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「ねぇ、オマジナイを教えてあげましょうか?」
彼女はぞっとするような微笑を浮かべながら、言った。
「ずっとアナタ達が一緒にいられるオマジナイを。何を引き換えにしても良いのなら、教えてあげる」
ショックで頭が真っ白になっていたわたしにとって、それは救いの言葉だった。
だから頷いた。
そして彼女は教えてくれた。
オマジナイ―犬神の作り方を。
犬の首を切り、土の中に埋める。
そして思いを込めて、土の上を踏むのだ。
だからわたしは何度もここを訪れた。
オマジナイを成就させる為に。
犬神になれば、犬はずっとわたしから離れないから。
一生離れられないから。
そして、成就した。
わたしの願いは。
犬は犬神となり、わたしの側にいた。
そしてずっと、わたしの願いを聞き入れてくれていたんだ。
それを叶える代わりに、わたしの命は削られていったけど…大した問題じゃない。
どうせわたしも犬も、後は堕ちるだけだ。
犬神、憑き神として名高い呪法の一つだ。
彼女はオマジナイと言っていた。
…随分可愛らしく表現したものだ。
わたしは犬神を連れて、神社に来た。
そこには先客がいた。
彼女ではない。
けれど時を同じくして10年前に、わたしはその人に会っていた。
黒く長い髪と、血のように赤い眼。
外国人の彼女は、10年前と会った時と同じ姿だった。
けれどその人は成長していた。はじめて会った時は、わたしと同じ歳の女の子に見えた。
今は違う高校の制服を着ている、女子高校生だ。
「…受け入れてしまったのか」
わたしは黙って頷いた。
その人は、犬神を作る為に毎日ここに訪れたわたしに声をかけてきた。
その呪法は、不幸になると―。
だから記憶を消すと言って、わたしの額に手を触れさせた。
そこから犬神の記憶が、わたしの中から消えてしまった。
だけど完全に犬神との縁が切れたワケではなかった。
だからこそ、わたしは時々になってしまったが、ここを訪れていた。
時と共にわたしの犬神は成長していき、ついには眼に見えるまで成長してくれた。
それまで何となく気配は感じていた。
その正体を知らずとも、怖くはなかった。
「…後悔は、していないのか?」
わたしは深く頷いた。
犬神も同じように、頷いた。
「そうか。なら、私は何も言うまい」
その人は深く息を吐くと、その場から去った。
わたしは歩いて、犬の首を埋めた場所に立った。
体は近くの森の中に埋めた。
目印として、大きな石を墓石代わりに置いた。
でも、用があるのはこの首だけだ。
ここら辺には神社はなく、近所の人達は皆、何か用がある時はこの神社を訪れる。
神社本殿に向かう道の真ん中に、犬の首は埋めた。
この10年で、数え切れないぐらいの人間に踏まれ続けた犬の首。
おかげで立派な犬神になった。
わたしの命を削りながらも、願いを叶え続けてくれる、忠実なわたしの犬。
わたしだけの、犬。
わたしは犬神に、微笑みかけた。
黒き犬神は、わたしを見て、嬉しそうに尻尾を振った。
―これからは、ずっと一緒だよ。
そう赤き眼が語っているようだった。
あの人と同じ、赤き眼で。
【終わり】
彼女はぞっとするような微笑を浮かべながら、言った。
「ずっとアナタ達が一緒にいられるオマジナイを。何を引き換えにしても良いのなら、教えてあげる」
ショックで頭が真っ白になっていたわたしにとって、それは救いの言葉だった。
だから頷いた。
そして彼女は教えてくれた。
オマジナイ―犬神の作り方を。
犬の首を切り、土の中に埋める。
そして思いを込めて、土の上を踏むのだ。
だからわたしは何度もここを訪れた。
オマジナイを成就させる為に。
犬神になれば、犬はずっとわたしから離れないから。
一生離れられないから。
そして、成就した。
わたしの願いは。
犬は犬神となり、わたしの側にいた。
そしてずっと、わたしの願いを聞き入れてくれていたんだ。
それを叶える代わりに、わたしの命は削られていったけど…大した問題じゃない。
どうせわたしも犬も、後は堕ちるだけだ。
犬神、憑き神として名高い呪法の一つだ。
彼女はオマジナイと言っていた。
…随分可愛らしく表現したものだ。
わたしは犬神を連れて、神社に来た。
そこには先客がいた。
彼女ではない。
けれど時を同じくして10年前に、わたしはその人に会っていた。
黒く長い髪と、血のように赤い眼。
外国人の彼女は、10年前と会った時と同じ姿だった。
けれどその人は成長していた。はじめて会った時は、わたしと同じ歳の女の子に見えた。
今は違う高校の制服を着ている、女子高校生だ。
「…受け入れてしまったのか」
わたしは黙って頷いた。
その人は、犬神を作る為に毎日ここに訪れたわたしに声をかけてきた。
その呪法は、不幸になると―。
だから記憶を消すと言って、わたしの額に手を触れさせた。
そこから犬神の記憶が、わたしの中から消えてしまった。
だけど完全に犬神との縁が切れたワケではなかった。
だからこそ、わたしは時々になってしまったが、ここを訪れていた。
時と共にわたしの犬神は成長していき、ついには眼に見えるまで成長してくれた。
それまで何となく気配は感じていた。
その正体を知らずとも、怖くはなかった。
「…後悔は、していないのか?」
わたしは深く頷いた。
犬神も同じように、頷いた。
「そうか。なら、私は何も言うまい」
その人は深く息を吐くと、その場から去った。
わたしは歩いて、犬の首を埋めた場所に立った。
体は近くの森の中に埋めた。
目印として、大きな石を墓石代わりに置いた。
でも、用があるのはこの首だけだ。
ここら辺には神社はなく、近所の人達は皆、何か用がある時はこの神社を訪れる。
神社本殿に向かう道の真ん中に、犬の首は埋めた。
この10年で、数え切れないぐらいの人間に踏まれ続けた犬の首。
おかげで立派な犬神になった。
わたしの命を削りながらも、願いを叶え続けてくれる、忠実なわたしの犬。
わたしだけの、犬。
わたしは犬神に、微笑みかけた。
黒き犬神は、わたしを見て、嬉しそうに尻尾を振った。
―これからは、ずっと一緒だよ。
そう赤き眼が語っているようだった。
あの人と同じ、赤き眼で。
【終わり】
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