寝起きでロールプレイ

スイカの種

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第一章

第33話 市役所監禁生活開始

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 それから行田まで、途中然したるトラブルも無く進んだ。
 一応、トラブルは有ったな。
 鴻巣にある十七号バイパスでショゴス満載の二十トンダンプカーが横倒しで道路を塞いだのだが、俺らが通る前に空爆で焼き払ってしまっていた。
 ダイナミック過ぎんだろ。

 そこを通った時、リアガラスに二つ弾痕が着いたが、張ってた奴らよほど悔しかったんだろうか。

「お?跡着いたか?五十口径だな」

 結構凄い音と衝撃だったが、五十口径って・・・、対物かよ。蜘蛛の巣も走らないし半分も抜けていない。どうなってんだこの耐久性、後で調べよ。

「徹甲弾だったらどうすんだ?」

「無理無理、五十口径に載っかる程度の弾じゃ抜けねぇよ」

 やっぱ、怖いのはRPGか。
 言いたかったな・・・。



 大宮チームの護衛は行田までで、そこからは熊谷と籠原の合同で引き継ぐ。
 地元企業も多数が協賛し、お祭り状態だ。五十台近い車両で前後左右囲んで並走が開始された。これを割って入る誘拐犯は只のアホだろう。

 と、思ったが・・・。

「やべぇな」

「あ。やっぱり?」

「今、スミレさんに確認取ってる」

 熊谷の市街地が近すぎるので、誤射誤爆の危険が大きいから大宮の空挺部隊と野戦部隊はノータッチだそうだ。防衛主催側は、周囲の車に直ちに離れるよう勧告してるが、位置取りで少しでも近くになりたいと、ポジション争いが始まってる。そんな事してなんの得があるんだ。

「いざとなったら突貫するから、ベルト締めとけ」 

「スミレさんにも、焼却指示出してもらう」

 過激だなぁ。

「前の三台が狙ってるな。やられる前に、タイミング見て先に突っ込むぞ」

 これ、街に入ってからも大丈夫か?
 大人気過ぎだろ。

 舗装されていない路肩にまではみ出して爆走するヘンテコな車たちは、熊谷の勢力図の縮図とも言えるのだろうか。
 巻き上がる砂煙でよく見えないが、皆、命が惜しくないのか?
 ピックアップの荷台で、重機関銃に掴まりながら拳を振り上げてる半裸のガスマスクとかいる。何か叫んでいる。
 つつみちゃんが悲鳴を上げた。

「前の三台後ろ開いた!」

「うっし、行くぞ」

 急激なGでシートに体が押さえつけられる。
 前を走っている三台のバックドアが開き、でかい射出口を構えた奴らが見えた。形状から、ロケットでも撃つのかと思ったが、ワイヤーアンカーだったみたいだ。
 この車が急にスピードを上げたので、三台のミニバンは泡を食っている。左前の車が一本だけ慌てて撃ったが、バンパーで弾かれ砂埃に消えていった。
 誤射した一台が、ワイヤーが後続に絡まったのだろう、玉突きしながら脱落していく。あ~あ~・・・。
 おっさんはここぞとばかりに、真ん中だったミニバンに斜めからカマを掘りに行き、そのままグングン加速して押し分け跳ね飛ばしながら抜かしていく。 むちゃくちゃだよ。
 周囲の車が紙屑みたいだ。とんでもなく硬いな。これ。
 おっさんは口笛吹いているが、つつみちゃんは顔真っ青で俺にしがみ付いている。ちゃんとシートに収まっとかないと危ないぞ。

「ちょっと!離さないでよ!」

 あ、はい。

「直ぐ着くぞ!ゲート開けてもらっとけ!」

「開いてるって!一緒に入る奴は全部重機掃射だって!」

「うっひゃっひゃっひゃっ!」

 おっさんが嬉しそうだ。
 頑張って前に出てきて邪魔しようとしたのが何台かあったが、さっきのピックアップが一斉射で黙らせた。
 この車はスモークで中が見通せない筈なので、俺が見たのを気付いた訳ではないだろうが、射手のガスマスクが親指を上げている。見えてないと知っているが、俺も応えておいた。こういうのは気のもんだ。

 おっさんが無線をスピーカー出力に替えた。

”れは威嚇ではない。・・・市町門を潜った並走車両は須らくハチの巣にする。必ずゲート前で止まれ。必ずゲート前で止まれ・・・”

 スミレさんの声だ。
 だいぶ少なくなったが、まだかなり周りを走っている。
 隣に付けた白いセダンが窓を開け、至近距離から機関銃を乱射してくる。タイヤにも向けて撃っていた。大丈夫なのか?
 目の前の窓に当たり、雨粒がバラバラと当たる音を立てた。跳弾したのか、そいつはのけ反ってすぐ引っ込んだが、代わりに身を乗り出した奴は世紀末スタイルで火かき棒を持っている。笑いながら涎を垂らし、目が逝っちまってる。

「おっと、それは困る」

 おっさんが急ハンドルで体当たりすると、軽く当たっただけに見えたが凄い勢いで横回転しながら脱落していく。火かき棒の奴は車から投げ出されて、
 ああ。見たくない。

「ゲート入ったら市庁舎で変更ないな?」

「ようそろ!」

 つつみちゃんかっこええ。

 遠くからの見た目は一面黒い壁だったが、十メートル近い高さに積み重ねられたデカい古タイヤが鉄条網で補強されている。
 深い堀で隔てられた上をダンプが余裕で通れそうなデカい跳ね橋降りていて、ほとんどの車は手前の広場で止まった。
 宣言通り、ゲートを潜った車両はハチの巣になっている。
 容赦ないな。
 防弾仕様だったのが二台、まだ付いてきた。

