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顔剥ぎ事件
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「顔剥ぎ事件?」
マカはソウマの店で、祖父こと血族の長からの電話を受けていた。
「…ああ。だがそれとはまた別件だろう。いや、確証はないが…」
店の奥の事務部屋で一人、アンティークの電話で話をする。
他のモノは店内に出ている。
祖父からの電話内容は、マカの表情を曇らせていた。
「思い付くのもあることはある。…だが、向こうもそんな大きな動きは…」
低く呟くような声で話は続けられた。
やがて20分間の電話は終了し、マカは険しい顔のまま店内に出た。
「あっ、マカ。何でした? 当主からの緊急連絡は」
たまたまソウマの店に来ていたマカだが、祖父が緊急とのことで電話をかけてきたのだ。
「ああ…。ソウマ、悪いがちょっと人を呼ぶぞ」
「構いませんが…」
険しい顔をしているマカはケータイ電話を取り出し、協力者を店に呼び出した。
店内に呼び出されたのはヒミカとキシだった。
「どうしたのよ? 急に。当主からの連絡って」
「お久し振りですね、マカさん」
急な呼び出しでも、二人はすぐに来てくれた。
「急にすまんな。しかしシヅキ達からの依頼でもあってな」
マカは二人が来るまで、事務室でパソコンを操作し、とある事件のことをプリントアウトしていた。
その紙を二人に見せる。
「『顔剥ぎ事件』? …ああ、最近話題になっているわよね」
ヒミカが内容を読み、険しい表情をする。
「ああ。見た目が良い女性や、何かしら才能を持つ女性の顔が剥ぎ取られ、殺される事件だ。コレを解決するようにと、当主から言われた」
「シヅキさん達との関わり合いはなんですか?」
「シヅキ達の職場である『地下鉄』は、乗車客を管理している。…だがこの被害者達は訪れないそうだ」
死者を乗せる『地下鉄』で働くシヅキ。
だが最近は乗客名簿に名前がある者達が、来ないという。
「血族達の仮説だが、この顔剥ぎ事件には人外のモノが関わっている可能性が高い。被害者達の魂ごと、取っているのではないか―とな」
「魂ごと? そんなのありえるの?」
「魂の分野は私達の領域じゃないからよくは分からんが…」
「そういう呪術ではないか、というご意見なんですね」
「キシの言う通りだ。ゆえに何の目的かは知らんが、このまま表の世の人間達を犠牲にさせるワケにはいかないとのことだ」
「…厄介ね」
事件内容に目を通しながら、ヒミカは低く呟いた。
「目撃者の話では、殺された被害者の側にいたのは大きな人物ってだけ。しかもすぐに逃げてしまう。…こんなのどう捕まえろってのよ?」
「しかも被害者の女性も、次にどんな人が狙われるのかがサッパリ分かりませんもんね。唯一、深夜に一人でいるところを襲われているというのが、共通点みたいですけど」
頭脳明晰なキシも、さすがに苦笑している。
「ああ、それでだ。ヒミカ」
「何よ?」
「これから犯人を見つけるまで、徹夜で頑張ってくれ」
「…何を?」
「見張りを」
マカとヒミカの間で、微妙な空気が流れた。
「えっと、マカさん? つまりヒミカに見張りをしろってことですか? しかも犯人を見つけるまで」
「そう言っている。ヒミカは血・肉の匂いに鋭いし、怪しい匂いがしたら、お前の身体能力を使えばすぐに駆け付けられるだろう?」
「否定はしないけど…。えっ? 警察犬の真似事をしろって?」
「今のところ、それしか手がないんだ。だからお前達を呼んだ」
「ああ、なるほど…って納得できるかっ!」
バサッと紙を掴み上げ、ヒミカは激怒した。
「しょうがないだろう? 今のところ、体が空いているのはお前達ぐらいなものなんだ。他の奴らは何かしら予定があるし、抜けられないんだよ」
「アンタはどうなのよ?」
「私は夏休みに実家に帰省する前に、やるべきことが山ほどあるんだ。知っているだろう?」
「うっ…」
「まあボク達も専門学校での課題があるのですが…」
「それは二人で何とかできるだろう? こっちの事件の方は、犯人さえ特定してくれればそれでいい」
「学科が違うんだけど…まあ良いわよ。分かった」
ヒミカは散らばった資料を集め、立ち上がった。
「犯人を特定できれば、その先は関わらなくていいのね?」
「ああ。呪術が入っているのなら、私の分野でもあるからな」
「了解。じゃあ行きましょう、キシ」
「ええ。それではマカさん、後でご連絡いたします」
「すまんな。よろしく頼む」
「しかし顔剥ぎ事件なんて、とんでもない事件ですね」
