寝起きでロールプレイ

スイカの種

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第一章

第28話 トンネル通過

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「出会ったらどうすればいい?」

「殺せ」

殺し屋は笑いもしない。

「トンネル内にあるのは全部捕食者の巣だ。今のところ十七か所。まだ調べてないが、崇拝者たちは鉄道博物館跡に潜んでいるんだろう」

 崇拝者についても聞きたいが。

「捕食者はアホが多い。手や、体の周りから光りながら水やら火やら石やらを出す攻撃しかしてこない」

 ああん?

「厨二患者?」

「おまいう」

 くっそ。

「性格はかなり姑息で卑怯だが、攻撃手段はそれだけだ。人質とか大好きだから気をつけろ」

 お前が人質に取られるタマかよ。

「相棒が人質に取られて、奪還する前に喰われたら困る」

「ねーよ」

「崇拝者は捕食者の十倍いるとみた方がいい。やつらは精神破綻者で、崇拝者の寵愛の為にあらゆるものを捧げる」

 そういう関係か。

「崇拝者と違って、火器を使うし、数が多いので、こっちのが面倒」

「作戦は?」

「ガンガンいこうぜ」

 まじかー。

「冗談だ。トンネル内はトラップがてんこ盛り、どうせ通り道が何本もある。私が全部マーキングする。基本、後をついて来い」

「りょ」

「誰もいないから、どうせ食事タイムで地上に出てはっちゃけているんだろう。都合がいいので今のうちに行けるとこまで行く。九龍城に入れば、わたしの庭みたいなものだ」

 心強いわー。殺し屋マジイケメン。

 行くのは良いとして。

「開けた穴はどうするんだ?」

「勿論完全に塞いでいく。奴らが戻ってきても、気付かれて塞がれるだろう。奴らでもこの空気吸えば死ぬからな、ああ。トンネル内の空気は吸うなよ。病原菌マシマシだ」

 汚いなぁ。そんなとこでヤってんのかよ。

 細かい部分や不安点、不明点は思いつく限り詰めていく。
 フローターは安全が確保されないと危なくて飛ばせないが、一台だけ先行させる。トンネル内を進むのは二キロほどだ。トラップ満載だと言うが、アンブッシュはまず無いとの事で、スニーキングしないで走り抜けると言う。

「ワームを九龍城の所まで先行させてある、さっき偵察した時のデータ読み込んだから、一キロ先までのデータは把握した。一キロ進んでバレてなければ一分休憩、バレてればそのままワームを回収しながら走り抜ける。トンネル内には隠れ場所が無いから、随時わたしが判断する」

 説明しながら、トンネルの壁にマーカーで印を付けている。穿孔予定箇所か。多いな。

「ああ。ウエハー状だから、セリ矢は意味が無いのでしない。穴をあけて力技で押してもらう」

 セリヤって何だ?

「ネット接続はするな。サルベージャーからの呼びかけには答えていい」

 サルベージャーってつつみちゃんのことか?てか、良いのかよ。

「理由は?」

「サルベージャーの通信はダミーで多方面にとばしてるオリジナルの暗号通信だ。エルフには居場所はバレにくいだろう」

 そっちじゃない。

「どう答えればいい?」

 あんたの事だ。

「匿名の協力者と言えばある程度察する」

 それで良いんだな?後は・・・。

「物資とアシストスーツは?」

「カメラは全部。あと、チャージドッグは一台持っていく。物資は救急セットのみ。残りは全部クレバスまで自動運送だ」

 おおう。廃棄か。ちょっと愛着わいてきたんだけどな。

「大丈夫なのか?」

 補給とか、不法投棄とか。

「問題ない。よし印付けたところ、一番下一列やった後上から始めろ」

 自信満々だな。ならいい。
 とりあえずドリラーになるか。

 鮮度が命。開け始めたら最後まで一気にいく。直ぐに固まっちゃうからな。
 慣れたもので、数分で全部済んだ。

「開けた」

「よし、下半分。一気に押せ」

 一気に押したら、アシストスーツの出力から一拍置いて、コンクリが割れる音と、何かが引きちぎれる音を響かせて綺麗に動いた。

「鉄骨とかケーブルは入ってないんだな」

 補修材がボトボト垂れてくるかと思ったが、そんなことは無かった。半乾きのセメント状のモノと固いセメントがブルーシートで何層にもサンドしてある。吹き込んでいく風の所為で向う側が暴風域になっている。俺らも飛ばされそうだ。

