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謎路小学校カンニング事件⑤
しおりを挟むそういうとクラスメイトからおーという驚きの声が上がる。
「八坂くんはこの筆箱の鏡を使ってカンニングしたんだ。八坂くんの後ろの席は100点を取った天道才子ちゃん。これがのカンニング方法だ!のトリックはお見通しさ!」
ズバリ決め台詞を言ったところで、八坂くんは筆箱を奪い返した。悔しそうな顔をしているだろうと思っていたが全然違っていた。あのニタリと笑う笑顔が目の前にあった。
「確かに今日は妹のピンクの筆箱を持ってきてる。でもこれじゃカンニング出来ない!」
八坂くんは自信満々にそう言い放った。
「なんだと」
僕より先に反応したのはスケットくんだった。
筆箱を隠していたこともそうだし、タイムリープで筆箱を奪った時の焦った顔からして、この筆箱の鏡を使ってカンニングしたことは間違いないのに八坂くんのこの自信はどこからくるんだ。まだ僕の知らないトリックが……。
八坂くんは筆箱を持ったまま僕の一つ前の席に座った。他のクラスメイトは僕と八坂くんが座る2つの席を囲んで八坂くんがこれからしようとしていることを見守る。
「時巻くん。これでどうだ。自分の机にテスト用紙を置いてここに座ってみて」
八坂くんに言われるまま、八坂くんと入れ替わって一つ前の席に座ってみた。机にはピンクの筆箱が蓋の開いた状態で置いてある。
ピンク色の女子ぽい筆箱なのに中身は青や黒色の鉛筆や今人気のドラゴン消しゴム、昆虫観察で使う虫眼鏡など男子ぽいものばかり。
「この筆箱の鏡を使って……あれ」
筆箱の鏡に写っていたのは、僕の席に座る八坂くんだった。どんなに角度を変えてもテスト用紙が写ることはなく八坂くんの顔が鏡の中で上や下や右や左に動くだけだった。
「ってことはやっぱ八坂くんはカンニングしてないってこと?」
打野くんは疑いながらもそうつぶやいた。クラスメイトがザワザワと騒ぎ始める。まさか本当に八坂くんはカンニングしてないのかも。
「いや……そんなはずはない」
僕は誰にも聞こえない声でそうつぶやいた。やっぱりなにか他にトリックが……。
「時巻くん。あきらめろよ。それでも名探偵か」
八坂くんの顔にはついさっきまでの焦っていた表情は全然無くなって、自信満々な表情に変わっていた。
筆箱について言われて焦っていたことは確かだ。だから筆箱の鏡を使ってカンニングしたことは間違いない。あともう一歩。なにか……。
僕は頭を抱えて考えた。その間にクラスメイトは1人ずつ自分の席へ戻っていく。僕の推理が間違っていたことをみんなが認めていくようだ。
悔しさが込み上げてくる。
僕は顔を上げた。ちょうど八坂くんの隣に座る打野くんが自分の席に座った時だった。
「そういうことか!」
僕は閃いた。それが真実かどうか確かめるため、タイムメガネの右クロックを回した。今日3回目のタイムリープ。今日最後のタイムリープだ。
「時間よ巻きもどれ!タイムリープ!ゴー!」
再びテスト中に戻ってきた。僕は手元のテスト用紙から目をそらして斜め前に座る打野くんと八坂くんを見比べた。
身長順で並ぶ時、打野くんは身長が高いため一番後ろに並ぶ。逆に八坂くんは一番小さいため一番前に並ぶ。
そしてクラスメイトみんなの机の高さは同じはず。
それなのに――。
「やっぱり!打野くんと八坂くんの頭の高さが同じだ」
僕は自分の机の引き出しから30センチ定規を取り出した――。
僕の推理は確信に変わった。これで八坂くんがカンニングした方法が分かった。僕は全てのトリックを見抜いた。
「八坂くん!きみのトリックは破られた!」
僕はオリジナルタイムに戻ると立ち上がり決めポーズ。左手でタイムメガネをクイっと上に上げて、右手をピンと伸ばして八坂くんを指さす。
クラスメイトは一瞬で静まり返って、視線が僕へ集まる。
「いよ!待ってました!」
スケットくんの声が響き渡る。
「なんだよ!説明してみろよ」
八坂くんは再び立ち上がった。ニタリとした笑顔は消えていて真剣な顔になっている。
「八坂くんはやはり筆箱の鏡を使ってカンニングしたんだ!」
「名探偵!さっき自分でやって分かっただろ。あの高さじゃ後ろの席のテスト用紙をカンニングすることなんて出来ないんだ」
そう八坂くんの言うとおり。クラスメイトみんなが同じ机を使っているはず。そう、そこが盲点だったんだ。あたりまえに思っていることを八坂くんは利用したんだ。
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