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更に翌日、月曜日。
「…またやってもうた」
テーブルに顔を伏せ、わたしはグッタリしていた。
目覚まし時計はすでに、五時を差している。
テーブルにはできあがった白い帽子が置いてある。
かぎ針や毛糸もテーブルの上に散らかっており、徹夜で編み物をしたのが一目で分かるだろう。
…いや、わたしの目の下のクマの方が、分かりやすいな。
のろのろ動き、帽子をラッピングをして、お風呂場へ向かった。
今日も熱いシャワーからはじまる。
今日も午前授業だけなのがありがたい…。
午後からは別の生徒の二者面談がある。
さすがに授業が終わったら、すぐに家に帰ろう…。
ぼ~っとしたままシャワーを浴びて、一階に下りた。
ちょっと頭が働かないので、トーストとオムレツ、サラダの手抜きでカンベンしてもらおう。
他に何か出せるものがないかと、棚を調べていると、インスタントのスープを見つけた。
これでいっか。
準備をしていると、珍しく姉と兄が起きてきた。
…いや、徹夜明けなんだろう。
二人とも、目の下のクマがヒドイ。
「おっはよぉ。あっ、手伝うよ」
「おはよ…。何か手伝えること…ある?」
「おはよう、おねぇ、おにぃ。それじゃあおねぇはトースト焼いて。おにぃはインスタントのスープ作って。お湯熱いから気をつけてね」
「あいよ」
「分かった…」
二人は眠たそうだけど、徹夜には慣れているので普通に動ける。
…テンションはちょっとおかしいけれど。
そう思いながら、オムレツを焼く。
「今日はパンか。あっ、バターロールがある! こっちでも良い?」
「好きな方でいいよ。ご飯、夕べ炊くの忘れちゃって…」
「カナ、徹夜してたでしょ?」
「顔に出てる?」
「お互い様、ね」
姉が苦笑したので、わたしも苦笑した。
「ミホの妹のミユちゃんに、『お姉ちゃんと同じ帽子が欲しい』って言われてね。つい夢中になっちゃって…」
「アタシも友達がもうすぐ結婚するんでさ。ペアのプレートネックレスが欲しいって注文されて、ついつい徹夜を…」
「オレも徹夜…。原稿の下書き、全部終わったのは良いけど…夜も終わってた」
やっぱりわたし達、血の繋がりが濃いなぁ。
苦笑しながらオムレツを引っくり返した。
その後、できた朝食を家族全員で食べて、わたしは学校へ向かった。
途中のコンビニで、あったかい缶のブラックコーヒーと、ピザまんを買うつもりだった。
…成長期とは恐ろしい。
いくら食べても、満腹になった気にはならないのだから。
あとミユちゃんに、帽子の他に好きそうなお菓子を一緒に渡すつもりだった。
お菓子売り場を見ていると、ぽんっと肩を叩かれた。
「やっぱりいた。おはよん、カナ」
「あっ、ミホ。おはよう」
「お菓子、選んでんの? 奢るよ、帽子のお礼」
「奢ってくれるなら、缶コーヒーとピザまんよろしく。お菓子はミユちゃんにあげようと思って」
「ミユに? 帽子だけでいいよぉ」
「これはわたしが好きであげるの。だからお菓子代はわたしが出すから、ミユちゃんが好きそうなお菓子、選んでよ」
「へいへい。ミユが好きなのはチョコだけど、今人気アニメのおもちゃが入っているのが好きなのよね」
「あ~。わたしも昔、ハマッたなぁ。それで母さんがチビチビ買うなんて面倒だからって、ダンボール一箱買ってきたのには驚いたっけ」
「…昔からダイナミックね。菜雪さん」
「豪快だよね。でもそういうとこ、案外悪くないわよ」
何と言うか、一緒にいて飽きない人だ。
ああいう母親を持っていることは、わたしの自慢。
…でもああいう女性にはなれないだろうな。
「ふふっ。カナを見てると、それは良く分かる。カナ、菜雪さんにスッゴク愛されているもんね」
ミホが笑って言うので、何とも気恥ずかしい気分になる。
「うっウチのことはともかく! 今はミユちゃんのことを優先!」
