さまざまな結婚式【マカシリーズ・15】

hosimure

文字の大きさ
上 下
2 / 7

2

しおりを挟む
ミシナの相手をしながらも、ちゃんとわたしを発見しているのだから、相変わらずスゴイ人だ。

「はぁい」

わたしは肩を竦め、同僚たちに苦笑浮かべて見せた。

「と言うことで、コーヒーはまた今度」

「良いよ良いよ」

「仕事、頑張ってね」

「うん」

同僚達は気持ち良く送り出してくれたけれど。

「カリキ部長、仕事なら私が…」

「いや、ミシナくんは忙しいだろう? これはルミくんに頼むことにするよ」

カリキ部長はやんわりと断り、休憩室を出ていった。

続いてわたしも出ていこうとしたけれど…ミシナに睨まれた。

人気のない廊下を歩き、わたしは部長室に入る。

「―それでご要件はなんでしょう?」

「キミに任せたい仕事がある、と言ったろう? これを頼む」

そう言って部長は雑誌サイズの茶封筒を差し出す。

中に手を突っ込み、一冊の黒いファイルを取り出した。

「―いつもの、ですね。分かりました」

さっと眼を通したわたしは、ファイルを封筒に入れて、改めて部長を見る。

見た目四十を少し過ぎたばかりの、少し神経質そうな男。

顔もまあ整っているし、身長も高い。

体も見た目よりも鍛えているし、アレだけど…。

「…どうした? ルミ、何かあったか?」

ふと部長がわたしの頭を撫でる。

「父さんってモテるのねぇ」

「そうか?」

そう、カリキ部長はわたしの実父。

けれどコネで入社したとは思ってほしくないので、他人を装う。

…まあこの会社は後にわたしが引き継ぐから、コネもあっただろうけど。

ちゃんと一般の面接を受けて入ったのだ。

コネ入社だとは…あまり思いたくない。

父とわたしが親子であることは、わたし達しか知らないことだし…。

「ああ、そうだ。今度の休日、ルカと姉さんとどこかへ行かないか?」

ルカとはわたしの妹であり、父の二人目の子供の名前。

そして姉というのは…一般的に言えば、わたしの伯母。

まあちゃんとした父の姉だし、幼い頃から可愛がってはくれるけど…。

「…そろそろ他人の目が気になる歳になってきたのよね」

女子大生である妹のルカならともかく、あの伯母とは…正直あまり一緒に出歩きたくない。

「だが姉さんは会いたがっていたぞ? お前、仕事始めてからあまり会っていないだろう?」

「…そうね。じゃあこの仕事が片付いたら、休日に遊びに行くって言っておいて」

「分かった」

ちなみに母は亡くなっている。

なのでミシナが父を狙っていると聞くと、…かなーり複雑な気分だ。

「仕事の手配はこちらで済ませておく。お前はお客様と会って、準備を始めてくれ」

「はーい」

「んっ。頼んだぞ」

父は優しく微笑み、再び頭を撫でる。

「んもー。そろそろいい歳なんだから、頭撫でるの止めてよ。午後の仕事に支障が出る」

「おっとスマン」

母が亡くなった後、父は伯母と共にわたしと妹をそれは大切に育ててくれた。

…なので未だ過保護。

乱れた髪も、手ぐしで直してくれる。

けれど子供の頃からしてもらっているので、わたしはそのままさせておいた…のが、まずかった。

「失礼します、カリキ部長」

ミシナが短いノックと共に、扉を開けたのだ。

「あっ」

慌てて一歩後ろに下がるも、髪をいじられていたシーンはバッチリ見られていただろう。

「ではカリキ部長、失礼します」

「ああ、よろしく頼む」

すぐに上司と部下モードに切り替える。

「ではミシナさん、失礼しますね」

作り笑いを浮かべるも、ぎりっと睨まれただけだった。

一人廊下に出て、思わずため息。

「おっかないなぁ」

女の嫉妬はかなり醜い。

それはこういう仕事をしていると、余計にそういう部分を見てしまう。

だからだろうか?

結婚願望が薄いのは。

まあまだわたしは若い。

仕事も父を経由して、ようやくなのだ。

「今は仕事に集中しよう!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつも一緒【マカシリーズ・10】

hosimure
ホラー
わたしは昔、犬と一緒にいた。 毎日楽しくて、一緒にいるのが嬉しかった。 なのに…今はもう、近くにいない。 犬と言う、存在は。

支配者【マカシリーズ・7】

hosimure
ホラー
わたしは今、小学5年生。 名前をルナって言います♪ 自分ではフツーの女の子だと思っているんだけど、みんなには「にぶい」ってよく言われる。 確かに、自分のクラスの支配者を気付いていなかったのは、わたしだけだったみたい! でも…本当に支配しているのは、誰かしら?

擬態【マカシリーズ・2話】

hosimure
ホラー
マカの周囲で最近、おかしなウワサが広がっている。 それはすでに死んだ人が、よみがえるというウワサ。 ありえない噂話ながらも、心当たりをソウマと共に探り出す。 しかし二人は同属の闇深くを覗き込んでしまうことに…。 【マカシリーズ】になります。

誘いの動画【マカシリーズ・22】

hosimure
ホラー
ケータイにまつわる都市伝説は数多い。 オレの周囲でも最近、ケータイの都市伝説がウワサになって、流行っている。 とあるサイトからダウンロードできる動画がある。 しかしその動画には、不思議な魅力があり、魅入られた人間は…。 【マカシリーズ】になります。

表現する気持ち【マカシリーズ・18】

hosimure
ホラー
摩訶不思議な雑貨を扱うソウマの店に、一人の少女がやって来た。 彼女は生まれつき体が弱く、そんな自分を何とかしたいと言ってきた。 店主・ソウマは彼女の願いを叶える品物を売りつけた。 それを身に付ければ、願いは叶うのだと言って…。

出会いの高速道路

hosimure
ホラー
俺は仕事上、高速道路をよく使っていた。 だがある日、同僚から高速道路に現れる女の子の幽霊について聞いた。 信じていなかった俺だが、ある夜、高速道路を1人であるく女の子の姿を見つけてしまい…。

光輪学院シリーズ・神無月の憂鬱

hosimure
ホラー
【光輪学院高等部・『オカルト研究部』】から、神無月を主人公にしたお話です。 部活動を無事に終えた神無月。 しかし<言霊>使いの彼女には、常に非日常が追いかけてくる。 それは家の中にいても同じで…。

悪魔のクッキング

hosimure
ホラー
【カニバリズム】という言葉を知らない方は、読むのはやめた方が良いです。 一見幸せそうな家庭に見えますが、本当は…。

処理中です...