キミがいる

hosimure

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ノートを机に入れっぱなしにしてから10日後、動きがあった。

放課後、担任に呼ばれて職員室に行った後、机の中に入れていたノートが無くなっていたのだ。

「…本当に持ってったのか」

自分で仕掛けといてなんだけど、本当に持っていくとは思わなかった。

ちょっと感心していると、ケータイが震えた。

開けて見ると彼からで、急用ができたので一緒に帰れなくなったとのことだった。

少し寂しかったけれど、よくあることだった。

彼は未だ前生徒会長ということで、後輩から頼られることが多い。

分かったと返事を送り、ボクは1人で帰ることにした。

罠が早く発動することを願いながら、家に帰った。

しかし次の日になっても、また数日が経過しても、罠は発動した気配は無かった。

今はみんな夏服で、薄着をしている。

だから罠が発動すれば、すぐに分かる。

でも少なくともボクの近くにいる人で、罠にかかった人物は見当たらなかった。

ノートを開かなかったのだろうか?

…そうなると、失敗したことになるな。

盗んで捨てられたら、罠など意味が無い。 

残念ながらも、ちょっとほっとしている自分に気付く。

罠は絶対に、傷付ける。

誰かを傷付けるのはあんまり好きじゃない。

今回はずっとボクをイジメ続けていたヤツだからこそ、罠を張ることにしたんだ。

でも…やっぱり意味が無くなったのなら、それで良い。

ボクは考え直すことにした。

しかし罠は別の意味で、威力を発揮した。

あのノートを盗まれた後は、何一つ、イジメを受けなかったのだ。

何も起こらないことに、ボクどころか周囲の人達も不思議がっていた。

だけど起こらないなら、起こらないでいい。

静かで平凡な毎日を過ごせるのなら、ボクはそれで良かった。

刺激的な生活なんて、真っ平ゴメンだ。

「なぁ、今度の休み、ウチに遊びに来ないか?」

昼休み、いつもの校庭の隅で彼と昼食をとっていた。

彼は何かと忙しい人だけど、ボクと遊んでくれる。

「良いよ。家族の人、いないの?」

「ああ、両親は仕事。姉貴はバイトだって」

彼の両親は共働きで、お姉さんは大学生で何かと忙しいらしい。

だから週末や連休は、ボクが彼の家に泊まりに行くことが多かった。

「ついでに泊まってけよ。久し振りだろう?」 

「だね」

ボクは笑顔で了承した。

イジメのことも収まっていたし、たまには思いっきり遊びたい気分だった。

そして休日になり、朝から彼と駅前で待ち合わせをした。

新たに大学を決めたので、下見に行った。

電車で20分ほどだけど、駅から近い。

レベルもボクが後少し頑張れば何とかなる所だった。

「ここ、良いだろう? 駅前には若者向けの店が多いし、通えたら楽しいぞ」

「そうだね。じゃあここにしようか」

「ああ、頑張ろうぜ。勉強はオレが見てやるから、塾とか家庭教師なんかに頼るなよ?」

「それは嬉しいけど…邪魔にならない?」

「ならないって。むしろ復習ができて、ちょうど良いぐらいだ」

彼の笑みと明るい姿は、見ていて気持ち良い。

「それじゃあお願いするね」

「おう! 任せろ」

大学の下見に行った後は、駅前をぶらついた。

途中、本屋で参考書を何冊か買って、彼の家に行った。

高級マンションに住んでいる彼の部屋は、ボクの部屋の2倍の広さがある。

けれどスッキリ片付けられていて、彼の几帳面さが表れている。

彼は大雑把に見られやすいけれど、料理や掃除が好きで、器用な人だった。 
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