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アドバイザー・ルミの仕事
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わたしの名前はルミ、年齢は26歳。
結婚アドバイザーとして働き始めて、もう4年目。
すると同僚の女性達の口癖を、よく耳にするようになる。
昼食時、控え室でお弁当を食べていると、同僚の一人がこう言い始める。
「あ~あ。もういい加減、人の結婚式より、自分の結婚式をやりたいなぁ」
…始まった。
するとどんどんその話題はふくらんでいく。
「そうだよねぇ。それに今、不景気だから、あまりお金のかかったやり方は流行らないし」
「サービス重視って言うのも聞こえはいいけど、働けど働けど給料が同じなのは、正直辛いのよねぇ」
…何分、ストレスのたまる仕事なので、毎日同じ愚痴を吐き出す。
「それでもウチの会社、リストラとか早期退職とか強制してこないだけ、マシじゃない?」
なのでわたしも同じことを言う。
「まあルミの言う通りね。お給料はそこそこ貰っているし。文句は言えないわよね」
「あ~あ。でも本当に結婚したぁーい」
「ルミはそう思わないの?」
「えっ? わたし? わたしは…仕事が楽しいから、別にまだ良いかな?」
「あっ、でもルミには部長さんがいるもんね」
「カリキ部長は尊敬しているだけ。それにわたしが新人だった頃の、教育担当者でもあっただけだってば」
「あっやしぃ~。だって部長から仕事回してもらうこと、たまにあるじゃない」
「あれは部長が忙しから。それに頼まれるのも月に1度か2度よ」
「ふふっ。まあルミは人当たりも良いし、お客様からも喜ばれているから、こっちとしては納得しているけど」
そうは言うけど、同僚の顔はちょっと強ばっている。
「ミシナには気を付けなよ」
そして声を潜め、周囲を伺うように見る。
「ミシナ、ルミより二つ年上で、アンタに対抗意識燃やしてんだから」
「…その理由がイマイチ、納得できないのよね」
わたしはサンドイッチをパクつきつつ、首を傾げる。
「彼女の方が上客を捕まえるし、売り上げだって良い。なのに何でわたし?」
「アンタ自覚がないだろうけどさ。確かに売り上げはミシナが上だけど、お客様の満足度はアンタが4年連続1位なのよ?」
「しかもミシナはカリキ部長のこと、狙っているからねぇ。部長に可愛がられているアンタのこと、気に食わないんじゃない?」
ウチの会社はお客様に結婚式後、アンケートを書いてもらっている。
5段階評価で、感想を書いてもらう。
それを集計した結果、確かにわたしは入社してからずっと、満足度1位の社員になっている。
「けどカリキ部長のことは誤解よぉ。確かにお互いフリーだけど、上下関係を飛び越えたことは一回もないんだから」
「なぁんでないのよぉ? アタシたちはそっちの方が不思議だわ」
「うっ…。なっ何だって良いじゃない! とにかく、何にもないんだから!」
「―何がないの?」
休憩室に、ピシッとした女性の声が響いた。
「ミシナ、さん…」
「おっお疲れさまです。今から昼食ですか?」
同僚達が引きつった笑みを浮かべ、ミシナに声をかける。
「ええ、お客様との話が長引いてね。今からなの。あなた達は良いわね。余裕でお昼食べられて」
カッチーン☆
と、同僚たちの何か触れた音が聞こえた気がする…。
ミシナは28歳で、バリバリに働いている。
お客様の質もお金も、彼女がずっと上位を独占している。
…けれどやり方は結構強引で、彼女の勧めで結婚式を上げた人の中には、借金までしたという話しが出るぐらいだった。
プランの中にはそこそこの値段のコースもあるのに、彼女は高いのを選ばせ、更にプラスを勧める。
話術やその接客態度で、お客様達はついつい誘いに乗ってしまうのだ。
だがそのやり方は同僚達の間では不評で、彼女は何度か上司に注意された。
けれど…。
「お客様たちにとっては、一生に一度の祝い事なんですよ! 一番良いようにしたのに、文句を言われる筋合いはありません!」
と、反撃したらしい。
なので会社の人たちは必要以上に彼女に口出しもしなければ、関わることもしない。
「…ねっ、早く食べて外行こう」
同僚が顔を寄せ、ぼそっと呟く。
「うっうん。あっ、向かいの喫茶店でコーヒーでも飲もうか? 1杯ずつぐらいだったら、わたしが奢るから」
「えっ? ホント?」
「だからルミって好き。…いくら仕事成績がよくても、性格悪いのは嫌いだけど」
聞こえないようにヒソヒソと話しながら、わたし達は早々に昼食を食べ終えた。
そして休憩室を出て行こうとしたところ。
「ルミくんはいるかね?」
カリキ部長がやって来た。
「あら、カリキ部長。どうしたんです?」
…何故かミシナが部長の元へ駆け寄った。
「ちょっとぉ。呼ばれたのはルミじゃん」
「ったく…。あんだけあからさまだと、見ていて泣けてくるわ」
「あはは…」
