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第一章
第21話 初ルート検証
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三日前に撮影完了したというその動画は奴の顔のドアップから始まった。
”我々は、今、未知の領域に挑戦している”
インテリ眼鏡に無駄に真面目な表情でムカつく。服装もびっちりスーツでキメている。
”地上人で、この深度の探索をするのは我々が初めてだろう”
そんなこたぁないだろ。
”この探索が、人類への多大なる貢献にとなる事をわたしは確信している。協力してくれた方々の期待を裏切らないことを約束しよう”
おいおい、風呂敷広げ過ぎちゃって大丈夫か?
てか、スタジオ借りてまでこんな前置き必要か?
「ちょい待て、なんでこんな小さい画面なんだよ」
俺と殺し屋は、十インチ程の小さい画面一つで、額を寄せ合って観ている。
「仕方ない。こんな骨董品しか売ってなかった。オフラインで画面見る人がほとんどいない」
今度、俺の方でも探しとくか。
未編集で、殺し屋もまだ中身観てないから二人で初見だ。
実は、ちょっと楽しみだった。
未探索の洞窟探検動画とかワクワクしか無いだろう。
上越ラインの支線は、厳重に封印されている訳ではなかった。
エアロック式の隔壁三枚だけで、プロテクトも雑で、役所から許可とれば誰でも入れる仕様だ。
除染は自前でしなきゃなので、若干手間ではあるが。土地柄、専門業者がたくさんいるから、業者に頼めば日当でやってくれるのだと言う。
フローターというトンボ型の浮遊カメラ。ワームという平たい蛇型の水陸両用カメラ。後、定番のスパイダーという蜘蛛型のカメラの三種類と、バッテリー充電用の電池を登載した悪路用のチャージドッグという四足歩行する頭のない犬型のロボットで四台一チームとしてロケを開始した。
三種類のカメラは、可視光だけでなく、紫外線、赤外線、ファージ分布、音波探査、電磁波探査が出来て、サイズもこぶし大とコンパクトだ。
基本、三台とも起動で、場所によって使い分ける感じだ。
う~む。モニター三台欲しいな。
隔壁の外は、呼吸できる空気ではなく。ちょっと進むともうほぼ二酸化炭素のみだった。当然、呼吸に酸素を必要とする生き物がいない死の世界だ。
俺としては、蝙蝠とかカマドウマとか、気持ち悪い芋虫とか出てこない洞窟は助かる。同じ空気内にいるだけで空気感染で変な病気たかりそうだし。
真っ暗な中、視覚は赤外線カメラメインで色調補正かけてカラーにしている。
「なんかコケ生えてね?」
百メートルほど進むと舗装は途切れ、そこからはむき出しの洞窟なのだが、色は緑ではないがビロード状のモノで壁や天井までがびっしり覆われている。
「う~ん。どうせ持ち出し禁止だからと思って、採取装備積まずに出したんだ。湿度も百パーセントだから、コケっぽい」
残念、採取は無理か。
「拡大できないのか?」
「リアルタイムじゃないから限界あるけど、ちと拡大してみる」
ワームのが一番近かったので、停止して拡大すると。
「おおう・・・」
「む」
コケだった。
内部の隙間には小さい白い虫がびっしりいる。
見ただけで体が痒くなってくる。
水没している箇所がかなりあったが。一応、水中でも人が通り抜けられるスペースは確保できている。
「事前に地形読み込ませておけば、ヘルメットが汚れたり曇ったりしてもレンダリング情報最小で視認は困らない筈」
便利な時代だなぁ。
「ヘルメット自体はポリカーボネイトのままの予定だから、間欠泉とかで熱水もろ被りすると危険かも」
「耐熱温度は何度なんだ?」
「スーツは百八十度までだけど。熱は通すから六十度超えたら火傷すると思ったほうがいい。ヘルメットは百二十度超えたら変形する」
「遮熱は考えないのか?」
「水中での動きが悪くなる」
水の中で動きにくいのは致命的だな。とりあえず観ていくか。
それから一キロほど進むと、コケがほとんど生えていないか、枯れているかで、靄が立ち込めて視界がほとんど確保できなくなってきた。
「希硫酸の霧だ。若干アスベストが含まれてるけど・・・」
「何だ?」
「空気中にファージのネットワークがかなり濃く形成されてる。以前見たことある・・・」
なんだよ。もったいぶるなよ。
「これは多分、巣」
そう言ったきり黙り込んでしまった。
そういう演出なのか?
俺を怖がらせたいんだろ。
コツン
と、当たるまで気づかなかったが、空気中にほんの数ミリから数センチの白く半透明な細長いものがウネウネ飛んでいる。見た目はシラスウナギっぽかった。
フローターは危険を察知したのか地上に降りてチャージドッグの背中にちょこんと乗っかった。
「何なんだ?これ」
「多すぎる。餌の確保が出来る筈ないのに」
カタカタ貧乏ゆすりしている。
動画を拡大して、またすぐ戻した。苦手なようだ。
「これは、ぴくぴく虫」
虫?なのか?
