寝起きでロールプレイ

スイカの種

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第一章

第61話 音楽性の違い

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 説得力の評価基準て何だろうか。
 結局、俺的には影響力に比例するという答えに落ち着くのだが。

 ウルフェン・ストロングホールドには、音楽性の違いで喧々諤々とか、メンバーの不和というのが全く存在しなかった。
 つつみちゃんと金属袋頭を中心に、完全に調和している。
 これは本来ありえない事だ。

 つつみちゃんが全体像を描き。
 金属袋頭が骨組みを作り。
 他のメンバーがそこに肉を付けてゆく。
 奇をてらわず、ガッチリと頑丈に組み上げた曲たちは、余分な音も無く、何となくな自己主張による付け足しも無く、伝えたいことをダイレクトに突きつけてくる、まるで限界まで鍛錬された鋼鉄による日本刀だ。

 意外な事だが、このバンドは喜怒哀楽の表現は音に多用するが、愛とメッセージ性に関する表現は親の仇かというほど削ぎ落している。
 愛とメッセージ性は可愛い女の子の代名詞だが、それを表現する事に全く興味が無い。つつみちゃんから言わせれば。

「そういうのうんざりなの。他の人に任せるよ」

 これである。

「ヨコヤマ。うちらは、聞いた誰もが、踊り狂う曲が作りたいんだ。抑えきれず、溢れ出る爆発を、拡散させる」

 金属袋はもしゃもしゃ何か喰ってるので、何言ってるのかよく分からない。
 きっとこいつの頭はいつも爆発しているのだろう。

「痛っ。何故蹴る」

「バカにされた気がした」

 勘の良いガキは嫌いだよ。
 続けて一本拳で俺の二の腕をガシガシ殴ってくる金属爆発頭はスルーする。

「つつみちゃん、今回のコンセプトは何なん?」

 当然ながら、にこりと笑ったつつみちゃんは教えてくれない。
 ここは、二ノ宮本社の第四会議室に作られているレコーディングスタジオだ。
 と言っても、二万ワットのぶっとい電源が引かれてて壁が防音になっているだけで、ちょっと広いだけの会議室といった趣だ。
 新しく買い込んだ機材に加え、籠原のテルミット・スパーカーズから持ち込んだ、ちょっと焦げた機材とかもごっちゃごちゃに詰め込まれ、圧迫感が半端ない。
 何で俺がここにいるのかと言うと、ここが俺が移動可能な場所の中で一番ファージが濃いからだ。
 別に悪いことをしようとかそういう事ではなく。
 一番便利で、身体の調子が良いから。という理由だ。嘘じゃない。
 それに、追い出された事は今の所無い。
 今俺の隣では、ギター三人組がマンドリン三本をぬるりぬるりと奏でている。
 リズムに乗っていたつつみちゃんは我慢できずにベースで伴奏しだした。
 可視光では判別できないが、音に乗せてファージが電子回路とも機械式時計ともつかない複雑な動きをしている。
 この動きが何を表現したいのか未だによく分からない。
 つつみちゃんはファージについて自分から細かく教えてはくれない。
 今やっていることは感情の発露に関係する働きなんだと思うのだが、俺へのファージへの働きかけが無いので謎は深まる。
 企業秘密なんだろう。
 ソファーでゴロゴロして聴いてたら眠くなってきた。
 今日はオフだし、用事も無い。
 夕飯までちと昼寝でもしよう。



 夢の中で、俺はゲームをやっていた。
 ガキの頃の夢で、ネットで知り合った悪友と下らないことでケンカしながら世界大戦系FPSをやっていた。
 何故か、デスペナがリアル死で、友人の死をドラマティックに悲しむ暇もなく戦況は目まぐるしく変化し、トイレ休憩中を守り切れずそのまま朽ち果てる戦友に絶望しながら暗闇の中を戦線後退していた。
 夢だと分かっていながら、失われてゆく仲間への悲しさも敵方への残虐な気持ちも本物で、早くこんな悪夢覚めて欲しい半面、俺がここで起きてしまったら、戦線が維持できないとか妙な使命感に囚われて、意味不明な葛藤をしていた。
 物語の中では、死はいつも一大イベントだが、現実の死はこんなにもあっけなく流され、忘れられてゆくのかと、残存兵力と物資量によって事務的に決定されてゆく作戦進行に反吐が出始めた時。
 つつみちゃんの声が聞こえた。

