光輪学院シリーズ・依琉の微笑

hosimure

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すると彼女もすぐに笑みを浮かべた。

しばらく三人で話をした。

二人は依琉を歓迎して、依琉も二人に対して笑顔で接していた。

…表面上は。

やがて陽が暮れ始め、そこで解散となった。

森林を抜けた所で彼女は別方向へと帰るとのことで、従兄と依琉の二人と別れた。

従兄が駅まで送ってくれるというので、依琉は笑顔で承諾した。

駅までの道のりの間、従兄は満面の笑みで彼女の話しばかりしていた。

しかし依琉はイヤな顔などせず、笑顔を浮かばせながら聞いていた。

やがて駅に着き、別れの時となった。

そこで依琉は従兄に頭を下げられた。

今までの自分の態度が悪過ぎたと、改めて謝られた。

依琉は笑顔で頷き、従兄はほっと安堵の笑みを浮かべ、去っていった。

電車に乗り込んだ依琉は、口元にだけ笑みを浮かべ、眼を閉じた。

彼女をはじめて<視>た時のことを思い出しながら…。



ところが一週間後、事態は急変した。

その日、従兄が彼女を連れて、祖父の元へ訪れるはずだった。

しかし陽が暮れても二人は現われず、従兄の両親に連絡したが、まだ帰っていないという。

周囲の者達が慌て出す中、依琉だけが微笑を浮かべていた。

それから十日が経過した。

だが二人の行方は知れず、警察や探偵を動かしても、痕跡すら見つけられなかった。

従兄の両親は泣き続ける日々を送っている。

依琉は祖父と共に、リビングにいた。

険しい顔で、祖父は孫を見る。

孫の表情が微笑している為、状況は既に時が遅かったことを感じ取っていた。

「…依琉よ。お前は彼女の何を<視>た?」

「ボクは彼女がすでに死者であることを知っただけですよ。<視>たのは、彼女があの沼で死んだことです。―彼に暴行された後にですが」

依琉の言葉に、祖父は顔により深く皺を刻み込んだ。

依琉はあの日、楽しそうに語り合う二人から<視>たのだ。真実を。

彼女の生前の姿は、従兄が好みそうないわゆるギャル系の女性だった。

しかし外見は派手だったものの、心は純粋だった。

大学で軽い気持ちで声をかけてきた従兄に、本気になってしまったのだ。

ところが従兄は彼女の体だけが目的だった。

夜、あの沼に従兄は彼女を呼び出し、そして暴行した。

傷付いた彼女を置き去りにして去った後、目覚めた彼女は沼に飛び込み、命を落とした。

どうやらあの沼に、従兄は暴行目的で行っていたらしい。

深く傷付いた女性の姿が、たくさん見えた。

そして強い怨念が残った思いが、沼に溜まってしまった。

その為、彼女は死者ながらも、この世によみがえったのだ。

自分の黄泉への道に、従兄を引きずり込む為に。

姿・形を変え、従兄に近付いたのだ。


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