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九曜は洋服に着替え、祖父に連れられ、上村家が管理する神社へやって来た。

九門からさんざん説教されていたせいか、一応外見は見れる神社となっている。

「あのお祖父さま、上村のおじさんは何と言ってきたんですか?」

「神社で管理しているご神体が盗まれたそうです」

「そうですか…って、えええっ!?」

本殿を前にして、九曜は絶叫を上げた。

「ご神体って…あの鏡ですよね?」

「ええ、お前にも見せたことがありましたね。あの鏡です」

九門は眼鏡の奥の眼を、スッと細める。

「今朝、この神社にきた上村さんが気付いたそうです。本殿の扉が何者かに破壊され、中のご神体が無くなっていることを」

賽銭箱を通り、本殿の扉の前に来る。

遠目では分からなかったものの、近くに来ると、確かに扉は壊されていた。

足元には南京錠が落ちており、扉の鍵の部分も変形している。

「あの、警察には?」

「一番に連絡したそうです。警察の見解では、そういうのを専門にした窃盗犯だろうとのことです」 


「ああ、やっぱり…」

九曜は頭を抱えながら、本殿の中へと足を踏み入れた。

最近、神社の関係者達が騒いでいた。

神社で祀っているご神体を盗む窃盗犯がいることを。

何でも日本のご神体は、外国で人気が高いらしく、高値で取り引きされるらしい。

ゆえに犯人も日本人もいるが、外国人の窃盗団であることもあるらしい。

気を付けようと、意見が出ていた中でのトラブル。

しかも盗まれたご神体は、外国へ持って行かれたら見つけ出すのは困難だと言われている。

「盗まれた鏡ですけど…大丈夫、ではないですよね?」

「当たり前でしょう? お前も分かっているはずですよ? あの鏡が何なのかを」

「それ、は…」

三年ほど前、九門は九曜を連れてここに来た。

この神社に祭っているご神体の鏡を見せる為に。

そして九曜は視てしまったのだ。

ご神体の正体を。

当時のことを思い出し、九曜の体は恐怖で震えた。

本殿の中は狭く、小さかった。

入ってすぐ目の前に、祭壇があった。

その中心にあるはずのご神体の鏡は、すでに無くなっていた。

「神社の管理だけは、ちゃんとしていたみたいですが…ここは手薄だったみたいですね」

顎に手を当て、九門は顔をしかめた。

確かにご神体を祀っているのに、外は扉の鍵と南京錠のみ。

あまりに古くて、簡易な『封印』だった。

「―行きましょう、九曜」

「えっ? もう良いんですか?」

「後は警察の人の役目です。私達は何もできませんよ」

そう言われると、頷くしかなかった。

「はい…分かりました」

九門はこの状態を九曜に見せたかったのだ。

それを分かっていたからこそ、九曜も余計なことは言わない。

「そう言えば、どうです? 学校の方は?」

「えっ? ああ、楽しいですよ。いろんな人がいておもしろいです。部活もまあ…先輩達が個性豊かですから」

九曜が通学に一時間もかかる高校を選んだ時、祖父の九門だけが賛成してくれた。 

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