「実際に南米に原種が生息してる。カンジルとか言うキャットフィッシュの一種」
ナマズか?
「ドクターフィッシュみたいなもんか?」
あの、古い角質食べてくれるやつか。
「あんな生易しいものじゃない、ああ、ほら」
指さした箇所を見ると、白骨化した四足歩行の動物が小さい池に沈んでいた。ちとまて、なんであんなでかいのがこんな所にいるんだ?!
よく見ると、池の中はぴくぴく虫だらけだ。
水中にも、空気中にも、壁面にも至る所に無数にいる。
「原種は餌を見つけると、喰いついて離れない、カミソリみたいな歯でピチピチ暴れながら食べ進んでいく」
げぇ。
「これは、ファージのデータから作られた紛い物。だからエラで酸素呼吸していない、アスベストで蜘蛛の巣状の移動ルートを形成して、表皮の鞭毛を使って三次元に移動する」
死なずに喰い進むのか。
「なんでこんなのが存在するんだ?」
おかしくね?生き物なのか?
「スリーパーには馴染みがないだろうけど、この世界で悪意は具現する」
いると信じたら本当に出会うって事か。
こいつらを出現させたいって願ってる奴が大量にいたのか?
「狂ってるな」
「澱みにはオカシイ現象がもりだくさん。さっきの骨もタマタマ生成された動物だと思う」
一つ疑問なんだが。
「何で知ってたんだ?」
「・・・。」
言いたくないなら別に。
「以前、仕事に失敗したとき。こいつの入ったプールにクレーンで吊り下げられて裸で浸けられた」
それは。
「よく生きてたな」
「しぶといのがわたしのとりえ」
目が死んでるぞ。
「このルートは止めるか。まだいくつかあるんだろ?」
「ここ以外は安地かもしれない、行ったところまでの記録は確認しておく」
「なら、俺がやっておく。違うルートの選定しとけよ」
生暖かい目で見られた。
別に、同情した訳じゃないからな。
結論から言うと、このルートは無しになった。
上の層に進む前に熱水が吹き出る層にぶち当たり、スペースは確保できても、耐えられない温度の濁流の中を進むはめになった。ワイヤーアンカーでルート固定しても不可能だ。
果敢に進んでいくロボットたちに涙が出る。
「せめて、メンテナンストンネルまで出られればなぁ」
その後、進行不能となり、帰途に着くロボチームを見ながらため息が漏れた。
「進行可能距離は十四キロ、上昇距離は三百メートル。ダメダメだ」
殺し屋は少しションボリしている。
「次回は反対側のルートだから、全く違う経過になるはず、乞うご期待」
”我々は、今、未知の領域に挑戦している”
インテリ眼鏡に無駄に真面目な表情でムカつく。服装もびっちりスーツでキメている。
”地上人で、この深度の探索をするのは我々が初めてだろう”
そんなこたぁないだろ。
”この探索が、人類への多大なる貢献にとなる事をわたしは確信している。協力してくれた方々の期待を裏切らないことを約束しよう”
おいおい、風呂敷広げ過ぎちゃって大丈夫か?
てか、スタジオ借りてまでこんな前置き必要か?
「ちょい待て、なんでこんな小さい画面なんだよ」
俺と殺し屋は、十インチ程の小さい画面一つで、額を寄せ合って観ている。
「仕方ない。こんな骨董品しか売ってなかった。オフラインで画面見る人がほとんどいない」
今度、俺の方でも探しとくか。
未編集で、殺し屋もまだ中身観てないから二人で初見だ。
実は、ちょっと楽しみだった。
未探索の洞窟探検動画とかワクワクしか無いだろう。
上越ラインの支線は、厳重に封印されている訳ではなかった。
エアロック式の隔壁三枚だけで、プロテクトも雑で、役所から許可とれば誰でも入れる仕様だ。
除染は自前でしなきゃなので、若干手間ではあるが。土地柄、専門業者がたくさんいるから、業者に頼めば日当でやってくれるのだと言う。
フローターというトンボ型の浮遊カメラ。ワームという平たい蛇型の水陸両用カメラ。後、定番のスパイダーという蜘蛛型のカメラの三種類と、バッテリー充電用の電池を登載した悪路用のチャージドッグという四足歩行する頭のない犬型のロボットで四台一チームとしてロケを開始した。
三種類のカメラは、可視光だけでなく、紫外線、赤外線、ファージ分布、音波探査、電磁波探査が出来て、サイズもこぶし大とコンパクトだ。
基本、三台とも起動で、場所によって使い分ける感じだ。
う~む。モニター三台欲しいな。
隔壁の外は、呼吸できる空気ではなく。ちょっと進むともうほぼ二酸化炭素のみだった。当然、呼吸に酸素を必要とする生き物がいない死の世界だ。
俺としては、蝙蝠とかカマドウマとか、気持ち悪い芋虫とか出てこない洞窟は助かる。同じ空気内にいるだけで空気感染で変な病気たかりそうだし。
真っ暗な中、視覚は赤外線カメラメインで色調補正かけてカラーにしている。
「なんかコケ生えてね?」