「起きて。そろそろご飯食べに行くよ」

 場違いなそのざらついた神の声に。
 一瞬で救われた俺は。
 もうこの気持ちともお別れかと、疑問も抱かず返事をして。

「うん」

 自分の声で目が覚めた。
 じっとりと全身に汗をかいていて、寝覚めは最悪だ。全力疾走した後くらいに身体が重い。測ってみたら、実際に筋肉内の酸素とグリコーゲンの量が減少していた。俺は何をしていた?
 作曲に力を使い果たしたのか、つつみちゃんは少し気怠そうな目で無表情に僕を見ている。
 俺の中を見透かそうとしてくるその存在感の強い瞳は、この見た目十四歳の汗臭い中身おっさんから何を読み取っているのだろう。
 起き上がると、黒皮のソファー生地に汗が俺の寝跡の形に残っていた。
 湿らせておくと皮が駄目になってしまうので、ファージで風を軽く吹かせて乾かすと、皆にくっついていく。



 今日は下のデータセンターではなく本社のラウンジで軽く食べる事になった。
 駄犬と金属袋が喰いかけのハンバーガーを冷ましてしまいながら平行線の論争を繰り広げている。
 この二人は、仲が良いのか悪いのかよく分からない。
 多分、付き合ってるんだろうが、駄犬は金属袋の胸も顔も見たことないとか言ってたし、確定ではない。
 昔、俺が起きていた当時、よく性格判断で、”女性は共感を求め、男性は解決を求める”と言われていた。
 あれは、当時の日本特有のもので、結局環境が性格に大きな影響を与えるんだとこの二人を見ていて思う。
 ノリユキは、男だが、物事に共感し、自分の意見は基本的に言わない。
 寄り添い、肯定し、それだけだ。犬っぽい。
 逆にメタルザックは、女だけど、言葉を正確に噛み砕き、無理やりにでも物事を解決に導き、異論を許さず実行を求める。正に猫だ。

 メタルザックの袋の中の顔は、猫なんじゃないだろうか。
 尻尾無いし運動神経壊滅的だけど。

 二人の話の内容は、カレーに入れる調味料の順番という、全くどうでも良い議題だったのだが、どちらも譲れないらしくかなりヒートしている。
 何故、二人がヒートしてしまうのか。一見すれば、金属袋に駄犬が共感して話は終わるだろうと思うが、そんなに甘くない。
 駄犬は、自分の味付けの順番が正しいとかは別にどうでも良く、只、認めて欲しいだけなのに対し、金属袋は誤った認識を正す為に懇切丁寧に理由を並べてゆく。
 すれ違った道は離れるその幅をどんどん広げてゆき、理解しようとしない相手に苛立ち、険悪さは増してゆく。
 他のメンバーは慣れっこな様で、そんな二人をスルーして平気で別の話題に没頭している。
 俺はそれに混ざりつつも、アホな二人がいつ殴り合いを始めるのか、気になってしまう。

「ねぇ、ボーイ。君も思うだろう?!クミンシードは一番最初に香りが出るまでオリーブオイルでしっかり炒める。これはカレーの基本であり原点なんだ!」

 涙目の駄犬は今にも泣きそうだ。

「ニワカ料理研究家の意見を真に受ける奴には反吐が出る。そんなカレーは埃臭くて狗しか喰わない。一番最後にオイルとして垂らすだけで十分だと何度言えば分かる」

 否定は許さない。と俺を睨みつけ・・・てる気がする。袋被ってて顔が見えないので何となくこっち向いてるなくらいしか分からない。
 ここで下手にどちらかを庇えば、あっという間に俺が攻撃対象だ。
 社会人は、厄介事は解決するのではなく、避けるのが常道。
 全てのトラブルは、避けて通らなければ先生キノコになってしまう。

「ボク、ちょっとおしっこ」

 つつみちゃんが盛大に噴き出している内に、さっさと逃げよう。

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