寝起きでロールプレイ

スイカの種

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第一章

第53話 突入作戦

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 俺は今、傭兵のおっさん五人と共に久喜駅の貨物倉庫にある発着場のコンテナに重装備で息を潜めている。
 装備してるアシストスーツは筋反射がピーキーになり、エネルギーもバッテリー駆動ではなく、グリコーゲン供給型になった。なので電力が無くても全てが可動する。ただ、稼働時間は大幅に落ちている。でもこれで戦術核ミサイルによるパルス攻撃で、アシストスーツがマヒして動けなくなる事は無い。

 因みに、搭載される戦術核は電磁パルス発生を主目的とした中性子爆弾だ。高高度で爆破されるので放射能汚染の心配はまず無いが、理屈で分かっていても、頭上で核の花火が上がるとなると、穏やかではいられない。日本人の放射能アレルギーは根深い。でも、安心安全の為にはこれが一番確実なんだよな。今回の突入で、逐一スタングレネード投げ込んでる暇はない。

 爆発方向を上下の円筒型に限定するそうで、これにより、地上付近の効果半径を二百メートル付近まで抑えるという。拠点制圧戦ではスタンダードな初期攻撃だそうだ。こういう悪知恵は発達するよな。
 そのお陰で今回の作戦が楽になる訳だが。
 ミサイルは予備が有るが、爆撃機用のジェット燃料がギリギリしか確保できなかったとスミレさんが言っていた。
 沖縄から持ってくるしか手段が無いので、今回の作戦には間に合わないそうだ。
 地上からのミサイル発射はほぼ撃ち落されるし、ヘリからの発射は論外だ。いずれも撃墜された時の被害が大きいので、爆撃機からの高高度水平爆撃で一発勝負となる。
 戦術核を除き、貫通目的のファージ誘導、衝撃信管で同じ位置に三発。ファージネットワークによる奴らの迎撃体制はどう転んでも間に合わないだろうというのがスーツ組やムサいおっさんたちの見解だ。
迎撃用レーダーは市庁舎敷地を含め、三か所あるのだが、市庁舎以外は電磁パルスの有効範囲から外れる為、こちらは戦術核の起動に合わせて破壊工作する。現地には既にスタッフが到着し、爆弾設置を済ませている。
 落とす位置を誤差は二メートル以内にしてくれと言ったら、二十センチ以内に抑えると言われた。綺麗に穴を開けてくれるそうだ。すげー自信だな。

 ルルルはスミレさんが連絡した後、一時間もせずに二十トントレーラーで自ら運転して大宮まですっ飛んできた。今回の事を想定していたそうで”こんな事もあろうかと”を連発して色々出してきてスミレさんにドヤ顔をしてた。
 スミレさんはイライラを煙草の煙にのせてルルルに吹きかけまくってて、マスクで濾過できてなさそうなエルフさんはゲッホゲッホしながらも説明を止めなくて、最終的にはつつみちゃんが医務室に引っ張っていく事になった。あいつ。肺が弱かったのか。口裂け女なのかと思った。

”来た!後十秒で金庫開く!”

 サワグチの首から連絡が入る。
 二個目のカウントダウン表示が起動する。
 一個目消せよ。邪魔だよ。消しとこ。

”あ”

 サワグチが声を上げる。

”どうしたの?”

 スミレさんが尋ねたが。

”何でもない”

 首は黙っている事にしたみたいだ。

”抽出開始したら、一旦本体とは連絡取れなくなるんで、よろしく”

「二分後に出るあのヘリに乗せてもらおう」

 傷のおっさんが近くのヘリにマーキングした。
 巡回の警備員には既にマーキングしてある、この時間にルートで障害になるのは三人しかいない。
 周辺の監視機器もヘリも、俺か二ノ宮本社の支配下だ。オートパイロットなので映画みたいに操縦席を制圧する必要はない。

 ヘリ離陸の三十秒前。

「いくぞ」

 ぬるりと動きだすおっさんたち、俺は後ろから静かに付いていくだけだ。この重装で隠密は無理だ。
 三人の内一人に気付かれたので、おっさんたちが音もなく殺した。
 巡回ルートの位置情報はそのまま動かしておく。
 直ぐ気付かれるだろうが、俺らが離陸するところだけ見られてなければ良い。

 輸送ヘリの中にはコンテナが一つだけだった。

「ついてるな。冷蔵コンテナだ」

 入ってれば電磁パルスの影響は若干防げる。
 おっさんたちも、色々持ってきているが、電子機器は装備していない、でも牽引用のクレーンと保管器だけはどうにもならなかった。一応鉛で分厚くコーティングされているが、念を入れるに越したことはない。
 市役所の屋上に着陸する筈なので、そのままミサイル着弾まで入ってれば良い。
 予定だと、サワグチのデータ抽出後、担当者が出るときにまた開いた金庫フロアの扉が閉まる五秒前に着弾予定だ。その三秒前に戦術核が上空で爆発し、パルスによる電子機器の破壊を行う。
 銃弾と比較にならない速さのマッハ四で飛来する三発の地中貫通弾が市庁舎の屋上、地上二十階から地下五階までの縦坑を二秒で掘り進む。

