上 下
10 / 21
第一章

偵察任務

しおりを挟む
 どうにもこの世界に来てから妙な感覚が拭えない。
 一つは名前。
 俺の本名は織平笠斗おりひらりゅうとのはずだ。なのに、偽名のはずのカノン・フォーゲルを皆に宣言した瞬間、やたらしっくり来た、というか何かがカチリとはまったような気がした。まるでその名が最初から本名だったみたいに……。俺だけじゃない、他の連中、常葉とこはやティグレさんにも後から聞いてみたが皆、同意見だった。
 キャラクターには名付けして初めて、キャラクターとして動き出す。
 もしかしたら、俺達はあの瞬間から、この世界に生きる個体として動き出したのかもしれない。

 (なんてシリアスになっても仕方ないカ)

 何事にも情報は大切だ。
 現実でもそうだし、『ワールドネイション』でも敵の情報を知っているかどうかでは、勝率は大きく異なった。戦場に立った後でも様々な形で情報収集を行い、それが勝敗を分ける。
 だからこそ、俺達も偵察を行う事になった。
 そうなると一番の候補はやはり俺だ。
 紅、ユウナ、咲夜にマリア。
 まだ新人を抜けたばかりだった四人には無理だ。上級職になったばかりの段階で遠方を詳しく調べられる手段なんて存在しない。
 ティグレさんも無理。
 もちろん、ティグレさんもきちんと探索系のスキルを有していたけれど遥かな遠距離対応型ではなかった、という事だ。まあ、当然なんだけど。むしろ、俺だってネタスキルだと思いつつ取ってた訳だし……そう、ネタスキルのはずだったんだ。
 だって、そうだろう?
 ゲームの、『ワールドネイション』の戦闘はあくまで一つの戦場が舞台だ。
 現実世界の戦場ならそれこそ世界規模で繋がっているだろうが、ファンタジーを舞台にした戦場ならそこまで広くはない。近場を観れず、数百数千キロの彼方を観るスキルなんてネタ以外の何物でもないはずだった。まるで鳥みたいな視点を可能とするからこそ取ったそれが今役に立つとは……。
 この世界へやって来て、俺と常葉の力は大きな変化を遂げた。
 常葉の場合、時間さえかければ俺のネタスキルと同じような事が出来るだろう。
 あいつの場合は、植物をレーダーサイトのように利用して、遠方を知る事が出来る。
 問題は常葉の場合は時間がかかる事と、植物のない場所の事は分からないという事。
 事前に、あいつが現地に行くなりして目印をつけているならともかく、広い広い草原の中の一点から自分の探している石が転がっている草を探さないといけないようなもの。いくら高速で検索可能でも時間がかかりすぎるだろう。
 一方、俺の場合は風だ。
 俺の種族、フレースヴェルグは北欧神話に曰く、世界のあらゆる風を起こす存在だという。
 そのせいなのか、風に意識を載せて飛ばす事が出来る。
 言ってみりゃ、常葉の探索と俺の探索は常葉が車にカメラ載せて走ってるのに対して、俺は空から無人機で空撮してる状態、かな?

 (おっと、そんな事を考えてる間に見えてきたナ)

 おそらくはアレが人の側の拠点。
 大規模な城塞都市。
 何万人もの人が暮らせる城壁に囲まれた都市。
 魔法ってものがあるからなのか、俺達の世界の城塞都市より遥かに巨大で、一見の価値はある。
 なにせ、こいつはこの巨大さでありながら、今正に絶賛使用中、大勢の人々が暮らしている都市だからだ。
 
 (さて、でも今回は観光は後回しダ)

 風に意識を向け、空から探ってみるが。

 (まだ軍勢は到着しておらズ)

 数千の軍勢、というのが多少オーバーにだったとしてもそれなりの規模の軍勢は来ているはず。数万人が暮らす規模の都市だとしても、二千三千の兵士がいればもっと兵士の姿が目立つはずだし、城内部も食料なんかの輸送の為の荷車なんかでひしめいているはずだ。どんな奴でも喰わずに先へと進む事は出来ない。そして、千の兵士の食料、水、天幕を運ぶ荷車や馬なんかの動物、その動物達が食う糧食なんかを全部合わせたら隠し通せるようなもんじゃない。
 
 (これならまだ一月程度は時間の余裕があるナ)

 極少数程度ならなんとでもなる。
 まとまった数で動くならどうしても移動に時間がかかる。
 領主の館を調べてみるのもいいかもしれないが、今回はそれは目的じゃない。

 (こちらの態勢を整えるまでどうしても時間がかかル。その時間があるかどうかが第一の関門だったガ、何とかなりそうダ)

 頷いて、意識を森へと飛ばす事にした。
 ……今度は道を憶える、という理屈をこねてゆっくりと。ああ、やっぱり。

 (空はいイ) 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~

めで汰
ファンタジー
魔物の学校の檻の中に囚われた鑑定士アベル。 絶体絶命のピンチに陥ったアベルに芽生えたのは『スキル奪取能力』。 奪い取れるスキルは1日に1つだけ。 さて、クラスの魔物のスキルを一体「どれから」「どの順番で」奪い取っていくか。 アベルに残された期限は30日。 相手は伝説級の上位モンスターたち。 気弱な少年アベルは頭をフル回転させて生き延びるための綱渡りに挑む。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...