「はいはい。あっ、コレが今気に入っているみたい」
「どれどれ」
日曜の朝、やっている女の子向けのアニメのお菓子があった。
キャラクターのフィギュアと、チョコ菓子が一緒に入っている。
「今ここにあるのは六箱か…」
「ちょっ、ウチんとこは一箱でいいからね!」
「え~、でもせっかくあるんだし…。買わなかった箱の中に、ミユちゃんの欲しいのがあったら、イヤじゃん」
そう言うと、ミホのわたしを見る目付きがおかしくなった。
「…アンタのそういうとこ、確実に菜雪さん似だわ」
「そお?」
「うん! 絶対っ!」
「…まっ、そうかもね。じゃあ、お買い上げってことで」
六箱全部持って、わたしはレジに向かった。
「ちょっとっ!」
「ミホはあったかい缶のブラックコーヒーとピザまん、よろしく!」
「んもうっ!」
後ろでブツブツ言っているミホを残し、わたしは支払いを済ませた。
お互い買い物を終えて、学校へ向かう。
「全く…。カナはミユに甘いわよ」
「ミユちゃん、可愛いもん♪ わたしには弟や妹いないしさ。甥っ子・姪っ子ができるまでは時間かかりそうだし」
「菜摘さんに菜月さんじゃあなぁ。出会い、ない?」
「おねぇやおにぃ、同業者にしか会わないから。基本、引きこもる仕事だし」
「同業者は? 恋愛対象にならないって?」
「『商売敵じゃあ~!』って、おねぇは騒いでいる。おにぃは『興味…ない』って言ってる」
二人の口真似をしながら言うと、ミホは遠い目をした。
「…何だか気持ちが分かるような、分からないような」
「今は仕事に夢中だから。まっ、ウチの母さんが結婚できたんだから、二人もする時はするでしょ」
「案外、カナの方が早いかもよ?」
「まっさかー。わたしも手芸に夢中だから。しばらくは恋愛なんてしなくても良いよ」
「そういうもんかねぇ。まっ、アタシもしばらくはいっかな。せめて進路が決まるまで、そういうこと考える余裕なんてなさそうだし」
「…またやってもうた」
テーブルに顔を伏せ、わたしはグッタリしていた。
目覚まし時計はすでに、五時を差している。
テーブルにはできあがった白い帽子が置いてある。
かぎ針や毛糸もテーブルの上に散らかっており、徹夜で編み物をしたのが一目で分かるだろう。
…いや、わたしの目の下のクマの方が、分かりやすいな。
のろのろ動き、帽子をラッピングをして、お風呂場へ向かった。
今日も熱いシャワーからはじまる。
今日も午前授業だけなのがありがたい…。
午後からは別の生徒の二者面談がある。
さすがに授業が終わったら、すぐに家に帰ろう…。
ぼ~っとしたままシャワーを浴びて、一階に下りた。
ちょっと頭が働かないので、トーストとオムレツ、サラダの手抜きでカンベンしてもらおう。
他に何か出せるものがないかと、棚を調べていると、インスタントのスープを見つけた。
これでいっか。
準備をしていると、珍しく姉と兄が起きてきた。
…いや、徹夜明けなんだろう。
二人とも、目の下のクマがヒドイ。
「おっはよぉ。あっ、手伝うよ」
「おはよ…。何か手伝えること…ある?」
「おはよう、おねぇ、おにぃ。それじゃあおねぇはトースト焼いて。おにぃはインスタントのスープ作って。お湯熱いから気をつけてね」
「あいよ」
「分かった…」
二人は眠たそうだけど、徹夜には慣れているので普通に動ける。
…テンションはちょっとおかしいけれど。
そう思いながら、オムレツを焼く。
「今日はパンか。あっ、バターロールがある! こっちでも良い?」
「好きな方でいいよ。ご飯、夕べ炊くの忘れちゃって…」
「カナ、徹夜してたでしょ?」
「顔に出てる?」
「お互い様、ね」
姉が苦笑したので、わたしも苦笑した。
「ミホの妹のミユちゃんに、『お姉ちゃんと同じ帽子が欲しい』って言われてね。つい夢中になっちゃって…」
「アタシも友達がもうすぐ結婚するんでさ。ペアのプレートネックレスが欲しいって注文されて、ついつい徹夜を…」
