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血を求める植物

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あの男も日本語が上手かったが、肌の色は黒かった。

それに顔の半分しか見ていないが、日本人としての顔立ちではない。

さしずめ自国の植物を売りに、出稼ぎに来た外国人か。

まあそんなヤツがいたって、不思議じゃないがな。

それに植物は日本に輸入するとき、検査を受けているだろうし。

多少妙なところがあっても、買った本人に影響がなければ良いんだ。

オレは説明書に書いていた通り、水をコップ一杯用意した。

そしてちょっとイヤだったが、針で指先を刺し、一滴の血をまぜ、植物に与えた。

今はもう深夜だ。陽が当たっていなければ、良いだろう。

オレはその日、そのまま眠った。

植物の成長のことを思い浮かべながら…。

自分がどんな恐ろしいことをしたのか、考えもしないで…。



翌日、起きて見ると植物の異変に気付いた。

昨夜、葉っぱは淡い色だったのが、今ではハッキリとした緑色になっていた。

「コレ…栄養のおかげ、か?」

にしても、あまりに激変過ぎる気が…。

でもまあ、悪いことじゃないよな?

オレは気がかりになりながらも、会社に出勤した。

そして帰り道、あの男へ会いに行こうと思い、裏道を歩いた。

しかし、男はいなかった。

「今日は来なかったのかな?」

路上だし、そういうこともあるだろう。

オレは家に真っ直ぐに帰った。

そして水をやろうとした。

しかし予想以上に針を深く刺してしまい、血は3滴ほど水に入ってしまった。

「やばっ…。でも説明書には多くやるなって書いてないよな?」

改めて、説明書に眼を通す。


【④お客様が与えられた血の量に応じて、植物の成長は変わります。お客様のご希望を受け、美しい姿を見せてくれます】

「…なら、平気か」

オレは大して考えず、水をやった。

「この調子の成長なら、そろそろつぼみの一つか二つ、見ても大丈夫そうだな」

買った時に咲いていた花は、すでにしぼんでいた。

他のつぼみはまだ、葉っぱと同じ色をしていて、触ると固かった。

けれど昨夜よりは格段にふくらんでいる。

「…どんなふうに咲き誇るのかな?」

昨夜の一輪の花では、花粉症は起きなかった。

けれどあの花はあまりに小さ過ぎる。

この植物の形態であれば、小さな可愛らしい花がたくさん咲くのだろう。

その時が楽しみだ―そう思っていた。

この時までは。


しかしまたもや翌朝、びっくりした。

あれほど固かったつぼみは、今や色を変え、柔らかそうにふくらんでいた。

「そんなまさかっ!」

おそるおそる触れてみると、確かに柔らかい感触。

鼻を近付けると、甘い匂いがかすかに漂ってきた。

「…血が、栄養になっているのか」

にわかには信じられなかった。

しかし現実は目の前にある。

オレは不思議な高揚感を感じた。

この植物は、まるで血を分けた我が子のようだ。

おかしな言い方かもしれないけれど、オレの血を栄養とし、ここまで成長するなんて、自分の子供とも言える。

オレはしかし、心残りがありながらも、会社へ向かった。

収入を得なければ、オレが生きていけないから…。

けれど本心を言えば、この植物の側にずっといたかった。

成長を一時も眼を離さず、見つめ続けていたかった。


オレは仕事が終わると、走って家に帰った。

植物は朝見た時よりも、少しつぼみがふくらんでいた。

オレは買ってきたミネラルウォーターを開けた。

今までは水道水だったけれど、植物用の水もあるのだ。

途中、花屋で買ってきた。植物に良いと思って。

コップいっぱい分そそぎこむと、今度はカッターで指を切った。

ボタボタ…

透明な水が、赤い血がまじり、濁る。

けれどそれを植物にそそぎこむ。

「これで元気になってくれよ♪ お前がどんな成長した姿を見せてくれるのか、楽しみだ!」

翌朝、起きて見ると、予想が的中した!

花が咲いていたのだ!

淡いピンク色の、可愛らしい花々が咲いていた!

そして柔らかくも甘い匂いが、部屋に満ちていた。

けれど花粉症の症状は起きない。

どうやらあの男が言った通り、本当に相性が良いみたいだ。

オレとこの植物は。


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