誘いの動画【マカシリーズ・22】

hosimure

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交響曲

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「まさかこんな近くにあったなんてなぁ」



海と山の間にある、廃墟と化した教会にクラスメート達を連れてきたオレは、肩を竦めた。



「まっ、こういうモンさ。それより感想はどうだ?」



学校が終わってから来たんで、すでに辺りは薄暗かった。



動画で見たままの廃墟。



しかしそこには誰もいなくて、死体なんかもあるハズなかった。



埃臭さが、年月を感じさせる。



「え~、でもココなんでしょ?」



「多分な。オレが探した所じゃ、ココしかヒットしなかった」



不気味そうに辺りを見回すクラスメート達。



ふと入ってきた扉を見る。



するといきなり扉が音を立てて閉まった。



「えっ?」



「何? 何なの?」



「きゅっ急に扉がっ…!」



すると今度は窓に暗幕がかかり、一気に中が暗くなる。



「きゃあっ!」



「ちょっと! 何なのよ!」



悲鳴と怒号が廃墟の中に満ちる。



暗闇と声、そして次に廃墟を満たしたのは…血の匂いだった。



グシャッ…!



「がっ…!」



友人の最期の声が、間近で聞こえた。



生温い感触が、オレに降りかかる。



オレはポケットからアイフォーンとイヤホンを取り出した。



イヤホンを付け、ピアノソナタを聴く。



荒々しい交響曲。



教会の中ではきっと、醜い悲鳴が飛び交っているんだろう。



オレはそんなもの、聞く気にはならなかった。



眼を閉じ、暗闇と曲を体中に満たす。



この曲は約10分―。



終わると同時にオレはイヤホンを外した。



「―終わった?」



「ああ、まあな」



シキの声は、背後から聞こえた。



血塗れのシキが、赤く長い前髪をかき上げた。



すでに5人は絶命し、シキに喰われた。



「どう? 少しは回復した?」



「まあな。だがイマイチだ。もっといいエサはないのか?」



「ムチャ言わないでくれる? コレでも苦労してんだからさ」



ポケットにイヤホンを入れて、オレはシキと向かい合う。



シキは上半身裸で、その右肩には何かに切られたような痕が。



そして腹には二発、銃で撃たれたような痕があった。



「まっ、逃げる分には回復できたな」



「何体喰ったんだっけ?」



「二ヶ月で34。そろそろヤツらにバレるだろうな」



「やり方を変えつつやっているけど、内容は同じだもんな。趣向を変えようと思っても、誘き寄せるのが目的だと変えずらいし」



「だがお前のおかげでエサを喰えた。とりあえずは礼を言うべきだろうな」



「…別に。オレは代わりにシキのピアノを聴けたから、それで満足してるし」



そう。オレがずっと聞いていたのは、シキが演奏するピアノだった。



そしてオレとシキは―共謀者だった。



「しかし今回のヤツら、お前の友達とやらじゃなかったのか?」



「ああ…。別にいいよ。こんなヤツら」



オレは床に倒れている連中を、冷たい目線で見下ろした。



「昔、ここでオレにケガさせて、ピアノを弾けなくさせたの、コイツらだし」



「恨んでいたのか?」



「…まあね。代わりを見つけても、それで満足はしなかったから」

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