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第一章
第3話 分子機械網
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没入感深める為に、そういう設定にしているんだな。よくある話だ。簡単にゲーム終了できないし、リアリティも半端無い。記憶も中途半端だし、脳内までいじっているのか。このゲーム合法なのか?
「現実感無いのは当然だけど、君の知ってるゲームって、ここまで現実の再現度高いもの存在するの?」
いや。
「リアリティに関しては今までに無い出来なんで、感動してる」
「リアルなんだからリアリティあって当然だよ」
うーん。こういう話は、冷めちゃうからしたくないんだが・・・。
「魔法でささっと怪我が治ったり、女の子が可愛くて耳が長かったりこんな」
言葉を切り、辺りを見渡す。
月明かりだけなのではっきりとは判別出来ないが、積層型都市の残骸が地平線の向こうまで乱立していて、ポストアポカリプス、ディストピアっぽぃ。この世界観は大好物だ。
今、俺らがいるのは、地上から百メートル以上ある非常階段の踊り場。といっても。非常階段の体はなしておらず、木だか岩だかの、ヤギしか通れなそうな小道が一本、隣のビルの穴に伸びているだけで、階段自体は錆てボロボロ、上にも下にも行けそうにない。
下を覗きこむと、ふわっっと風が下から吹き上がってきて吸い込まれそうになった。
この下は真っ暗だが、森だろうか。所々にポツポツと小さな明かりがみえるが・・・。
「こんなカッコいい世界観は俺の住んでいる現実には存在しないしな」
女の子は頷く。
「まず、少年、ええと。名前は?」
なんだっけ?
思い出せない。
「名前・・・」
ヤバい。困ったときは、コンソール起動。
「よこやまりょうま、かな?」
横山竜馬、そんな名前だった気がする。
「よろしく。よこやまクン。わたしはツツミ」
自己紹介は済んだな。今さらだが。つつみちゃんか。
「まず、怪我を治したのは魔法でもなんでもなく。この世界に存在してるシネマティックファージっていうナノマシンを使ったの。わたしがこのデバイスでアクセスして治した」
撫でたそれは、ギターにしか見えない。
どうコメントすればいいんだ?
「わたしの耳がちょっと長いのは生まれつき。遺伝子操作は、流行り始めたのが確か二百年前くらいだから、よこやまクンが眠りに着いてから多分五十年後くらいにトレンドがあった、と思う。いわゆる人間の形をした生き物は今ではあまり多くないかな」
背中に、じっとりと嫌な汗が出てきた。大丈夫。これは、ゲームの設定だ。 良くできてる。うん。
そもそも、コンソールがいじれるのが、ゲームの証拠だ。拡張現実系のデバイスは、様々なタイプのものが市販されているが、何も装着しないで裸眼で表示されることなど、ありえない。
生体改造は重罪だ。日本では、国家反逆罪で即捕まる。
「現実でコンソールコマンドが見えて、且つ使えるってのが、ありえないんだけど」
つつみちゃんはひゅっと息を飲んだ。
「ちょっと待って。今、視界に文字見えてるの?!」
「常に、ではないけど。任意で表示させられるよ」
ヘルプとしては使い勝手悪いけどな。
「アカシック・レコードのアクセス権持ってるんだ。ヒットした・・・。生体接続者だ」
なんだ?その厨二設定は。やっぱ選ばれし者とかなのか。
「そんな顔しないでよ。真面目な話なんだから。ああ、そっか。アカシック・レコード自体が、シネマティックファージ散布後に作られたんだから、知らないよね」
どうやら、俺が知るアカシックレコードとは別モノらしい。
「どうしよ。ドキドキしてきた。えっと、アカシック・レコードってのはね。説明棒読みだけど。えっと。地球規模でネットワーク化されたシネマティックファージが、外的要因に左右されない半永久的な記録媒体として機能してて、そこに人類含む全ての事象が現在進行形で情報を詰め込んでってるの。でも、好き勝手に情報を取り出されると世界が滅びるから。アクセス権は厳重に管理されてるし、アクセスコストもピンキリ。さっきみたいに怪我を治すのとかはただファージを動かすだけだから、権限なんていらないけど。必要な情報を好きなだけ取り出す事が出来るとなると。全世界が放って置かないからね」
この、へっぽこヘルプコマンドにそこまでの価値は無さそうだけど。
「そんな壮大な価値とか無さそうだけど。つつみちゃんの事もアンノウン表示だったし」
「つ、つつみちゃん??!てか、わたし見たの?」
声が怖い。
「飛び出したときに。慌てて確認したら・・・」
溜め息を一つ。その後、ひとしきりうんうん唸った。無意識にやっているのか、ギターを爪弾いている。
「ヘンな事に使ったら許さないからね」
「何が?」
「わたしのコード。200815B6600」
聞いたとたん。視界を何十層もの文のカーテンが埋め尽くす。
「ウワッ?!」
目を閉じても消えない。どーすんだこれ!痛っ!頭が!目が痛い!