「ヒミカの時のよりはまだマシ…とも言えないか。何せ魂にまで影響がある」
店の奥からソウマが出てきた。
「顔を剥ぐ時にどんな力が作用しているのかは分からんが、魂にまで何かあるのなら、かなり強力な呪術だろうな」
「マカ、気をつけてくださいね? あなたも力を持つモノ、狙われる対象としては充分なんですから」
「ああ、分かっているさ。しかし当主からの頼み。断るワケにはいかないだろう」
祖父こと当主は、マカが次期当主として立派な働きをするよう、動くことがある。
それを断れば、マカ自身にマイナスのイメージが付いてしまう。
ゆえに余程のことがないかぎり、当主の命には逆らえないのだ。
「ソウマ。マリー達はいつ頃帰って来る?」
「そうですね…。おつかいに行ってもらっている所、別次元ですからね。おそらく早くとも三日後になるかと…」
「マリーなら何か知っていそうだったんだが…」
マリーとハズミとマミヤは今、ソウマの頼みで別次元に飛んでいる。
こちらとは時間の流れが違う為、戻って来るのに時間がかかるらしい。
「最低でも三日は動いてほしくはないな」
「そうですね」
「しかし…女性の顔なんぞ剥いで、何の得があるんだ?」
「さあ…。しかも見た目の良く、何かしらの特別な方ばかり選ばれる理由も分かりませんね」
「…ある意味、ヒミカにピッタリだな」
「マカ、まさかヒミカを囮に?」
「さぁな?」
飄々と肩を竦めるマカを見て、ソウマは複雑な表情をした。
「ヒミカは確かに血・肉を食すれば、身体能力は上がります。そのことを彼女は嫌がっているんですよ?」
「その為にキシも巻き込んだ。ヒミカを苦しめることは、アイツは絶対させないだろう?」
「キシは確かに優秀ですが…。荒いやり方ですね」
「残念だが同属が関わらないことには、分からないことが多過ぎるんだ。手探り状態もいいところ。早く終わらせるには、多少なりと強引な手を使うしかあるまい」
「そうですか。無事に済むことを祈りましょう」
ソウマはため息を吐いた。
マカは足を組み、両手を組んで顎を乗せた。
見た目の良い女性、そして才能を持つ女性を狙う連続顔剥ぎ殺人事件。
挙げ句には、殺された女性達の魂はいずこかへと消えてしまった。
次の輪廻へは回れず、どこかに回収されてしまったのか、それとも…すでに消滅しているのか。
どちらにしろ、厄介な事件であることには変わらない。
マカは深く息を吸い、吐いた。
マカはソウマの店で、祖父こと血族の長からの電話を受けていた。
「…ああ。だがそれとはまた別件だろう。いや、確証はないが…」
店の奥の事務部屋で一人、アンティークの電話で話をする。
他のモノは店内に出ている。
祖父からの電話内容は、マカの表情を曇らせていた。
「思い付くのもあることはある。…だが、向こうもそんな大きな動きは…」
低く呟くような声で話は続けられた。
やがて20分間の電話は終了し、マカは険しい顔のまま店内に出た。
「あっ、マカ。何でした? 当主からの緊急連絡は」
たまたまソウマの店に来ていたマカだが、祖父が緊急とのことで電話をかけてきたのだ。
「ああ…。ソウマ、悪いがちょっと人を呼ぶぞ」
「構いませんが…」
険しい顔をしているマカはケータイ電話を取り出し、協力者を店に呼び出した。
店内に呼び出されたのはヒミカとキシだった。
「どうしたのよ? 急に。当主からの連絡って」
「お久し振りですね、マカさん」
急な呼び出しでも、二人はすぐに来てくれた。
「急にすまんな。しかしシヅキ達からの依頼でもあってな」
マカは二人が来るまで、事務室でパソコンを操作し、とある事件のことをプリントアウトしていた。
その紙を二人に見せる。
「『顔剥ぎ事件』? …ああ、最近話題になっているわよね」
ヒミカが内容を読み、険しい表情をする。
「ああ。見た目が良い女性や、何かしら才能を持つ女性の顔が剥ぎ取られ、殺される事件だ。コレを解決するようにと、当主から言われた」
「シヅキさん達との関わり合いはなんですか?」
「シヅキ達の職場である『地下鉄』は、乗車客を管理している。…だがこの被害者達は訪れないそうだ」
死者を乗せる『地下鉄』で働くシヅキ。
だが最近は乗客名簿に名前がある者達が、来ないという。
「血族達の仮説だが、この顔剥ぎ事件には人外のモノが関わっている可能性が高い。被害者達の魂ごと、取っているのではないか―とな」
「魂ごと? そんなのありえるの?」
「魂の分野は私達の領域じゃないからよくは分からんが…」
「そういう呪術ではないか、というご意見なんですね」
「キシの言う通りだ。ゆえに何の目的かは知らんが、このまま表の世の人間達を犠牲にさせるワケにはいかないとのことだ」
