寝起きでロールプレイ

スイカの種

文字の大きさ
上 下
17 / 71
第一章

第17話 白い部屋

しおりを挟む
 蓋の外に出てみるとサーチライトで照らされた周囲には刺股を構えたガスマスクに防疫スーツが五人いて、殺し屋はそれ以外の三人に腕を極められて押さえつけられていた。
 話は通じるのか・・・?

「ほら、やっぱ二人じゃんかよ。二足歩行で手が四本のショゴスなんている訳が無いんだよ」

 第一声は若い女のドヤ声だった。

「もしもって事があるだろ。あのサーモ画像だけじゃわからん」

 一番でかい奴がくぐもった低い声で応える。
 とりあえず、動けるうちに聞いておくか。

「俺たちはどうなるんだ」

 蓋はまだ空いている。俺だけなら下に滑り降りられる。
 ガスマスク共は、小柄な奴、さっきのドヤ声の女を見る。決定権はこいつにあるのか。

「洗浄、それと」

 ドヤ声女は殺し屋のパイプを見て。

「治療かな」

 ガスマスク共は”ヤレヤレだぜ”と顔を見合わせている。ドヤ声女は刺股を肩に担ぎなおし、ため息と共に歓迎の言葉を吐き出す。

「地下世界にようこそ」

 一応助かったらしい。



 その後、パイプとコードだらけの暗く狭い通路をしばらく歩かされた後、殺し屋とは一旦別々になった。放水で洗われたのは初めてだ。
 刑務所とかで水を浴びせられて拷問される映画とかは観た事あったが。
 ”そのままシャワー室に入られると危険だし臭いが移るので、一旦これで洗い流した後、防疫検査してからシャワーにしてくれ”と言われた。
 水圧で結構痛かった。

 身も心も綺麗になった後、治療ポッドにぶっこまれ、空腹以外ほぼ全快した。出てきた後、身体を拭いている時に奴の事を聞かれ、一緒に落ちた。とだけ伝えた。
 多分、色々ヤバイ物持ちまくってただろうから、大事になっているのだろう。身から出た錆だ。

 俺の方は、ここまで至れり尽くせりで、拷問エンドはまず無いだろうが、ファージが空気中に存在しないのが気にかかる。
 お陰で、つつみちゃんと連絡が取れない。知り合いに連絡させて欲しいと言ったら、係長を呼んでくるから待ってろと言われた。

 嫌な予感がする。

 窓の無い真っ白な部屋で待たされたのだが、鉄パイプの簡易ベッドと折り畳み椅子しか無い、何の用途の部屋なんだここは。その間、担当についてたデカい奴に腹が減ったと言ったら、レーションを渡された。よりによってレーションかよ・・・。しかも賞味期限切れだ。

「すまんな、モノ喰う所じゃないんだ、経口摂取が危険な区域で基本禁止されてる」

 そんなにヤバいのか。大丈夫なのか俺ら。ここよりさらに下で傷だらけで動き回ってたんだけど。



 二時間近く経って、ようやく来たドヤ声女は少し疲れた顔をしていた。

「何度皆を呼ぼうと思ったか」

 俺をベッドに座らせ、自分はその前にパイプ椅子を持ってきてどかっと座る。髪が少し乱れていて、頬に引っかき傷があるが、キノセイだろう。

「一人で面倒見たのか」

 俺がそう声をかけると、少し変な顔をした。

「ご家族?」

 全く似てないと思うのだが。

「通りすがりでたまたま一緒に落ちただけだ」

「そりゃ災難だったね」

 それから、色々衝撃的な説明を受けた。
 まず、ここは地下二千八百メートルにある観測基地の一つで、熊谷観測所籠原支所と言うそうだ。

「にせんはっぴゃく・・・」

 ジオフロント構想でもかなり上の層だった、SF好きな俺からしても胸の躍る深度だ。
 でも、そう考えると、あのゴミ山は色々とオカシイ。確かに蒸し暑くはあったが、人が生きていられる気温と大気だった。長時間いたら確実に死んでいただろうが。
 確か、地下深く掘っていくと温度がどんどん高くなり、酸素の確保も難しくなる。なので、三キロ以上地下にある、あんな広大なゴミ捨て場の環境を人が生きてられる環境に維持するコストは天文学的な金額だ。
 それを聞いてみたら、あのゴミ平原の下は海水が流れているのだそうだ。流れていると言っても、そのまま水が流れている訳ではなく、粘土層を挟んでその下には厚さ数百メートルの珪藻土層があり、そこを染み渡る感じで何百年もかけてゆっくり対流している。
 言われてみれば、空気は蒸し暑いのに、地面や水たまりの汚水は冷たかった気がする。

