教え子の甘い誘惑

hosimure

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「はぁ~」

「深く重いため息ね。悩み事を打ち明けに来てくれたんじゃないの?」

「ん~。休みに来たの。心を休ませるの」

「あっそ。はい、コーヒー」

「ありがと」

例のごとく保健室に来たアタシを、涼子は迎えてくれた。

「…で? 恋人とは上手くいっていないの?」

涼子はどうやら、アタシが面倒な恋愛をしていると思っているらしい。

…まっ、否定はできないけどさ。

「ううん。ただ束縛が強過ぎて、ちょっと疲れただけ」

「アンタそういうタイプに好かれそうだもんね」

「そう?」

「ええ。だってわたしの親友だもの」

「涼子って束縛タイプ?」

「まあね。だから同属は受け付けないのよ」

「?」

首を傾げるアタシを見て、涼子は苦笑した。

「気にしないでちょうだい。それより疲れたなら、いつでも休みにきなさい。グチもいつでも聞いてあげるから」

「ありがと。…って、いけない。教頭先生に呼ばれているんだった」

保健室にかけてある時計を見て、アタシは腰を浮かした。

「夏休みの補習の件で、ちょっと呼ばれているの。涼子、今度飲みに行きましょう」

「分かった。恋愛のグチも、その時聞いてあげる」

「あははっ…。じゃあね!」

慌しくアタシが出て行った後、ため息をついた涼子はカーテンが閉まっているベッドに声をかける。

「いい加減、保健室で仮眠するのはやめてくれないかしら? 世納クン」

「ふわぁあ…。ゴメン、寝不足でさ。昨夜、美咲を可愛がり過ぎたから」

欠伸をしながら、彼がカーテンを引く。

「あのねぇ…。アレほどあのコをイジメないでって言ったのに」

「イジメてないよ。可愛がっているだけだって」

ニヤッと笑いながらベッドから下りた彼を、涼子は困り顔で見る。

「学校ではオイタしないようにね」

「それはセンセとも約束しているから大丈夫♪ さて、明日からテストだし、最後に声でもかけに行こうかな」

そう言って意気揚々と扉に手をかけた彼だけど、不意に真面目な顔で振り返った。

「あっ、オレ、言っておくことがあったんだ」

「何?」

「美咲のこと、アンタにも譲らないから」

低い声で出された言葉は、アタシならば腰を抜かすほどの迫力を持っていた。

だけど涼子は平然として、手を振る。

「なら奪われないように、あのコを困らせるのはやめなさい。あのコが苦しんでいるようなら、遠慮なく、奪ってみせるから」

「やれるもんならやってみなよ? いつでも受けてたつからね」

「はいはい」

テスト前と言うことで、部活もなく、放課後の校舎の中は怖いぐらい静かだ。

きっと図書室なら、人は多いんだろうケド。

誰もいない廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。

「美咲センセっ!」

「かづっ…じゃない! 世納くん、まだ残っていたの?」

思わず名前で呼んでしまい、慌てて言い直す。

彼は間近に来て、止まった。

「今なら誰もいないから、名前で呼んだって大丈夫じゃない?」

「…そうもいかないでしょ? どうしたの?」

声を潜めて尋ねると、彼は笑顔で首を傾げた。

「最後の充電しに♪」

そう言うなりいきなり抱き締められた!

「ちょっちょっと! ここは学校の中だってば!」

「今は人いないから大丈夫だって。それにこれでしばらくは美咲に触れられないんだから、ちょっとの間だけ、ね?」

「うっ…」

そう言われると、動けなくなる…。

「あ~あ。しばらく美咲禁止かぁ。悲しくて、オレ、泣きそう」

「家の中で、1人で好きなだけ泣いてちょうだい。そして大人になって」

「言うようになったね。でも電話やメールぐらいは良いでしょ?」

「まあそのぐらいなら…」

「ヤッタ♪ テスト、頑張るからね。特に英語」

「はいはい。他の教科も頑張って」

「うん! それじゃあ、キスしてよ」

「…んもう」

背伸びをして、彼の唇にキスをした。学校の中なので、軽いキス。

「ふふっ。大好きだよ、美咲。オレだけの美咲」

うっとりした表情と声が、体に染み込む。

彼の首筋に顔を埋めながら、アタシは口を開いた。

―好きよ。華月―

声には出さず、唇だけ動かした。

だってここはアタシの職場だから。

2人の秘め事は、学校以外の2人っきりの時だけ、ね?



<終わり>

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