寝起きでロールプレイ

スイカの種

文字の大きさ
上 下
20 / 71
第一章

第20話 無駄に毟られる

しおりを挟む
 金を毟られつつ半年ほどが経過したある休日の土曜日。殺し屋が台車に大量の金属ブロックとアトムスーツ二着を載せて来た。

「なんだこれ?」

「この強度のマレージング鋼を確保するのは至難の業だった、わたしは褒められていい」

「素敵」

「ふふり」

 金属ブロックはマレージング鋼で出来たベルトコンベアだった。
 ヒンジ部分が蛇腹になっていて、末端はシャベル状の透明なプラスチックが取り付けてある。

「ソケットは金属に換装可能。これはポリカーボネイトだから強度はそこまで無いけど、ファージを網目状に織り込んである」

 おお!

「やるじゃん」

 ドヤっている。ぷちムカだが、この行動力は称賛されるべきなので放っておく。
 試しに持ってみたのだが。

「重っ!」

 蛇腹ブロックは内部にチューブが何本も通っていて、細かい操作ができるようになっている。この中にファージ入りの人工筋肉がみっちり詰まっている。先端に触覚があるので、頑丈な拳が増えた感覚だ。だが・・・。

「重くて持ち上がらないぞ」

 床に這わせれば動かせるが、そうやって使うのか?

「一片二キロ強ある。全部で八十個作ったから百七十五キロになった」

 俺の体重何キロだと思ってるんだよ。オリンピックのリフターでも無理だろ。どうしろと。

「仕方ない、許可出るか分からないが、アシストスーツも頼んでみる」

 出来たら練習するつもりだったらしいが、そっちは先送りだ。アトムスーツの試着をしてみる。
 殺し屋はシャワー室で着替えたのだが、俺は目の前で着替えさせられた。

「ちゃんとパンツも脱げ、気密するから肌に密着させないと危険」

 このやろう。

「安心しろ、おこちゃまには興味ない」

「俺が恥ずかしいんだよ!」

 俺のスーツは少しきつかったので、再発注する事になった。ここでの健康で文化的な生活のお陰で、少し筋肉が付いてしまったらしい。ウェットスーツ並みにピチピチなのでかなりエロい。殺し屋はスタイルが良いのでもっと超弩エロだ。

「毛細状に生食とエアーの管が入ってるから、汗でそんなにべた付かないし、皮膚呼吸も疎外されない。生理現象の大小はどうにもならないから考え中」

 生食って生理食塩水か?便利な時代だな。バックパックも、ランドセルの半分ほどの薄いサイズで、ワンタッチでボンベ換装でき、一回で六時間持つのだが。確かに、一日で走破できる距離じゃないし、エアロック無いと危なくて脱げないからな。
 そだ。

「減圧症とかどうなんだ?」

「アトムスーツは内圧管理も兼ねてる。多少の温度変化には対応できるし、宇宙に出ても強度的には問題ない。ただ、放射線は防げない。今回は必要ないし、重くなるから考えなかった」

 放射線防ぐには金属で覆うしか無いもんな。地上でそれは、機敏に動けなくて自殺行為だ。

「穴が開いたときは?」

 「損傷部分の内圧が変化してエアーが吹き出る構造になってる。ボンベが空になる前にテーピングする」

 その後、実際に乱暴に動いたり、ワザと傷をつけて素早く補修する訓練を行う。刃物で本気で襲い掛かってくるのヤメロ。あと、何言ってるかわからん。
 何度も、もう十分と言ってるのに、余計にスピード上げて襲い掛かってくる。部屋の中がぐちゃぐちゃだ!

「インカム付けよう、表情とハンドサインじゃ意思疎通に不便」

 殺し屋は、十分愉しんだらしく。満ち足りた顔でヘルメットを外し爽やかにお気持ちを表明された。
 むしろ、何故それだけでいけると思った?

 マッピングも含め動画も撮り始めていると言う。こいつすっげーアクティブだな。こんな優秀なのに何で殺し屋なんてやってんだ?

「俺らがやってる事ってバレバレなんだろ?ロボトミー手術されて南極送りになる危険は無いのか?」

 「ロボットミーは分からないが、探究心は止められないと言って、空き時間に探検隊になる設定。熱弁したら、支援者がたくさん付いた」

 ちょとまて。

「それ、俺からなけなしのおやつ代奪い取る必要あんのか?」

「気分の問題」

 ヘルメット無しでバトルの第二ラウンドが始まる。
 奴が笑い過ぎて動けなくなるまで続いた。



 ダンジョンに潜る描写がよく有るが、ご都合主義の最たるものだ。
 洞窟やトンネルで重要なになってくるのは、明かりではなく、落盤への注意と、吸気確保だ。閉鎖され植物が存在しない環境に空気が都合よく呼吸できる割合で存在する可能性はゼロだ。
 だが、そんなの表現しても面白くないし、絵面が最悪なので、大体スルーして物語が進行する。
 洞窟やトンネルが長ければ長いほど、空調の為の設備と維持コストは膨大になる。

 この、ビオトープ維持の為に使われている空調エリアはひっくるめると可住エリアと同規模になる。空気中に含まれる窒素の量が少し変わっただけで人は生きられないのだから。勿論、安全性は何百パーセントにも設定され、”こんなこともあろうかと”の対応策が幾重にも施されている。
 ちょっとトラブっただけで区画ごと廃棄する映画的な展開は無い。

 だが、これから俺らが通り抜けるエリアは、いつ崩れるか分からず、人体に有害な物質で溢れている。人が通りやすいよう舗装されてもいない。
 いつどこが何が原因で崩れるか分からないので、細心の注意は払うが、非破壊で進めるに越したことは無い。
 アリの穴からダムが壊れるのが実際に起こる環境だ。

 それから一月は平穏な日々が続いた。
 殺し屋もほとんど帰ってこなかったので、実質一人暮らしだ。暇つぶしがオフラインのコンテンツのみなので若干退屈ではあったが、平和が一番だ。



「相棒、鍾乳洞エリアの探索がひと段落したから、鑑賞会するぞ」

 もう、隠そうとしていない。
 ルート検証じゃなかったのかよ。

 見始める前に殺し屋からご高説があった。

「正直言って、思ってた以上に変性が酷かった。心して見るように」

 怖がらすなよ。俺、超常現象とか大好きなんだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン
SF
 2035年ある日地球はジグソーパズルのようにバラバラにされ、以前の形を無視して瞬時に再び繋ぎ合わされた。それから120年後……  男は砂漠で目覚めた。  ここは日本?海外?そもそも地球なのか?  訳がわからないまま男は砂漠を一人歩き始める。  巨大な陸上を走る船サンドスチーム。  屋台で焼き鳥感覚に銃器を売る市場。  ひょんなことから手にした電脳。  生物と機械が合成された機獣(ミュータント)が跋扈する世界の中で、男は生き延びていかねばならない。  荒廃した世界で男はどこへいくのか?  と、ヘヴィな話しではなく、男はその近未来世界で馴染んで楽しみ始めていた。  それでも何とか生活費は稼がにゃならんと、とりあえずハンターになってたま〜に人助け。  女にゃモテずに、振られてばかり。  電脳ナビを相棒に武装ジャイロキャノピーで砂漠を旅する、高密度におっさん達がおりなすSF冒険浪漫活劇!

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...