「オレも徹夜…。原稿の下書き、全部終わったのは良いけど…夜も終わってた」
やっぱりわたし達、血の繋がりが濃いなぁ。
苦笑しながらオムレツを引っくり返した。
その後、できた朝食を家族全員で食べて、わたしは学校へ向かった。
途中のコンビニで、あったかい缶のブラックコーヒーと、ピザまんを買うつもりだった。
…成長期とは恐ろしい。
いくら食べても、満腹になった気にはならないのだから。
あとミユちゃんに、帽子の他に好きそうなお菓子を一緒に渡すつもりだった。
お菓子売り場を見ていると、ぽんっと肩を叩かれた。
「やっぱりいた。おはよん、カナ」
「あっ、ミホ。おはよう」
「お菓子、選んでんの? 奢るよ、帽子のお礼」
「奢ってくれるなら、缶コーヒーとピザまんよろしく。お菓子はミユちゃんにあげようと思って」
「ミユに? 帽子だけでいいよぉ」
「これはわたしが好きであげるの。だからお菓子代はわたしが出すから、ミユちゃんが好きそうなお菓子、選んでよ」
「へいへい。ミユが好きなのはチョコだけど、今人気アニメのおもちゃが入っているのが好きなのよね」
「あ~。わたしも昔、ハマッたなぁ。それで母さんがチビチビ買うなんて面倒だからって、ダンボール一箱買ってきたのには驚いたっけ」
「…昔からダイナミックね。菜雪さん」
「豪快だよね。でもそういうとこ、案外悪くないわよ」
何と言うか、一緒にいて飽きない人だ。
ああいう母親を持っていることは、わたしの自慢。
…でもああいう女性にはなれないだろうな。
「ふふっ。カナを見てると、それは良く分かる。カナ、菜雪さんにスッゴク愛されているもんね」
ミホが笑って言うので、何とも気恥ずかしい気分になる。
「うっウチのことはともかく! 今はミユちゃんのことを優先!」
「はいはい。あっ、コレが今気に入っているみたい」
「どれどれ」
日曜の朝、やっている女の子向けのアニメのお菓子があった。
キャラクターのフィギュアと、チョコ菓子が一緒に入っている。
「今ここにあるのは六箱か…」
「ちょっ、ウチんとこは一箱でいいからね!」
「え~、でもせっかくあるんだし…。買わなかった箱の中に、ミユちゃんの欲しいのがあったら、イヤじゃん」
そう言うと、ミホのわたしを見る目付きがおかしくなった。
「…アンタのそういうとこ、確実に菜雪さん似だわ」
「そお?」
「うん! 絶対っ!」
「…まっ、そうかもね。じゃあ、お買い上げってことで」
六箱全部持って、わたしはレジに向かった。
「ちょっとっ!」
「ミホはあったかい缶のブラックコーヒーとピザまん、よろしく!」
「んもうっ!」
後ろでブツブツ言っているミホを残し、わたしは支払いを済ませた。
お互い買い物を終えて、学校へ向かう。
「全く…。カナはミユに甘いわよ」
「ミユちゃん、可愛いもん♪ わたしには弟や妹いないしさ。甥っ子・姪っ子ができるまでは時間かかりそうだし」
「菜摘さんに菜月さんじゃあなぁ。出会い、ない?」
「おねぇやおにぃ、同業者にしか会わないから。基本、引きこもる仕事だし」
「同業者は? 恋愛対象にならないって?」
「『商売敵じゃあ~!』って、おねぇは騒いでいる。おにぃは『興味…ない』って言ってる」
二人の口真似をしながら言うと、ミホは遠い目をした。
「…何だか気持ちが分かるような、分からないような」
「今は仕事に夢中だから。まっ、ウチの母さんが結婚できたんだから、二人もする時はするでしょ」
「案外、カナの方が早いかもよ?」
「まっさかー。わたしも手芸に夢中だから。しばらくは恋愛なんてしなくても良いよ」
「そういうもんかねぇ。まっ、アタシもしばらくはいっかな。せめて進路が決まるまで、そういうこと考える余裕なんてなさそうだし」
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