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「彼も彼女も本望でしょう。死への旅路に、二人仲良く連れ立って行ったんですから」
「…もうあやつを連れ戻すことはできないのか?」
「ムリでしょう。ボクの眼から<視>ても、二人は普通の人間が行けない場所へ行ってしまったんですから」
二人は仲良く、笑顔で黄泉の道へ歩いて行った。
追いかけることは不可能。
連れ戻すことはできない。
「やれやれ…。あやつの両親に何と言えばいいのか」
「ありのままを言っても信じてはくれないでしょうからね。普通に駆け落ちというネタで収めるのが一番じゃないでしょうか?」
「はぁ~。そうだな」
祖父は頭をかきながら、近くにいた秘書に耳打ちをする。
依琉は笑顔で紅茶を飲んでいる。
祖父の表情は険しいままだ。
「しかし依琉よ、彼女が死者であること、何故言わなかった?」
「死んでても生きてても、従兄の愛した女性には変わらないからですよ。それに彼女が死者と伝えても、彼は信じなかったでしょうし、この結末は変わらなかったと思います」
依琉は祖父に、前もって言っていなかった。
彼女が死霊であること。
そして行動範囲があの公園と大学だけだということを。
なので離れたこの家には、彼女は来られなかった。
だからこそ、彼女は従兄を連れて行ったのだ。あの日に。
「全く…。お前というヤツは、人情よりも好奇心が勝るところが欠点だな」
「ええ。神無月にもよく言われます」
悪趣味だと、しょっちゅう叱られる。
自覚はあっても、性格を変える気はなかった。
「まっ、結末が変わらなかったことは否定できないな。あれだけ惚れてた女に連れてかれたんだ。さぞかし喜ばしいことだろうよ」
しかしその性格は祖父譲りの為、祖父からは強く言われなかった。
「だが依琉、お前、幽霊まで<視>えるのか?」
「実体があれば、ですけど。彼女の体は死体でしたからね」
「やれやれ。お前だからこそ、封印も無事に済ませられたというものだな」
「そんなに難しくはなかったですし、それに…」
そこで依琉は微笑を浮かべた。
心の底から楽しそうな微笑を。
「今のメンバー、楽しい人ばかりですから。ボクもつい、本気になっちゃっただけですよ」
肩を竦めながら言った依琉を見て、祖父は深く息を吐いた。
「その気持ちは分からなくはないがな。<視>るのもほどほどにしとくんだな」
「はいはい。まだあのメンバーには嫌われたくはないですからね。あと旅行ですが、できれば合宿の前にお願いします」
「ああ、分かった」
頷く祖父の姿を見て、依琉は安心した。
そして窓の外に視線を向け、今頃部員達は何をしているだろうと考えながら、自然と微笑んでいた。
【終わり】
「…もうあやつを連れ戻すことはできないのか?」
「ムリでしょう。ボクの眼から<視>ても、二人は普通の人間が行けない場所へ行ってしまったんですから」
二人は仲良く、笑顔で黄泉の道へ歩いて行った。
追いかけることは不可能。
連れ戻すことはできない。
「やれやれ…。あやつの両親に何と言えばいいのか」
「ありのままを言っても信じてはくれないでしょうからね。普通に駆け落ちというネタで収めるのが一番じゃないでしょうか?」
「はぁ~。そうだな」
祖父は頭をかきながら、近くにいた秘書に耳打ちをする。
依琉は笑顔で紅茶を飲んでいる。
祖父の表情は険しいままだ。
「しかし依琉よ、彼女が死者であること、何故言わなかった?」
「死んでても生きてても、従兄の愛した女性には変わらないからですよ。それに彼女が死者と伝えても、彼は信じなかったでしょうし、この結末は変わらなかったと思います」
依琉は祖父に、前もって言っていなかった。
彼女が死霊であること。
そして行動範囲があの公園と大学だけだということを。
なので離れたこの家には、彼女は来られなかった。
だからこそ、彼女は従兄を連れて行ったのだ。あの日に。
「全く…。お前というヤツは、人情よりも好奇心が勝るところが欠点だな」
「ええ。神無月にもよく言われます」
悪趣味だと、しょっちゅう叱られる。
自覚はあっても、性格を変える気はなかった。
「まっ、結末が変わらなかったことは否定できないな。あれだけ惚れてた女に連れてかれたんだ。さぞかし喜ばしいことだろうよ」
しかしその性格は祖父譲りの為、祖父からは強く言われなかった。
「だが依琉、お前、幽霊まで<視>えるのか?」
「実体があれば、ですけど。彼女の体は死体でしたからね」
「やれやれ。お前だからこそ、封印も無事に済ませられたというものだな」
「そんなに難しくはなかったですし、それに…」
そこで依琉は微笑を浮かべた。
心の底から楽しそうな微笑を。
「今のメンバー、楽しい人ばかりですから。ボクもつい、本気になっちゃっただけですよ」
肩を竦めながら言った依琉を見て、祖父は深く息を吐いた。
「その気持ちは分からなくはないがな。<視>るのもほどほどにしとくんだな」
「はいはい。まだあのメンバーには嫌われたくはないですからね。あと旅行ですが、できれば合宿の前にお願いします」
「ああ、分かった」
頷く祖父の姿を見て、依琉は安心した。
そして窓の外に視線を向け、今頃部員達は何をしているだろうと考えながら、自然と微笑んでいた。
【終わり】
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