「一台は俺んとこのだ」

 早速ぶつかり合ってる後ろの二台を見ながらおっさんは自慢げだ。
その二台は、市庁舎までの正面道路で仲良くジルバを踊りながら路面店に突っ込んでいった。
 人通りはほとんど無いのだが、道路に面した窓や屋上、屋根の上は人の顔が鈴なりになっていて、カメラもかなりの数飛んでいる。相当宣伝したんだな。
 最後の市役所前通りは地下駐車場までは誘導用のカラーコーンが等間隔で置いてあり、武装した迷彩服が大量にいて装甲車まで駆り出されている。

 厳重な警備の中、市庁舎の敷地に入り、裏手からスロープを下って地下駐車場へ降りていく、中には人気がほとんどなかった。
 俺らの車が入った後、入口は直ぐに封鎖された。
 スミレさんと、確か画像で一回だけ見たことがある熊谷ターミナルの駅長がエレベーター前で談笑している。熊谷は駅長が市長を兼ねてたので、名実ともに、このターミナルのドンだ。確か、電車弄りが大好きで、市長と呼ばれると怒るらしい。

「お疲れ様、しばらくまた缶詰だけど、とりあえず、おかえり」


 静まり返った薄暗い駐車場内にスミレさんの声が消えていく。

「お世話になります」

 俺がぺこりと頭を下げると、視線の片隅でつつみちゃんが片眉を上げたのが見えた。なによ?

「まぁ~ず頑張ったな、次からあ、外回りん時は何人かお付き持ってぐんだで?」

 このじいさん、背広似合ってないな。ちょっと呑んでないか?うぁ、酒臭。

 「はい」

 殊勝な態度をしておこう。

「っし。スミレちゃん、おらぁ上で飲みなおすからよ。後よろしくな」

 駅長はそれだけで行ってしまった。なんだったんだ?顔見せ?

 その後、おっちゃんは車を返すとかで別行動となり、つつみちゃんといっしょに市庁舎八階にある四ホールの内の一つに案内された。パーテーションが切ってあり、入り口前には何人か物々しい方々が立っていて、ホール内には組み立て式の巨大なコンテナが二つ運び込んである。

「一つはリョウちゃんが自由に使って、プライバシーは保証するから」

 監視が凄くてプライバシーが仕事してないぞ。

「もう一つは仕事用。セキュリティは問題ないわ」

 一生ここで暮らすのか・・・?
 これだけ被害を出して、これだけサポートしてでもサルベージさせたいんだから、相当のリターンが期待できるのだろう。
 籠の中の鳥で一生を終えるつもりは無い、当面の目標はスキルアップだな。サポート無しで、ナチュラリスト含め、寝てる時でもハッキング対策しないとだ。
 多分、ここでは検索にも監視が付くから、役人たちを刺激しない程度に少しずつ調べていこう。



 今回の事で確信したのだが、この世界は、命の価値がすごく軽い。俺が起きていた当時の共産圏やイスラム圏より軽い。だが、その軽さの中に重さが存在している。
 金さえ有れば、緊急時に即レスキューが来る強力な保険に加入できるし、致死傷でも直ぐ治るから医療のあり方が全く違う。
 もし俺が、金も無く、何も知らずにナチュラリストに捕まっていたらと思うと、寒気が止まらない。
 つつみちゃんがあそこで待っていなかったら、壺を被って、エルフに嬲られながら肉を削がれる毎日だったかもしれない。死にたくても死ねない毎日を送っていたかもしれない。考えるだけで絶望しそうだ。

 ガキの頃、足をぽっきり折る大けがをして、入院した時、全治何週間とか、リハビリして元の生活に戻れるまで何か月とか言われて、ゲームと違い、やり直すのに時間と手間がかかる現実にうんざりしたものだが、その当時と比べれば、今はゲームの中みたいなものだ。死んだら終わりなのは当たり前だが、死ななければ直ぐにリカバリーできる。ゴミ捨て場に落ちてグチャった時でも、痛いは痛いが、絶望感は入院当時より少なかった気がする。

 現実感が欠如しているのか?まだ頭のどこかで、これは夢じゃないのかと、現実の俺は半覚醒で夢見心地のままベッドに横たわっているのでは?

 SFで一時期流行ったフルダイブなんてものは俺が起きている時は存在しなかった。夢の中でゲームができないかと、試みられたことは有ったが、倫理上問題が大量にあったし、半覚醒での細密なコントロールも不可能だった、夢の処理不足により脳に悪影響がある事が判明したのもデカい。
 ただ、逆に言えば、倫理上の問題に目をつぶれば仮想空間へのアクセスは可能だった。

 サイボーグ化手術も必須だった為、一部の大学や企業でのみ研究され、市販されていなかったが。頸椎から外部に構築したニューロンネットワークへ随意筋に指令を出す部分のみを接続し、脳からの指令を送受信可能な状態にして、且つ、別口で網膜を同期させる。
 これで、与えられた仮想空間で実体を動かさずに疑似的に動くことが可能になる。当然、本体は植物人間状態なので、倫理的にアウトだ。実験だけでも、倫理違反だと当時かなり騒がれた。ゲームや映画みたいに、遮断にプロセスは必要無かった為、最悪内外どちらからでも、接続ぶった切れば直ぐに復帰できたが、随意筋を機能させなくするのが犯罪に使われる可能性大なので、認可が下りる訳無かった。
 ただ、この技術は、一部、医療や介護、人類が踏み込めない未踏破地域の開発に多大な貢献することになった。
 俺が眠っていた間の宇宙開発にもかなり役立った事は容易に想像できる。

 そうだ、それで思い出した。
 今の俺は、達人の技術がダウンロード可能なんだ。
 チートで悪いな。
 接続したら試させてもらおう。
 許可下りるかな・・・?
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