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「…今日はエイプリルフールだからな!」

 腕を放し、彼は顔をそむけた。

 「あっああ、そうですね」

 「いつも苦労をかけている副会長に、礼の一つもしようと思ってな」

…そう言う彼の顔は、笑っているのに泣きそうだ。

 体も小刻みに震えているのが、見ているだけでも分かる。

 僕は簡単に言える言葉だけども、彼にとってはこんなに苦痛を与えてしまう言葉だったのか…。

 反省しなければ、な。

ここまで彼を追い込んだのは他でもない。

 僕なのだから…。

 「…ありがとうございます。おかげで残りの学生生活も楽しく過ごせそうですよ」

 「そっそっか」

 「ええ。…用事は以上ですか?」

 「あっああ…」

しばしの沈黙の後、僕は音もなくため息を吐いた。

 「それでは、次にお会いするのは生徒会の会議ですね。あまり遅くならないうちに帰ってくださいね」

 「おいっ! 待てよ!」

 踵を返し、帰ろうとした僕の手を、彼が掴んだ。

 「はい、何でしょう?」

 「何でしょうって…。他に言うこと、無いのかよ? お前が望んでいた言葉だろう?」

 確かに僕は、彼に「好きだ」と言ってほしかった。

ウソでも良いからと。

…でも結局、彼に辛い思いをさせただけにとどまってしまったことを、後悔していた。

 「ウソでも嬉しかったですよ? ただちょっとビックリしただけです。本当に願いを聞き入れてくださるとは思わなかったもので…」

だけど言ってくれた彼の心は、嬉しかった。

だから上手くは笑えないけれど、笑みを浮かべる。

 「だっだから…。俺が言ったことに、お前はどう反応するんだよ?」

 「えっ? …えっと…」

 礼は言った。リアクションも取った。

 後は…。

…お返しのウソ?

 確かに一方がイベントをしたのに、もう一方は何もしないというのは、キツイだろう。

だったら…良いウソがある。

 僕は真っ直ぐに彼の眼を見つめた。

 「ウソ、ですよ」

 「何が?」

 「あなたを好きだというのは、ウソです。本当はキライですよ、あなたなんて」

イヤというほど僕の気持ちを知っている彼なら、笑い飛ばしてくれるだろうと思った。

けれど次の瞬間、彼の顔は真っ赤になった。

 「ふっふざけるな!」

ガッ!

 「うっ…!?」

なっ殴られた? なっ何故!?

 「どっどうして殴るんですか? お返しのウソをついたのに!」

 「言って良いウソと悪いウソがあるだろう!」

 「あなただって、本当なら許されないウソついたじゃないですか! 僕の気持ちが変わらないのを、知っているはずでしょう?」

 「えっ? 変わらない?」

 「変わりませんよ! 変わるはずないでしょう? だからあなただって、あんなウソを言ったんでしょう!」

 「そっそれは…」

…何なんだ? 最近、彼の様子がおかし過ぎる。

この間、エイプリルフールのことを話題に出してからだと思うが…。

アレはあくまでノリだと感じていた。

 告白ぶりに交わした言葉だったから…信じていないんだと思っていた。

…いや、避けられたと感じた。

しかし目の前の彼は、言いづらそうに視線をさ迷わせながら、何度も口を開けたり閉じたりしている。

 「おっ俺がお前のこと、どう思っているか分かっているのか?」
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