんとなく知覚できる状態を、第六感と命名していたに過ぎないらしい。
 当然、第六感という名前のフィルターは人間にしか存在せず、その他の生物は、”予感で動く”事は全くせず、所持している知覚に素直に従って行動しているだけだ。当然っちゃ当然だよな。
 オカルト大好きな俺としては、知りたくなかった事実だ。
 今俺がなんとなく、この部屋の外のファージの動きを感じ取れるのは、この部屋に微量ながら存在しているファージによって外と微かに繋がっているからだろう。
 顔は露出しているので、顔の皮膚片や埃が空気中に舞い、そこからファージが微かに接続されたりしているのかもしれない。
 多分、サワグチにやり返すのは可能だ。
 でもカウンターを起動すれば、サワグチが再起不能になる恐れがある。
 穏便に主導権を取り返す方法は、あまり考えてなかった。
 俺の今持っている手段ではオーバーアタック過ぎる。
 盲点だな。つくづくアホだ。

 随意筋を強制的に収縮させて、サワグチを振り払って、ファージ起動してメット被るのもありだが、少し様子を見てみたくはある。
 ここから、サワグチは俺をどうしたいんだ?

「油断しすぎでしょ」

 サワグチは呆れている。

「サワグチにやられるなら、仕方ないとは思ってる」

「おバカね」

 面目ない。

「今、横山君に出来る事って何?」

 俺に?何だ?
 ん?そういや口が、舌が、肺が動かせるな。

「ウーファーパイルに音源を接続する方法」

 頬を平手で叩かれた。空気を含んだ結構痛い平手だ。

「好きにすれば?時間は五分あげる」

 せっかちだな。五分経ったらどうなるんだ?

「スミレさん。熊谷周辺の環境と天候のデータが欲しい。移動と輸送に関する物資も」

 口しか動かせないので口頭で頼む。
 サワグチは頬をピクッとさせた。
 やるだけやってみるか。

 元々、準備していたようで、三十秒もせずにダーッとデータが送られてきた。
 天候とファージの予測情報、使用可能な輸送機。接続に必要な物資と、用意に必要な時間。
 時間ギリで契約して打ち込むと仮定すると、上空は既に積乱雲状の肉に覆われている。空からのケーブル敷設はそもそも無理だ。
 街壁から三百メートルの位置に五本。最長の五百メートル間隔で一列に撃ち込むとして、壁からでも最低三百メートル以上のケーブルを五本引っ張って行って接続する必要がある。
 街壁ギリまで五本全部置くのも難しいだろうから、実際にはもっとケーブルは長くなるだろう。
 装甲車でパイルが冷えるタイミングに合わせて突き進む?
 設置しても、肉の波に流されたら直ぐ外れるよなぁ。
 地下掘ってる暇なんて勿論無い。
 そもそも、餌があると襲ってくる。
 人が乗ってったら装甲車ごとひっくり返されて、サザエみたくほじくられてモグモグされるに決まってる。

「ケーブル引っ張った後、速乾性のモルタルで埋めるのは?」

”それは考えたわ。一応、固めるのには間に合うし、モルタルも十五トンまで用意できるけど、波が通った場合はかなり地面削るから、やっつけ仕事だと波にさらわれた場合簡単に剥がされるわね”

 一本当たり最低三百メートルに三トンか。少ないし軽すぎる。駄目か。

”それに、気象情報見てもらうと分かるけど、空気中にショゴスの細胞がかなり浮遊するの。ピンク色の霧が巻いて、中に入ると視界がかなり悪いわ”

 あれか。ぐぇ。
 汚ったねぇ!あの赤い霧ってショゴスの細胞だったのか?!
 地下でめっちゃ呼吸してたんだが。
 俺の内臓大丈夫だったのか?
 ああ。単に空気が汚いとかじゃなくて、ショゴス入りだから、地下のあいつらはあんだけ過敏になってたのか。納得。
 調べる癖付けないと駄目だな。

 間に合えばこんな心配いらないんだけど、ショゴスが周囲に押し寄せ始めている前提で考えないとだもんな。
 地面に這わせるからだめなんだ。
 接続方法を見たら、径三センチ以上で気密ファージ接触するだけで良いらしい。
 この気密されたニューロンケーブルは、リンパ液と同じ性質を持つ人工髄液にシネマティックファージを二パーセント含有した液体と、連続気泡構造の発泡ゴムで構成され、それを四重以上の耐熱、耐圧、絶縁、耐水素材で保護されている。
 このケーブルの接続により、ノイズは元より、外部からのファージ干渉を完全に防ぎつつウーファーパイルでの音波コントロールが可能となる。

 固定出来て、外れなければ繋ぐ箇所はどこでもいいのか。

「グライダーか何か使って、空中で繋げるってのは?」

”ケーブルの自重が支えられないわね”

「光線か・・・電磁波で無線接続は?」

”周囲のファージが無くならないと邪魔されるから、本末転倒ね”

 だよなぁ。
 ファージは使えるから、操作はある程度は可能なんだよな?

「雲の中、その下の空中、地面の肉の三点で俺のファージがどの程度操作可能か知りたいんだけど・・・」

”ビーコン飛ばすわ。三分待って。エレベーターで十二階まで上がってきて”

「一緒に来るか?」

「行かない」

「行けるわけ無いでしょ」

 サワグチの手が首から離れて、体が自由になった。

「なんだ。もう良いのか?」

「可愛げのない子ねぇ。さっさと行って、解決してきなよ」

 名探偵じゃねーんだぞ。


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