さまざまな結婚式【マカシリーズ・15】

hosimure

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「そうだよなあ…。まあ結婚式を担当するのはルミだ。それとなく、ミシナくんに思いとどまるように忠告してやれ」

「え~? でもわたし、彼女に嫌われているしなぁ」

それに父を諦めて彼に移ったならば、それもまた複雑な心境になる。

「説得する時、分かっていると思うが決して結婚式の内容は言ってはダメだぞ?」

そう語る父の表情は、怖いぐらいに真面目。

…この仕事の鬼め。

父からの説得なら、彼女もある程度は受け入れただろうに。

「まあ一番良いのは、ミシナくんが全てを受け入れてくれることなんだけどな」

「…それは普通の人間の女性には、とても厳しいことだと思うわ」

人ならざるモノであるわたしでさえ、ご遠慮願いたい内容なのだ。

彼女の性格を考えても、まずムリ。

「じゃあ頑張って説得するんだな」

「ううっ…!」

結局、最後はわたし次第になるのか。

とっとりあえず頑張ろう。

そして最後の打ち合わせの日、彼はミシナを連れて来た。

「あっあの、ミシナさん? 一体どういうことで…」

「黙っててごめんなさいね。でもちゃんと前の彼女には、彼の方から説得してくれたから大丈夫よ」

そう言って幸せそうに微笑み合う彼と彼女。

考えていた中で一番最悪なことが現実となり、意識が一瞬遠くなる。

「それでルミさん、あなたのプランだけど合わせることにしたわ。ウェディングドレスのサイズも私に合っているし、時間もないことからこのまま進めるから」

話を勝手に進めるなっー!

…と怒鳴りたいけれど、ぐっとこらえる。

「あっあの、本当に良いんですか?」

わたしは彼を見ながら尋ねた。

「ええ、わたしは彼女と結婚式をあげたいと思います」

満面の笑みで答えられ、わたしは悟った。

―ああ、もうこりゃダメだ。

何を言っても、この幸せオーラを放つカップルの仲は引き裂けまい。

…彼は彼で、あの結婚式を絶対に必ずするつもりだろうし。

「…承知しました。では最後の打ち合わせを始めたいと思います」

諦めたわたしは、仕事を始めるのであった。



打ち合わせが終わった翌日、わたしはミシナを呼び出し、休憩室で向かい合った。

「ミシナさん、彼から結婚式の内容はどのぐらい聞いているんですか?」

「それは当日まで内緒だって言われているの。何かあっても、彼がフォローしてくれるって言うし」

のろけている顔と声で言うところを見ると、全く聞かされていないんだな?

「あっあの、彼との結婚、やっぱり思い直してもらえないでしょうか?」

「どうして? ちゃんと話はついているのよ?」

怪訝そうな表情を浮かべるミシナに、本当のことを言えたらどんなにいいか。

「…じゃあ質問を変えます。何で彼が良いんですか? ウチのお客様を選ぶなんて、あなたらしくないと思います」

プライドが誰よりも高かった彼女。

でもだからこそ、奪い婚なんてらしくない。

「実は正直なことを話すとね、最初は彼に近付いて気に入ってもらって、あなたの仕事を奪うつもりだったの」

うわーい☆

前に聞いていた悪い噂通りに、話は進んでいたのか。

「でも彼と接するうちに、だんだんとあたたかい気持ちが生まれてきてね。彼は少し気が弱いけれど、誰かを愛する気持ちはとても強いことを知ったの」

じゃなきゃ、あの結婚式を行おうと思わなかっただろうな……。

「それで彼の愛する人になりたいと、いつの間にか思うようになったのよ。仕事なんかどうでもいいと思ったのは、今回がはじめてなの」

いつも仕事が一番で生きてきたのね。

でもここにきて恋愛一番になるとは……運が良いのか悪いのか、分からない。

「……ではコレが本当に最終確認となります。本気でどのような結婚式でも、行うと誓いますか? もし少しでも躊躇いがあるのでしたら、わたしが何とかしてでも中止します」

真剣な表情で真っ直ぐに彼女の眼を見つめながら言うと、流石のミシナも少しの間、考え込む。

「……ええ。やっぱり彼と結婚したいわ。どんな式でも構わないと、思っている」

「はあ……。そうですか。ではカリキ部長にはわたしの方から説明しておきます。ミシナさんは退職手続きの方、お願いしますね」

「ええ、分かっているわ」

ミシナも真面目な顔付きで、頷く。

どんな形であれ、ウチで式を行うカップルを壊したことには変わりない。

これが普通の会社なら、彼とミシナの結婚式自体がお断りとなるわけだけど……。

まあウチは特殊な会社だしね。

少し遠い目をしながら、わたしは深いため息を吐く。

「ではミシナさん、次に会う時にはお客様と結婚式アドバイザーという立場になりますが、よろしくお願いします」

「ええ。ルミさんなら安心して、式を任せられるわ」

ミシナは満面の笑みを浮かべながら言うけれど、今回の結婚式は特殊なもの。

特殊さを実感するのは、式当日だけ。

その時になって彼女は改めて、わたしの正体と仕事の意味を知るのだろう。

そして彼女は……。

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