「…厄介ね」
事件内容に目を通しながら、ヒミカは低く呟いた。
「目撃者の話では、殺された被害者の側にいたのは大きな人物ってだけ。しかもすぐに逃げてしまう。…こんなのどう捕まえろってのよ?」
「しかも被害者の女性も、次にどんな人が狙われるのかがサッパリ分かりませんもんね。唯一、深夜に一人でいるところを襲われているというのが、共通点みたいですけど」
頭脳明晰なキシも、さすがに苦笑している。
「ああ、それでだ。ヒミカ」
「何よ?」
「これから犯人を見つけるまで、徹夜で頑張ってくれ」
「…何を?」
「見張りを」
マカとヒミカの間で、微妙な空気が流れた。
「えっと、マカさん? つまりヒミカに見張りをしろってことですか? しかも犯人を見つけるまで」
「そう言っている。ヒミカは血・肉の匂いに鋭いし、怪しい匂いがしたら、お前の身体能力を使えばすぐに駆け付けられるだろう?」
「否定はしないけど…。えっ? 警察犬の真似事をしろって?」
「今のところ、それしか手がないんだ。だからお前達を呼んだ」
「ああ、なるほど…って納得できるかっ!」
バサッと紙を掴み上げ、ヒミカは激怒した。
「しょうがないだろう? 今のところ、体が空いているのはお前達ぐらいなものなんだ。他の奴らは何かしら予定があるし、抜けられないんだよ」
「アンタはどうなのよ?」
「私は夏休みに実家に帰省する前に、やるべきことが山ほどあるんだ。知っているだろう?」
「うっ…」
「まあボク達も専門学校での課題があるのですが…」
「それは二人で何とかできるだろう? こっちの事件の方は、犯人さえ特定してくれればそれでいい」
「学科が違うんだけど…まあ良いわよ。分かった」
ヒミカは散らばった資料を集め、立ち上がった。
「犯人を特定できれば、その先は関わらなくていいのね?」
「ああ。呪術が入っているのなら、私の分野でもあるからな」
「了解。じゃあ行きましょう、キシ」
「ええ。それではマカさん、後でご連絡いたします」
「すまんな。よろしく頼む」
「しかし顔剥ぎ事件なんて、とんでもない事件ですね」
「ヒミカの時のよりはまだマシ…とも言えないか。何せ魂にまで影響がある」
店の奥からソウマが出てきた。
「顔を剥ぐ時にどんな力が作用しているのかは分からんが、魂にまで何かあるのなら、かなり強力な呪術だろうな」
「マカ、気をつけてくださいね? あなたも力を持つモノ、狙われる対象としては充分なんですから」
「ああ、分かっているさ。しかし当主からの頼み。断るワケにはいかないだろう」
祖父こと当主は、マカが次期当主として立派な働きをするよう、動くことがある。
それを断れば、マカ自身にマイナスのイメージが付いてしまう。
ゆえに余程のことがないかぎり、当主の命には逆らえないのだ。
「ソウマ。マリー達はいつ頃帰って来る?」
「そうですね…。おつかいに行ってもらっている所、別次元ですからね。おそらく早くとも三日後になるかと…」
「マリーなら何か知っていそうだったんだが…」
マリーとハズミとマミヤは今、ソウマの頼みで別次元に飛んでいる。
こちらとは時間の流れが違う為、戻って来るのに時間がかかるらしい。
「最低でも三日は動いてほしくはないな」
「そうですね」
「しかし…女性の顔なんぞ剥いで、何の得があるんだ?」
「さあ…。しかも見た目の良く、何かしらの特別な方ばかり選ばれる理由も分かりませんね」
「…ある意味、ヒミカにピッタリだな」
「マカ、まさかヒミカを囮に?」
「さぁな?」
飄々と肩を竦めるマカを見て、ソウマは複雑な表情をした。
「ヒミカは確かに血・肉を食すれば、身体能力は上がります。そのことを彼女は嫌がっているんですよ?」
「その為にキシも巻き込んだ。ヒミカを苦しめることは、アイツは絶対させないだろう?」
「キシは確かに優秀ですが…。荒いやり方ですね」
「残念だが同属が関わらないことには、分からないことが多過ぎるんだ。手探り状態もいいところ。早く終わらせるには、多少なりと強引な手を使うしかあるまい」
「そうですか。無事に済むことを祈りましょう」
ソウマはため息を吐いた。
マカは足を組み、両手を組んで顎を乗せた。
見た目の良い女性、そして才能を持つ女性を狙う連続顔剥ぎ殺人事件。
挙げ句には、殺された女性達の魂はいずこかへと消えてしまった。
次の輪廻へは回れず、どこかに回収されてしまったのか、それとも…すでに消滅しているのか。
どちらにしろ、厄介な事件であることには変わらない。
マカは深く息を吸い、吐いた。
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