タイムリープ探偵、時巻モドルの事件簿

謎路小学校カンニング事件③

　担持先生が満足そうに微笑みながら教室を出て行く。
　担持先生の足音が遠ざかっていくと八坂くん以外のクラスメイトが僕の席へ集まってきた。
　みんなそれぞれ僕に向かって八坂くんの100点はおかしいとかズルしてるとか言ってくる。みんなの声が僕の耳に入ってきて、耳が痛くなってきた。

　突然、小春ちゃんが僕の机の上に両手をバンと大きな音を立てて置いた。
　その音に驚いたのは僕以外のクラスメイトも同じで、一気に静まり返った。
　
「八坂くんが100点なんて絶対おかしいよ！絶対なにか悪いことしたに違いない！」
　小春ちゃんは真剣な顔でそう訴えた。なんかちょっと怒ってるみたいだ。
　僕はそーっと小春ちゃんの机にあるテスト用紙を覗いてみる。70点と書かれている。きっと八坂くんに負けたのが悔しいみたいだ。
　
　小春ちゃんの意見には八坂くん以外のクラスメイトも同じ意見のようで、みんながそれぞれうんうんと首を縦にうなずいている。
　僕ももちろん同じ気持ちだ。

「なんだなんだ！俺がずるしたっていうのかよ！」

　そんなこと言われて黙っていないのはもちろん八坂くんだ。八坂くんは僕の机を中心とした輪に割って入ると大声でそう言い放った。

「どうやら謎路町一番の名探偵の出番がやってきたようだね」
　スケットくんは僕の耳元でつぶやいた。このタイムメガネの出番がやってきたかもしれない。

　僕としても、ずるで負けて八坂くんにジュースを買ってあげるなんてこんなかっこ悪いことは無い、そう思った。僕は立ち上がった。ここはスケットくんの言うとおり探偵の出番だ！

「八坂くんのしたことを突き止めてやる！」

　そしておじいちゃんから貰ったタイムメガネの右レンズの周りのリム（レンズの周りを囲んでいるフレームの名前）を指でつかんだ。
　タイムメガネはレンズの周りのリムが時計のようになっていて、僕はクロック（時計）と呼んでいる。
　右クロックを指で右に回した。チクタクと時計の針が回るような音が聞こえる。

「時間よ巻きもどれ！タイムリープ！ゴー！」

　僕の掛け声と共に周りの景色は一変した。
　周りの景色やクラスメイト達の時間が巻き戻っていく。動画を逆再生したように周りの景色が動き出して時間が1時間前まで巻き戻っていく。

「さあみんな今日の一時間目は算数のテストだぞ」

　担持先生が教卓でそう言った。僕は自分の席に座っている。
　無事、時間を巻き戻すのに成功したみたいだ。
　1時間前、テストが始まる直前だ。丸メガネの左クロックが1秒ごとにチクタクと回転していく。この時間にいることが出来るのは3分間。
　
　タイムメガネで巻き戻した3分間が過ぎると元の時間（オリジナルタイム）に戻ってしまう。
　タイムリープした3分間にどんなことをしても現実に影響はない。
　例えば殺人事件が起きる前に戻って犯人を止めたとしても、現実にそのことは反映されない。
　それに一度でも巻き戻した時間にはもう二度と戻ることは出来ないんだ。17時に戻った後にオリジナルタイムに戻って、また17時に戻ることは出来ない。
　そして1日にタイムリープできるのは3回まで、だからこの時間を無駄にはできないんだ。

　この3分間で八坂くんが100点を取ることができた真相を突き止めるんだ。時間は9時ちょうど。

　担持先生は時間通りにテスト用紙を配りはじめた。
　腕を組み頭を悩ませる。八坂くんは勉強が苦手だ。そんな八坂くんがテストで100点を取る方法はひとつだけ――。

　そうカンニングだ。だけどそのカンニング方法が分からない。
　担持先生はテスト中、教室を回っていたから顔を動かしてカンニングしていたらバレてしまう。

　ひとつわかっていることがある。それは100点を取ったのが2人しかいないということ。
　その2人はカンニングの疑いのある八坂くんと天道才子ちゃん。
　だから八坂くんが才子ちゃんのテスト用紙をカンニングしたのは間違いない。
　八坂くんのすぐ後ろの席に才子ちゃんは座っているから、才子ちゃんのテスト用紙をカンニングするには後ろを振り向かないといけない。
　でも後ろを振り向けば見回りをしている担持先生にバレてしまう。担持先生の見てない時を狙ってカンニングしたとしても後ろの席の才子ちゃんはさすがに気がつくはず。

　八坂くんには担持先生の見回りというアリバイがあったんだ。
　そのアリバイを崩さなくちゃ八坂くんも他のクラスメイトも僕の推理を信じてくれないはずだ。

　よし。こうなったら八坂くんの席に行って何か手がかりを見つけるしかない。僕は立ち上がった。