「切断して!すぐ消えるから」
切断?何を?どうに?
「切断!」
言葉に出したら、消えた。びっくりした。まだ文字のカーテンが跡ついててチカチカする。目の奥が痛い。
「ごめんね・・・。でもやっぱ、間違い無いね。わたしの情報だけを条件に検索したから、ヒットするもの全部流れ始めたんじゃない?」
流れるのが速かったってのもあるけど。数字とアルファベットの羅列で意味不明だったぞ。
「全く読めなかったけど」
「いきなりで、読めたら困るんだけど」
苦笑いしながらつつみちゃんは立ち上がった。
「こんなとこにいたら危険だし、場所移動しなきゃだね」
俺を見てさっと目をそらす。
!隠し忘れてた!
「でもその前に、目立たない服持ってくる。隠れて待ってて。どうせ危なくて誰も来ないはずの場所だけど」
じゃあね、と手を降り。手すりなど無い暗がりの崖っぷちをすいすい走っていく。
「また来たら音で知らせるからね」
風にのって小さく呟きが聞こえてきて、つつみちゃんは風に煽られながら小道の先、ビルに開いた穴の暗がりに消えていった。
***
作中で登場する用語などは「寝起きでロールプレイデータベース」にて解説しておりますので、読んでて「なんだこれ」ってなったらぜひそちらも御覧ください。
「現実感無いのは当然だけど、君の知ってるゲームって、ここまで現実の再現度高いもの存在するの?」
いや。
「リアリティに関しては今までに無い出来なんで、感動してる」
「リアルなんだからリアリティあって当然だよ」
うーん。こういう話は、冷めちゃうからしたくないんだが・・・。
「魔法でささっと怪我が治ったり、女の子が可愛くて耳が長かったりこんな」
言葉を切り、辺りを見渡す。
月明かりだけなのではっきりとは判別出来ないが、積層型都市の残骸が地平線の向こうまで乱立していて、ポストアポカリプス、ディストピアっぽぃ。この世界観は大好物だ。
今、俺らがいるのは、地上から百メートル以上ある非常階段の踊り場。といっても。非常階段の体はなしておらず、木だか岩だかの、ヤギしか通れなそうな小道が一本、隣のビルの穴に伸びているだけで、階段自体は錆てボロボロ、上にも下にも行けそうにない。
下を覗きこむと、ふわっっと風が下から吹き上がってきて吸い込まれそうになった。
この下は真っ暗だが、森だろうか。所々にポツポツと小さな明かりがみえるが・・・。
「こんなカッコいい世界観は俺の住んでいる現実には存在しないしな」
女の子は頷く。
「まず、少年、ええと。名前は?」
なんだっけ?
思い出せない。
「名前・・・」
ヤバい。困ったときは、コンソール起動。
「よこやまりょうま、かな?」
横山竜馬、そんな名前だった気がする。
「よろしく。よこやまクン。わたしはツツミ」
自己紹介は済んだな。今さらだが。つつみちゃんか。
「まず、怪我を治したのは魔法でもなんでもなく。この世界に存在してるシネマティックファージっていうナノマシンを使ったの。わたしがこのデバイスでアクセスして治した」
撫でたそれは、ギターにしか見えない。
どうコメントすればいいんだ?