これは乾いた笑いを浮かべるしかない。
「ちょっとルミくんに頼みたい仕事があってね。―良いかい?」
結婚アドバイザーとして働き始めて、もう4年目。
すると同僚の女性達の口癖を、よく耳にするようになる。
昼食時、控え室でお弁当を食べていると、同僚の一人がこう言い始める。
「あ~あ。もういい加減、人の結婚式より、自分の結婚式をやりたいなぁ」
…始まった。
するとどんどんその話題はふくらんでいく。
「そうだよねぇ。それに今、不景気だから、あまりお金のかかったやり方は流行らないし」
「サービス重視って言うのも聞こえはいいけど、働けど働けど給料が同じなのは、正直辛いのよねぇ」
…何分、ストレスのたまる仕事なので、毎日同じ愚痴を吐き出す。
「それでもウチの会社、リストラとか早期退職とか強制してこないだけ、マシじゃない?」
なのでわたしも同じことを言う。
「まあルミの言う通りね。お給料はそこそこ貰っているし。文句は言えないわよね」
「あ~あ。でも本当に結婚したぁーい」
「ルミはそう思わないの?」
「えっ? わたし? わたしは…仕事が楽しいから、別にまだ良いかな?」
「あっ、でもルミには部長さんがいるもんね」
「カリキ部長は尊敬しているだけ。それにわたしが新人だった頃の、教育担当者でもあっただけだってば」
「あっやしぃ~。だって部長から仕事回してもらうこと、たまにあるじゃない」
「あれは部長が忙しから。それに頼まれるのも月に1度か2度よ」
「ふふっ。まあルミは人当たりも良いし、お客様からも喜ばれているから、こっちとしては納得しているけど」
そうは言うけど、同僚の顔はちょっと強ばっている。
「ミシナには気を付けなよ」
そして声を潜め、周囲を伺うように見る。
「ミシナ、ルミより二つ年上で、アンタに対抗意識燃やしてんだから」
「…その理由がイマイチ、納得できないのよね」
わたしはサンドイッチをパクつきつつ、首を傾げる。
「彼女の方が上客を捕まえるし、売り上げだって良い。なのに何でわたし?」
「アンタ自覚がないだろうけどさ。確かに売り上げはミシナが上だけど、お客様の満足度はアンタが4年連続1位なのよ?」
「しかもミシナはカリキ部長のこと、狙っているからねぇ。部長に可愛がられているアンタのこと、気に食わないんじゃない?」
ウチの会社はお客様に結婚式後、アンケートを書いてもらっている。
5段階評価で、感想を書いてもらう。
それを集計した結果、確かにわたしは入社してからずっと、満足度1位の社員になっている。
「けどカリキ部長のことは誤解よぉ。確かにお互いフリーだけど、上下関係を飛び越えたことは一回もないんだから」
「なぁんでないのよぉ? アタシたちはそっちの方が不思議だわ」
「うっ…。なっ何だって良いじゃない! とにかく、何にもないんだから!」
「―何がないの?」
休憩室に、ピシッとした女性の声が響いた。
「ミシナ、さん…」
「おっお疲れさまです。今から昼食ですか?」
同僚達が引きつった笑みを浮かべ、ミシナに声をかける。
「ええ、お客様との話が長引いてね。今からなの。あなた達は良いわね。余裕でお昼食べられて」
カッチーン☆
と、同僚たちの何か触れた音が聞こえた気がする…。
ミシナは28歳で、バリバリに働いている。
お客様の質もお金も、彼女がずっと上位を独占している。
…けれどやり方は結構強引で、彼女の勧めで結婚式を上げた人の中には、借金までしたという話しが出るぐらいだった。
プランの中にはそこそこの値段のコースもあるのに、彼女は高いのを選ばせ、更にプラスを勧める。
話術やその接客態度で、お客様達はついつい誘いに乗ってしまうのだ。
だがそのやり方は同僚達の間では不評で、彼女は何度か上司に注意された。
けれど…。
「お客様たちにとっては、一生に一度の祝い事なんですよ! 一番良いようにしたのに、文句を言われる筋合いはありません!」
と、反撃したらしい。
なので会社の人たちは必要以上に彼女に口出しもしなければ、関わることもしない。
「…ねっ、早く食べて外行こう」
同僚が顔を寄せ、ぼそっと呟く。
「うっうん。あっ、向かいの喫茶店でコーヒーでも飲もうか? 1杯ずつぐらいだったら、わたしが奢るから」
「えっ? ホント?」
「だからルミって好き。…いくら仕事成績がよくても、性格悪いのは嫌いだけど」
聞こえないようにヒソヒソと話しながら、わたし達は早々に昼食を食べ終えた。
そして休憩室を出て行こうとしたところ。
「ルミくんはいるかね?」
カリキ部長がやって来た。
「あら、カリキ部長。どうしたんです?」
…何故かミシナが部長の元へ駆け寄った。
「ちょっとぉ。呼ばれたのはルミじゃん」
「ったく…。あんだけあからさまだと、見ていて泣けてくるわ」
「あはは…」
これは乾いた笑いを浮かべるしかない。
「ちょっとルミくんに頼みたい仕事があってね。―良いかい?」
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