タイムリープ探偵、時巻モドルの事件簿

寝倉響

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椅子取りゲーム事件①

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 僕が朝、教室に来ると事件は起きていた。まさに起きている最中だった。

「大変だよ!モドルくん!遊部(あそぶ)くんと遅沢(おそざわ)くんが喧嘩してるんだよ!」

「え、そんなはずないでしょ」

 教室のドアの前に着くとスケットくんが慌てた様子で立っていた。いつもは冷静なはずのスケットくんが慌てているなんて大事に違いない。
 2人はよく休み時間一緒にいたはずだから喧嘩なんてするわけないと半信半疑で僕も慌てて教室の中の様子を見てみる。

「なんで2人が……」
 教室の中央で遊部くんと遅沢くんが取っ組み合いの喧嘩をしているところだった。
 お互いが洋服を掴み合って今にも殴り合いそうな勢いだ。

「おいおい、なにしてんだ」
 僕の後からやってきたのは打野くん。打野くんはつま先立ちになって教室の様子を見るとバットが突き出たランドセルを置いた。
 打野くんは僕とスケットくんの間を割って入ると喧嘩を止めに行った。

 打野くんが2人にたどり着く前だった。遊部くんと遅沢くんは勢いあまって床に倒れてしまった。

「痛ぃっ!」
 遅沢くんの声が教室に鳴り響く。腕を押さえながらうずくまっている。
 遊部くんはやってしまったというような顔でただ立っていた。遅沢くんが痛みで顔を赤くなっていくのに対して、遊部くんの顔はどんどん青ざめていく。
  
「スケットくん、手を貸して」

「わかった!」

「遅沢くん大丈夫?」
 僕はスケットくんと一緒に遅沢くんを助けに入る。2人で両側から抱えてそのまま保健室へ連れていった。

 もちろんその後やってきた担持先生は何があったのかクラスメイトに確認すると、担持先生は遊部くんを職員室に呼び出して怒った。
 それでこの事件は終わるはずだった……。
 だけど事件の原因は昨日にあったんだ。僕は昨日の出来事を思い出す。



 5時間目はレクリエーションの時間だ。週に一度だけ行われる勉強をしない唯一の時間。
 そのためクラスメイトみんなが大好きな時間だった。

「さあ。今日は椅子取りゲームを行います!」
 レク係の遊部くんがそう言った。隣には同じくレク係の雪見(ゆきみ)ちゃんが立っていた。

「なんと今日の椅子取りゲームの優勝者には担持先生から特別なプレゼントがあります!」
 雪見ちゃんがそう言うと、教室の後ろに立っていた担持先生が黒板の前までやってくる。

「ごほん。優勝賞品はこれだ!」
 担持先生は自慢げにそれを上に掲げた。

「それは!」
 真っ先にそれに反応したのは八坂くんだった。それに続いて男子生徒の多くが驚いて目を輝かせる。それは僕も同じだった。
 一方、女子生徒の反応は少なかった。ほとんどの女子はポカンとした表情をしていた。

「そうだ!なんと今大人気のドラケシのファイヤードラゴン!」
 担持先生が持っていたのは男子の間で人気のドラゴン消しゴム、通常ドラケシのファイヤードラゴン。ドラケシはガチャガチャでランダムに出てくる消しゴムで、中でもファイヤードラゴンは特別珍しいものだった。

 優勝賞品がファイヤードラゴンということもあり僕を含めた男子生徒のやる気は上がっていく。
 女子生徒は男子生徒のやる気に驚いて一歩引いている。
 
「ルールは?」
 ファイヤードラゴンに一番前のめりな八坂くんは机から身を乗り出している。
 隣の席の打野くんもおなじだ。八坂くんと打野くんはお互い睨みあって椅子取りゲームが始まる前から戦っているみたいだ。

「音楽が流れている間は椅子の周りをぐるって回ってもらいます。そして音楽が止まったら椅子に座って、見事座れた人が勝ち上がりです。もちろん暴力は禁止です」
 雪見ちゃんが説明してる間に遊部くんはラジカセの準備をしている。 

「何回戦あるんですか?」

「そうだな……5個ずつ椅子を減らしていって最後に残った3人で1つの椅子をかけて戦ってもらおうかな」
 担持先生は考えながらそう言った。要するに優勝するためには4回椅子に座る必要があるということだ。
 
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