「メンテナンスが手間だからじゃないのか?知らんけど、とっとと行くぞ。出たらすぐ閉めろ」

「うぃっす」

 外れた部分は、元の位置に戻すとあっという間に風が止んだ。性能良いなぁ。
 移動した跡が残ってしまっているが、これはどうしようもないな。

「なぁ、これ。気圧の変化でバレるんじゃないか?」

「風は九龍城から吹いている。バレにくいはずだ。よし、動きだした。トラップは赤でマーキングする、わたしの足跡は黄色でマーキング、行けそうなルートは判明次第緑でルート表示していく。何かあったら緑ルート」

 逆方向に逃げないで済むことを祈ろう。

 それから、早足で進み始める。移動開始後、つつみちゃんから秒で連絡が入った。

「よこやまクン!わたしのマイコード下四桁!」

「6600」

 暗記してる。使ってないけど。

「ああああぁあ。はぁあああああっ」

 泣いている。

 殺し屋は、聞こえてるはずなのに、茶々をいれてこなかった。
 つつみちゃんは、なんか喋ろうとしてるが嗚咽しか出てこないらしく、暫くして艶のある落ち着いた声に代わった。

「ツツミはダメなので引き継ぐわ」

 何故にステレオ。無駄にクリアな音声だ。ゾクゾクする。スミレさんだ。

「そこが危険なの知ってる?」

 状況説明しろって事ね。

「エルフの住処でトラップだらけ、アトムスーツで鉄道博物館跡に向けて時速五キロで進行中。協力者一名」

「そこまで。今ファイル送るから展開して。防壁起動後に続き話しましょう」

 なんか送られて来たが、開いていいのか?
 殺し屋を視たら、移動スピードは変わらず、ログで反応ではなく、こちらを見ずに右手の親指を立ててきた。
 おっけーってことか。
 ファイルを開くと、結構大きめの解析対策ソフトが展開した。
 有人ソフトだ!リアルタイム更新が直ぐに始まる。なんか、更新が十人体制なんですが。すげーな。

「これでとりあえず大丈夫そうね。ログがしっかりしてないから正確に分からないけど、ファージ接続は何かした?」

「無意識とかはわからないが、しないよう言われてて、つつみちゃんの音声の時のみと、後は今のこの通信」

「賢明ね。後七分で大宮からレスキューチームが出るわ。博物館跡は彼らの真っ只中を通るからルート変更して欲しいんだけど」

 殺し屋は親指を下げている。

「ルート変更はできない。大宮まで二人で抜けるつもりだ」

 スミレさんは小さい声で”あらまぁ”と呆れている。

「カメラは三種類一八台、バッテリーも連れている。俺はアシストスーツを着ていて、奴らの行動パターンはある程度聞いている」

「武器は?」

「武器らしい武器は無い」

「なるほど」

 その”なるほど”は凄く中身が気になるな。

「なら、サポートする方向で動くわ。鉄道博物館跡に着いたら地獄の穴を目指して。そこで合流してもらうわ」

「わかった」

「危ないからもう切るわ。捕捉はしてるから、アクシデント起きてもそちらから繋がないでね」

「わかった」

スミレさんからの通話が切れると、殺し屋はすぐ話しかけてきた。

「以降、通話はレーザー通信をメインにする。遮蔽物があるとカメラを中継しないとつながらないから気をつけろ」

 レーザー通信は、傍受がほぼ不可能だからな。送受信ユニットにピンポイントで照射されるから遮って且つ解析しないと内容は読めない。勿論、可視光じゃないから、気付かれる可能性もかなり低い。
 とりあえず、ファージは切れたの確認して、通常無線も切り、レーザー起動。

