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新たなる未来の為に

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「羽月くんの父親はもちろん彼をと望むだろう。でも正妻はそうもいかない。部下達だって黙っちゃいないだろうしね」
「敵だらけなんだな…」
「そうだね。でも羽月くんはキミの存在があるから、強く立ち向かっていける」
「えっ?」
 思わぬ言葉に、動揺した。
「キミと今度こそ生きて一緒になる為に、彼は彼なりに頑張っているんだよ。今はちょっとゴタゴタしているけど、そのうち落ち着くからさ」
 陽一の肩をバンバン叩き、利皇は笑みを浮かべた。
「それまでの辛抱だよ。…なぁに、決着はすぐにつくから」
「利皇、お前…」
 陽一は微笑みかけた表情を引き締め、真顔で低い声を出した。
「―何考えてる?」
「やだなぁ、そんな物騒な空気出さないでよ。大丈夫、俺はどちらかと言えば、羽月くんの味方なんだから」
「…その言葉、信じてもいいんだな?」
「もちろん」
 胡散臭さはかなりあったが、今は彼を頼るしかない。
「だから陽一くんは仕事に専念して。こっちが頑張っても、そっちがダメじゃ意味ないんだから」
「ダメになんてするか! 利皇、お前友達少ないだろう!」
「あはは、どうだろうね?」
 利皇の軽口に怒りながらも、心の中では感謝した。
 遠回しだが、励まそうとしてくれる利皇の気持ちが伝わったからだ。
「―ありがとな、利皇」
「んっ。羽月くんと別れたら、いつでも俺のところにおいで」
「その一言が余計なんだっ!」



 利皇との会話があって数日後、陽一はテレビのニュースで知った。
 羽月の父親が本当に引退し、その後継者に利皇がなったことを。
「ぶっー!」
 早朝、モーニングコーヒーを飲んでいた陽一はテレビを見て思いっきりふき出した。
「げほげほっ。なっ何だってぇえ!」
 テレビの中の羽月の父親は苦い顔をしており、対して利皇は満面の笑みを浮かべていた。
「アイツっ…隠してやがったな!」
 不安になる陽一を見て、さぞ心の中で笑っていたに違いない。
 陽一はあの時、礼を言ったことを激しく後悔した。
 ―その日の工場は休みの日だったが、陽一の家では電話が鳴り響き、訪問客も多かった。
 理由は利皇のことだ。
 数日前に会った人物が、まさかこんな大物だったなんて、陽一は知っていたのかと問い詰められていた。
 だが知らなかったものは知らなかったと言うしかない。
 とりあえずプロジェクトには影響ないだろうと言うと、ひとまず落ち着いた。
 だが陽一が落ち着かなかったのは言うまでもないこと。
 早速羽月に連絡を取り、明日にでも会う約束を取り付けた。



「…で? どういうシナリオだったんだ?」
「おっ落ち着いて、陽一。ちゃんと説明するから」
 羽月の寝室で、馬乗りになっている陽一の体からは、ただならぬオーラが出ていた。
「順を追って話すとね、ボクと利皇が出会ったのは二年前、留学していた時だったんだ」
 利皇も経済学を学びに留学していて、二人は出会った。
 そして羽月を通じて、二番目の義姉と出会い、意気投合して結婚したのが一年前の話。
 その時には二人は日本に戻っていた。
 羽月が陽一を探す為に仕事をはじめる時、利皇はおもしろそうだと乗ってきたらしい。
 利皇は元々野心家で、自分の力を試したくてしょうがなかった。
 だから羽月は彼に話を持ちかけた。
 父の会社を継がないか―と。
「…そこまでは知っている。でもアイツは婿入りしなかったんだろう? だから後継者になるのは難しいって…」
「うん。だからウチの会社とあちらの会社を融合するってことになるね」
 羽月はそう言うが、結果的には吸収合併と言った方が正しいだろう。
 羽月の父親の会社は昔からあるが、最近ではあまり業績は良くなかったらしい。
 対して利皇の親戚達の会社は最近できたものの、業績は上がる一方。
 お互い欠けた部分を補う為に、必要だったと言う。
「父が頑固者なのは、陽一も知っているだろう? 会社を立て直す為とは言え、大人しく乗っ取らせてはくれなかったんだ」
「…じゃあ、お前と利皇は何をしたんだ?」
「上の役員達を説得したんだ。企業機密に関わることだから、あんまり詳しくは言えないけど…」
 しかしあの利皇の性格を考えれば、何となく想像がついてしまう。
 口が上手い上に、S&Mという会社で働いていたのだ。あらゆる所から情報を集め、そしてコネも使って、うるさい上の役員達を黙らせたのだろう。
「他にも株主とか、発言力のある人達をこちらの味方につけた。そして後継者問題の会議が行われた時、クーデターを起こしたんだ」
「…羽月ではなく、利皇を後継者にする為にか」
「そう。ボクを推薦したのは父一人だけだった。いくら父でも、自分以外の全員の意見を無視することはできない。そうして利皇が全てを奪ったんだ」
「お前はそれで良かったのか?」
「もちろん」
 羽月は心から穏やかな笑みを浮かべた。
「利皇は約束してくれた。欲しかった地位を手に入れる為に協力してくれるなら、ボクに自由を与えてくれるって」
 羽月は陽一と額を合わせ、ゆっくり眼を閉じた。
「ボクはお金も権力も地位もいらない。陽一さえいれば、それで良いんだ」
「羽月…」
 陽一は羽月を抱き締め、何度も頭を撫でた。
「…この会社はどうするんだ?」
「とりあえずは続けるよ」
「って言うか利皇は辞めたのか? ここを」
「うっう~ん。何か本人は辞めたくないみたい」
「アイツ…楽しんで遊んでいるよな?」
「まっまあそうみたい」
 マネーゲームを好んでやりそうな利皇は、地位を手に入れても続けそうだ。しかも人知れずこっそりと。
 でもそのぐらい野心的ではないと、上の立場になれないのかもしれない。
 …だとすれば自分は低いままで良いと、陽一は心の底から思った。
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