百メートルほど進むと舗装は途切れ、そこからはむき出しの洞窟なのだが、色は緑ではないがビロード状のモノで壁や天井までがびっしり覆われている。
「う~ん。どうせ持ち出し禁止だからと思って、採取装備積まずに出したんだ。湿度も百パーセントだから、コケっぽい」
残念、採取は無理か。
「拡大できないのか?」
「リアルタイムじゃないから限界あるけど、ちと拡大してみる」
ワームのが一番近かったので、停止して拡大すると。
「おおう・・・」
「む」
コケだった。
内部の隙間には小さい白い虫がびっしりいる。
見ただけで体が痒くなってくる。
水没している箇所がかなりあったが。一応、水中でも人が通り抜けられるスペースは確保できている。
「事前に地形読み込ませておけば、ヘルメットが汚れたり曇ったりしてもレンダリング情報最小で視認は困らない筈」
便利な時代だなぁ。
「ヘルメット自体はポリカーボネイトのままの予定だから、間欠泉とかで熱水もろ被りすると危険かも」
「耐熱温度は何度なんだ?」
「スーツは百八十度までだけど。熱は通すから六十度超えたら火傷すると思ったほうがいい。ヘルメットは百二十度超えたら変形する」
「遮熱は考えないのか?」
「水中での動きが悪くなる」
水の中で動きにくいのは致命的だな。とりあえず観ていくか。
それから一キロほど進むと、コケがほとんど生えていないか、枯れているかで、靄が立ち込めて視界がほとんど確保できなくなってきた。
「希硫酸の霧だ。若干アスベストが含まれてるけど・・・」
「何だ?」
「空気中にファージのネットワークがかなり濃く形成されてる。以前見たことある・・・」
なんだよ。もったいぶるなよ。
「これは多分、巣」
そう言ったきり黙り込んでしまった。
そういう演出なのか?
俺を怖がらせたいんだろ。
コツン
と、当たるまで気づかなかったが、空気中にほんの数ミリから数センチの白く半透明な細長いものがウネウネ飛んでいる。見た目はシラスウナギっぽかった。
フローターは危険を察知したのか地上に降りてチャージドッグの背中にちょこんと乗っかった。
「何なんだ?これ」
「多すぎる。餌の確保が出来る筈ないのに」
カタカタ貧乏ゆすりしている。
動画を拡大して、またすぐ戻した。苦手なようだ。
「これは、ぴくぴく虫」
虫?なのか?
「実際に南米に原種が生息してる。カンジルとか言うキャットフィッシュの一種」
ナマズか?
「ドクターフィッシュみたいなもんか?」
あの、古い角質食べてくれるやつか。
「あんな生易しいものじゃない、ああ、ほら」
指さした箇所を見ると、白骨化した四足歩行の動物が小さい池に沈んでいた。ちとまて、なんであんなでかいのがこんな所にいるんだ?!
よく見ると、池の中はぴくぴく虫だらけだ。
水中にも、空気中にも、壁面にも至る所に無数にいる。
「原種は餌を見つけると、喰いついて離れない、カミソリみたいな歯でピチピチ暴れながら食べ進んでいく」
げぇ。
「これは、ファージのデータから作られた紛い物。だからエラで酸素呼吸していない、アスベストで蜘蛛の巣状の移動ルートを形成して、表皮の鞭毛を使って三次元に移動する」
死なずに喰い進むのか。
「なんでこんなのが存在するんだ?」
おかしくね?生き物なのか?
「スリーパーには馴染みがないだろうけど、この世界で悪意は具現する」
いると信じたら本当に出会うって事か。
こいつらを出現させたいって願ってる奴が大量にいたのか?
「狂ってるな」
「澱みにはオカシイ現象がもりだくさん。さっきの骨もタマタマ生成された動物だと思う」
一つ疑問なんだが。
「何で知ってたんだ?」
「・・・。」
言いたくないなら別に。
「以前、仕事に失敗したとき。こいつの入ったプールにクレーンで吊り下げられて裸で浸けられた」
それは。
「よく生きてたな」
「しぶといのがわたしのとりえ」
目が死んでるぞ。
「このルートは止めるか。まだいくつかあるんだろ?」
「ここ以外は安地かもしれない、行ったところまでの記録は確認しておく」
「なら、俺がやっておく。違うルートの選定しとけよ」
生暖かい目で見られた。
別に、同情した訳じゃないからな。
結論から言うと、このルートは無しになった。
上の層に進む前に熱水が吹き出る層にぶち当たり、スペースは確保できても、耐えられない温度の濁流の中を進むはめになった。ワイヤーアンカーでルート固定しても不可能だ。
果敢に進んでいくロボットたちに涙が出る。
「せめて、メンテナンストンネルまで出られればなぁ」
その後、進行不能となり、帰途に着くロボチームを見ながらため息が漏れた。
「進行可能距離は十四キロ、上昇距離は三百メートル。ダメダメだ」
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