「わたしの耳がちょっと長いのは生まれつき。遺伝子操作は、流行り始めたのが確か二百年前くらいだから、よこやまクンが眠りに着いてから多分五十年後くらいにトレンドがあった、と思う。いわゆる人間の形をした生き物は今ではあまり多くないかな」
背中に、じっとりと嫌な汗が出てきた。大丈夫。これは、ゲームの設定だ。 良くできてる。うん。
そもそも、コンソールがいじれるのが、ゲームの証拠だ。拡張現実系のデバイスは、様々なタイプのものが市販されているが、何も装着しないで裸眼で表示されることなど、ありえない。
生体改造は重罪だ。日本では、国家反逆罪で即捕まる。
「現実でコンソールコマンドが見えて、且つ使えるってのが、ありえないんだけど」
つつみちゃんはひゅっと息を飲んだ。
「ちょっと待って。今、視界に文字見えてるの?!」
「常に、ではないけど。任意で表示させられるよ」
ヘルプとしては使い勝手悪いけどな。
「アカシック・レコードのアクセス権持ってるんだ。ヒットした・・・。生体接続者だ」
なんだ?その厨二設定は。やっぱ選ばれし者とかなのか。
「そんな顔しないでよ。真面目な話なんだから。ああ、そっか。アカシック・レコード自体が、シネマティックファージ散布後に作られたんだから、知らないよね」
どうやら、俺が知るアカシックレコードとは別モノらしい。
「どうしよ。ドキドキしてきた。えっと、アカシック・レコードってのはね。説明棒読みだけど。えっと。地球規模でネットワーク化されたシネマティックファージが、外的要因に左右されない半永久的な記録媒体として機能してて、そこに人類含む全ての事象が現在進行形で情報を詰め込んでってるの。でも、好き勝手に情報を取り出されると世界が滅びるから。アクセス権は厳重に管理されてるし、アクセスコストもピンキリ。さっきみたいに怪我を治すのとかはただファージを動かすだけだから、権限なんていらないけど。必要な情報を好きなだけ取り出す事が出来るとなると。全世界が放って置かないからね」
この、へっぽこヘルプコマンドにそこまでの価値は無さそうだけど。
「そんな壮大な価値とか無さそうだけど。つつみちゃんの事もアンノウン表示だったし」
「つ、つつみちゃん??!てか、わたし見たの?」
声が怖い。
「飛び出したときに。慌てて確認したら・・・」
溜め息を一つ。その後、ひとしきりうんうん唸った。無意識にやっているのか、ギターを爪弾いている。
「ヘンな事に使ったら許さないからね」
「何が?」
「わたしのコード。200815B6600」
聞いたとたん。視界を何十層もの文のカーテンが埋め尽くす。
「ウワッ?!」
目を閉じても消えない。どーすんだこれ!痛っ!頭が!目が痛い!
「切断して!すぐ消えるから」
切断?何を?どうに?
「切断!」
言葉に出したら、消えた。びっくりした。まだ文字のカーテンが跡ついててチカチカする。目の奥が痛い。
「ごめんね・・・。でもやっぱ、間違い無いね。わたしの情報だけを条件に検索したから、ヒットするもの全部流れ始めたんじゃない?」
流れるのが速かったってのもあるけど。数字とアルファベットの羅列で意味不明だったぞ。
「全く読めなかったけど」
「いきなりで、読めたら困るんだけど」
苦笑いしながらつつみちゃんは立ち上がった。
「こんなとこにいたら危険だし、場所移動しなきゃだね」
俺を見てさっと目をそらす。
!隠し忘れてた!
「でもその前に、目立たない服持ってくる。隠れて待ってて。どうせ危なくて誰も来ないはずの場所だけど」
じゃあね、と手を降り。手すりなど無い暗がりの崖っぷちをすいすい走っていく。
「また来たら音で知らせるからね」
風にのって小さく呟きが聞こえてきて、つつみちゃんは風に煽られながら小道の先、ビルに開いた穴の暗がりに消えていった。
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作中で登場する用語などは「寝起きでロールプレイデータベース」にて解説しておりますので、読んでて「なんだこれ」ってなったらぜひそちらも御覧ください。
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