「これでいいか?ぉおおお!?」

 凄い勢いで俺の頭のすぐ後ろを石が飛んで行った。
 そのまま壁にぶつかり鈍い音を立てる。

「・・・。ピアノ線の表示もっと太くしとくか」

「よろしく」

 全部避けたつもりが、見返したらちゃんとワイヤートラップの表示がしてあった。細すぎて見逃した。
 多分、侵入者用の配置だったのだろう。逆方向からハマったら頭が石にすげ替わってたわ。

「もう、カメラは記憶メモリ抜いてリアルタイム通信のみにする。全部出すぞ」

 総力戦か。

 殺し屋はチャージドッグと並走し、メモリを引き抜いたカメラから次々と放り投げ始める。

「データはどうすんだ?」

「ポッケないないだ」

 深くは聞かない。

「先行したワーム二台は?」

「抜いてある」

 杞憂でした。

 十分も経っていないだろう、進行方向から爆音や射撃音が聴こえ始めた。

「陽動が始まったな。急ぐぞ」

 真っ暗な中、撒いたカメラのお陰で描画スピードが加速する。今までざっくりだった障害物がワイヤーフレームで細かく表示され、殺し屋の識別による罠やルート設定も格段に早くなる。

「百メートル先に水たまりがあるな。飛び越えるから先行して肩貸せ」

「あれを?!」

 幅二十メートルある。跳ぶの?あれを?
 池の中に生け簀が囲ってあるが、中には居ちゃいけない者たちがいる気がする。両端の壁際に小道があるが、ワザと通りずらくなっている。逃げ出し防止なのだろう。
 エルフっぽい奴が一匹、水の中でそいつらの一人相手に馬鹿笑いしながら腰を振っている。
 飛び去ったカメラにも、走り寄る俺達にも気付かず、向うからの戦闘音も気にしていないようだ。

「加速していいんだな?」

「おけ」

 ぐんとスピードを上げ、並走していたチャージドッグを脇に抱える。
 ベルコンは片側を、殺し屋に分かるよう後ろに差し出しておく。
 踏んだらカタパルトする用だ。

 これは、貯水池なのだろうか、飼う専用なのだろうか。糞や食べかすが大量に浮いていて飲みたくない水質だが、そこまであと二十メートルというところでそいつにバレた。

「無礼者めぇ!何奴!!」

 視認だと良く分からなかったが、声は男だった。嬲っていた壺頭の者を突きとばし、引き抜いた性器から白いものが飛び散っている。

「ゴー」

 殺し屋の声の後。みしり。とベルコンに加重がかかり、届くギリの力を意識して殺し屋を放り投げる。頼むからケガすんなよ。
 一瞬後、自らも跳ぶ。
 跳ぶルートは丁度、間抜けな顔をしている奴の真上だった。
 頭の通過点にベルコンを置いておいた。
 ベルコンから軽い衝撃が来た。
 
 殺し屋は俺の数メートル前に着地し、泥水を盛大に跳ね飛ばしながらフィギュアスケーターばりに滑っていき、ある程度スピードが落ちるとまた走り出した。
 俺は、ベルコンの二本と足二本で、無様に回転しながら滑り、路肩の罠を踏みそうになった。
 殺し屋は、俺のベルコンに付いた潰れたトマトの欠片をちらりと見て。

「おやおや」

 と嬉しそうに笑う。

 正直、こいつの話だけでは半信半疑だったってのはあるが、アレは確かに、いちゃいけない生き物だ。タチが悪すぎる。
 俺が眠る前の世界だったら、人権派弁護士が狂喜乱舞して守りそうな奴だ。
 