 音しか聴こえないが、サワグチの首が泣きながら吐いているみたいだ。
 向こうの本体とは今オフラインだから関係ない筈だが、トラウマがフラッシュバックでもしているのか。

 待ってろよ。

 軽い衝撃と共に浮遊感が終わる。積み下ろしが完了したな。
 おっさんたちは冷蔵コンテナの中で、クレーン設置の準備を始めた。
 俺も、保管器を出して動作確認を行う。手順確認は何度もした。現場で動画で手順操作も出す予定だし、サワグチのサポートも有るだろうが、奴らの反撃開始までどのくらい時間確保できるかは分からない。

「中で歩き始めた。そろそろ出るぞ」

「投下三秒前、二、一」

カウントから七秒後、核の花火の衝撃は分からなかったが、一瞬無音になり、その後、コンテナが浮き上がる程の衝撃が来た。この中にいても雷より凄まじい爆音だ。

「おーし行くぞ!ゴーゴーゴー!」

 あ!それ言いたかった!

おっさんたちがコンテナを蹴り開けると、辺りは土煙で視認できず、直ぐに全員ワイヤーフレーム映像に切り替わる。
 市庁舎全体に非常ベルが鳴り、消火用のハロゲンガスが排出される鋭い汽笛みたいな音がそこかしこから聞こえる。

「足場作らなくて済んだな!そのまま設置するぞ!」

「おっけ」

 立ち込める煙の中、直径三メートルの穴がキレイに開いている。
 ぶん投げる雑さでクレーンを組み立てたおっさんたちは屋上にボルトを打ち込んで三脚を固定するまで五秒でやってのけた。
 大丈夫。たとえ独立電源でも扉の開閉はストップしてるはずだ。
 サワグチの方の生命維持の方が大事だ。
 そっちも電磁パルスでどうせストップしている。

「行ってくる」

 フックに飛びつきそのまま急降下していく。少しミシッときたがベルコンとアシストスーツの重みにびくともしない。これならまた上がれる。
 真っ暗な中、下まで降りると、明かりが見えた。ピンポイントだ。良い仕事するな!地下四階へは到達しておらず、金庫エリアは開いている!
 爆炎はほとんど出なかったと思うが爆風で色々ぐちゃぐちゃにとっちらかっている。フロアは図面通りで、サワグチの脳缶が設置されている場所はすんなり見付かった。このフロアで起きて動いている者は一人もいない。ファージの散布を開始する。生命維持装置は停止していたが、脳缶に目立った損傷は見られない。

”見つけた。取り外しを開始する”

 慌てず、急いで、手順通り。
 上から銃撃音が少しした後、爆音が聞こえた。早いな。ヘリか?

”気にせず続けろ。ヘリだ。落とした”

 ファージが上まで届いたので確かめたら、持ってきたスティンガーで撃ち落したな。ヘリは警戒してしばらく近づいてはこないだろう。
 手順はミスらず、手早く済んだ。トランクを起動し、チェックはグリーンだが・・・。どうだ?

”きた!成功!”

 サワグチが泣き声で叫ぶ。
 んじゃとっととトンズラしますか。

”上行っておーけー?”

 土煙の少なくなってきた穴を見上げ、クレーンに手をかける。
 探知の届く範囲に動体は無い、と思ったら。

偶々、見上げる為に透かしていたベルコンが何かを弾いた。あっぶね!狙撃された。どこだよ!?
穴の上の方で一人、動かずへりに伏せていた。狙撃銃でなく拳銃だったのが幸いした。
端に避けてファージを起動、俺が制圧する前に屋上から二発銃撃があった。

”すまん、見逃した。大丈夫か?”

”赤外線擬似表示かけるわ。共有するか?”

”懐かしいねぇ。よろしく”

”あ、俺はいいわ”

 声だけじゃわかんねーよ!

”全員するぞ。いらなきゃ勝手に切っとけ。上がるぞ”

”こいや。後二十秒でお迎えが到着だ”

 帰りの送迎は大宮がかって出てくれた。
 元々援助の予定だったらしい。
 あのナチュラリストどもの時の事がジャブみたいに効いている。
 周囲を飛んでいた幸手のヘリは二機だけだった、大宮のヘリ軍団に指をくわえてみている。黒煙がかなりの箇所であがっているので、輸送ヘリも相当墜落したな。予想された地上からの反撃は全く無く、こちらの被害はゼロ。すんなり行き過ぎだ。

 上手く行き過ぎて怖くなってスミレさんにこっそり聞いたら”それだけ掛かったからね。失敗したらお小言よ”と笑われた。
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