「空気はどうなっているんだ?酸素は?」

「基本的に空調は無い。ダストシュートの弁が空いた時だけかな」

 偶々、周りにショゴスが多かったんじゃない?酸素放出すんじゃん?と軽く言ってくれるが、割と詰んでたんだな、あの状況。

「いつ帰れるんだ?」

 ずっと、気になっていた。
 ドヤ声女は少し言い淀んで、俺の目を見る

「残念ながら、上に生きたまま戻るルートは存在しない」

 おっとぉ?

「データも、物資も、全て籠原サーバーでフィルタリングされてる。例外は無い」

 どういうことだ?上の何でも出てくる謎物流と関係あるのか?

「この、北埼玉ビオトープは物流以外で地上とコンタクトを取ることは出来ない。上から発注が来て、下から送る。上からゴミが来て、下で処理をする」

 それだけの関係だ。と草タバコを手のひらで器用に巻き始めた。

「吸って良い?」

 どうぞ。と手を差し出す。
 にこっと一瞬愛想笑いして、美味そうに一服してからまた話し始めた。
 ゴウンと音がして空調が強く作動し始める。

「ビオトープ内では、シネマティックファージ接続は禁止されているし、ファージ自体が空気中から除去されてる。地下の他のビオトープとは連絡が取れるけど、ここは、地上とは隔絶された別の世界って考えてもらって差支えない」

 そんなことってあるのか?ありえなくはないのか?
 現に、俺たちは生きたまま落ちてきたのに。

「あんたらみたいなイレギュラーは年に何度かある」

 脇から拳銃を出す。

「無かったことにするか、ここで生きていくか。決めろ」

 銃を持った手を膝に置き、タバコの残りを一気に吸い込むと、吸殻を足で潰した。
 別に、地上に思い入れは無いが、あのニート生活を放り出してまた一からやり直しというのも寂しい。つつみちゃんは俺が消えて発狂しているのだろうか?箱の皆総出で探しているのかな?
 ないな。
 俺がいなきゃいないなりに、世界は回っていく。人一人の出来る事はそう多くない。
 それに、俺がここでここで生きていく事を否定しても、そう簡単には殺されないんじゃないかと踏んでいる。対応が丁寧過ぎるからだ。どうせ、見た瞬間地下市民登録照会されてるんだから、俺が何かはバレている。殺すならすぐ殺すし、利用したいなら直ぐ無力化して脳だけ摘出するだろう。
 あいつの方はどうなったんだろう?んー。何て聞こう。

「もう一人はどうなった?」

 返答は無く。無言で数分見つめ合う。

 駄目だったか?まぁ、殺し屋だしな。

「彼女は、決定権はあんたに委ねるそうだ」

 生きてるのか?それになんだそれ?意味が分からない。
 余計な情報は与えたくないが、言わな過ぎて立場が悪くなるのも困る。
 ただ、あいつの命もってなると、選択の余地は無い。因みに、あの殺し屋が可愛くて好きになっちゃったとかそういうのでは全く無い。殺そうとした相手に命を預けるってどういう気持ちなんだろうとは思う。

「どうすればここで暮らしていけるんだ?」

 ドヤ声女は銃を仕舞った後、大きく溜息を吐き出す。
 タバコ臭い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

MARINE CODE

大賀 零
SF
インターネット上に仮想空間が築かれた時代。その姿を見ると深い眠りにつくといわれるコンピュータウィルス「ホワイトアリス」は世界中のネットを席巻し、人々を恐怖に陥れていた。警視庁ネットポリスの問題刑事・桐生はアリスを見つけ出す為、伝説の特A級ハッカーと名高い「マリーナ」にコンタクトを取ろうと動き出す。

クトゥルフの神々VS人類の神々

puni2fox
SF
神話を調べている時にふと思いついたので、暇つぶしにChatGPTで遊んでみたものです。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

処理中です...