 先行していたフローターがトンネルを抜け、開けた場所に出た。
 薄暗く、緑が多い。
 確かに、九龍城という言葉がしっくりくる。
 元々は、車両の格納庫だったみたいが、底が見えないほど崩れていて、崩れたところにまた住居が建てられている。朽ち果てた列車は手製のドアやら梯子やらが付いてるので住居や通路になっているみたいだ。格納庫の両側は駅ビルだったのだろう、ブロックとモルタルで作られた積層住宅が建築基準法を無視した構造で乱立している。
 そして、なにより、電気が通っていた。派手な電飾が照明代わりに使われていたり、逆に、真っ暗なエリアが在ったり、電線も縦横無尽に走り、よりカオスな雰囲気を醸し出している。そして兎に角ゴミだらけだ。
 所々、人影が見えるが、メンテナンストンネルに近寄って来る者はいない。

そだ。

「人と監視機器のマーキングは?」

「あと、人以外の不明な動物。今設定中」

 言うまでもなかったか。

 心臓がバクンバクンと今までになく波打っている。俺の息が荒くなっているのは、ここまで走ってきた事だけが原因ではない。メンテナンストンネルの出口に着いたのだが、ここはカラフルに彩色された皮や骨で全体がグロテスクに装飾され、悪趣味丸出しだ。
 近づいて隠れた時によく見てしまったのだが、腐食して蛆に喰われている皮も多くあった。
 何層にも重ねてある。・・・のだが、無駄に傷付けたり、態々革ひもや針金で縫って治した跡が大量にある。
 こいつら・・・。

「いくぞ、ついて来い」

 出来るだけ姿勢を低く取り、ベルコンも使ってゴキブリ状態で殺し屋の後を追う。
 明かりを避け、ゴミと汚物と死体で埋められた脇道をかき分けて進む。

「赤マークは直ぐ殺せ」

 さっきのみたいな、あんな死に方は絶対したくないな。

「うぃっす」

 アシストスーツの両手には転がっていた石を握っておく。届かない奴に投げつける為だ。
 そんなにしない動きだから、六つ足歩行は背中の変なところが疲れる。だが、これ着たまま立ち上がると、只の的なので、低く、頭は絶対上げたくない。
 索敵はカメラと殺し屋が十分やってくれている。俺はメットに表示される画面を視ながらしっかりついていく。俺の今する事は、保身に努める事。

「大宮側と南側から攻撃が来てる。北西に抜けてから穴まで行くのが正解のはず」

 ルートは?

「設定完了、ルート二色表示、注意が必要な箇所は緑に紫を重ねる」

「わかった」

 カメラたちから入ってくる情報を元に、動くものには、殺し屋が片っ端からマーキングしている。問題なさそうなのには白、不明は黄色、危険は赤だ。
 赤はシルエットで表示、且つ付近のカメラが一台張り付く念の入れようだ。ルート上には今の所居ないが、見つかりそうなポイントが何か所かある。
 救援チームの陽動の為だろう、南側にかなりの赤マークが寄っている。
 映像からは、銃を持っているボロボロの頭陀袋が十人以上、遮蔽物越しに応戦してるのが見られる。

「まずいな」

 殺し屋の舌打ちと同時に、カメラの一つがブラックアウトした。

「かなり使える奴らがまだ下にいた。フローターが一台落とされた。気付かれる前に急ぐ」

「どっちの奴?」

「両方」

 うぇぇ。

「エルフの方は念力っぽい事やってくる。見えにくいモノ飛ばしてきたから気をつけろ」

 光って位置教えてくれながら叫んで自己顕示するアホばかりじゃないのかよ。

 周囲におどろおどろしい男の声が響く。

”我らの寝所より侵入者だ。二匹。見つけ次第我が前に引き立てぃ”

「わーぉ」

 走りながら殺し屋が嬉しそうに笑った。

 どこにスピーカーがあるのか、この空間全体から聴こえた気がする。
 周辺のほとんどの黄色マークも赤に変わり、カメラが立て続けに三台破壊される。

「繋がなくていいのか?」

「動け」

 へいへい。

 崩れた家屋の隙間や、元はシャッター街だったらしいゴミだらけの小道をひたすら急ぐ。
 少し開けた十字路の手前で、そいつは上から落ちてきた。
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