さまざまな結婚式【マカシリーズ・15】

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特殊な結婚式

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そしてとうとう結婚式の日がきてしまった。

行うのは深夜、招待客はいない。

場所はウチの会社が持っている、とある山奥にある教会。

でも教会と言っても、白い十字架を飾るような宗教的な所じゃない。

建物は白い教会の形をしているものの、中に飾られているのは黒い十字架だ。

「……相変わらずいつ来ても、不気味な所ね」

教会の控え室では今頃、新郎と新婦が着替えている頃だろう。

この時期、ここで結婚式を行う時はいつも天気が不気味になる。

闇の空に浮かぶ白い雲、血のように真っ赤に染まった満月、生ぬるい風は強く、空模様はすぐに変わってしまう。

山奥にある教会なので辺りに民家はなく、今は風にふかれた木々の音しか聞こえない。

わたしは髪を手で押さえながら、教会の中に入る。

教会は月の光を通したステンドグラスが美しくも怖くあり、ロウソクが灯りとなっている。

「こんばんは、ルミさん。今日も良い結婚式日和ですね」

「リュカ……。アンタぐらいなものよね。こんな天気を良いと言うのは」

わたしに声をかけてきたのは、この教会の牧師役をしているリュカという金髪の青年だ。

と言っても、わたしと同じ人ならざるモノなので、本当の年齢も正体もよく知らないんだけど。

わたしが父からこの仕事を頼まれるようになってから、会うようになった彼は、見た目は柔らかい雰囲気を持つ美青年。

しかしあんな結婚式を執り行う場所にいるのだから、もちろん普通ではまずない。

「いつかルカさんも結婚してしまうんだと思うと、悲しくて涙が出そうです」

そう言いつつ白いハンカチで目元を押さえる仕草をするのだから、一発殴りたくなる。

「白々しいことは言わないで。今日は仕事で来ているんだから」

「おや、本音だったんですけどね。しかし相手が代わるとは思いませんでしたよ。しかも生きた人ですね」

それにはわたしも同感だ。

「でもお互い、結婚したいという意志があるのならば、わたしもアンタも何も言えないでしょう?」

「ですね。私達も仕事ですから」

意味ありげにリュカはこの結婚式について、特に何の感情も抱いていないらしい。

まっ、それはわたしも同じだ。

仕事は仕事。

私情なんてはさんじゃいられない。

「……さて、そろそろ新郎と新婦が来る頃ね。リュカ、いつも通りお願いよ」

「かしこまりました」

今回の介添え人と付き人は、ウチの社員だ。

身内などは呼べない為に、こちらで用意をする。

ミシナと彼は幸せそうに、教会に入って来た。

ミシナは黒いウエディングドレスを、そして彼は白いタキシードを着ている。

本来なら、ミシナが着ているドレスは彼女が着るべきだったんだけど……。

まあ似合っているし、彼女はもう何も言えないからいいか。

結婚式は誓いの言葉までは普通に行われる。

……が、問題はここからだろう。

でもわたしにはもう何もできない。

教会の隅で、見守ることしかできないのだ。

誓いの言葉を終えると、牧師のリュカが動いた。

後ろを振り返り、足元に置かれて白い布を引っ張る。

すると今まで見えなかった物が、見えるようになった。

「かっ棺桶?」

ミシナが白い布をかぶせられていた黒い棺桶を見て、眼を丸くする。

「そうだよ。新郎と新婦は一緒にこの棺桶に入って、死んでも共にいることを証明するんだ」

「あっああ、そうなの……」

彼は嬉しそうに説明するものだから、ミシナはとりあえず納得したようだ。

棺桶は二人が入れるぐらいに大きく、金で縁取りされている。

そして黒い十字架は浮き彫りになっており、普通の棺桶とはまず違う。

ミシナは驚きながらも、リュカが蓋を開けた棺桶の中に恐る恐る入る。

続いて彼も入り、二人は棺桶に一緒に寝ている形になった。

リュカは彼に、金色の柄のナイフを手渡す。

「本来なら生きている方が自ら命を絶つのですが、今回は相手の方が生きていらっしゃるので、そちらの方もお願いしますね」

「えっ?」

「分かりました」

リュカの説明を聞いて、彼はナイフを受け取ると何の躊躇いもなく、ミシナの胸に突き刺した。

ぶしゅっと嫌な音と共に、ミシナの胸元からジワジワと血が滲んでいく。

「なっ何で……?」

驚愕の表情を浮かべたまま、ミシナは絶命する。

「今、逝くからね」

彼はうっとりしながらミシナからナイフを抜き取り、自らの胸に突き刺した。

「うぐっ……」

軽くうめいた後、すぐに彼も動かなくなった。

「……まっ、たまにはこういうのもアリでしょう。いつもなら、どちらかは死んでいるものなんですけどね」

リュカは軽いため息をつきながら、絶命した二人を見下ろす。

二人の死体が入った棺桶は、介添え人や付き人の手によってすぐに蓋を閉められ、教会の外へ連れ出される。

――これで結婚式は終了した。

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