わたしの生きる道

hosimure

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ミホが照れくさそうに笑うので、わたしまで照れてしまう。

目線を下に向けたところで、紙袋を見た。

「あっ、いけない。忘れるところだった」

机の脇にかけていた紙袋を机の上に置き、中身を取り出した。

朝まで編んでいた白いニット帽。

「コレ、徹夜で作ってたやつ?」

「うん! ミホの為に作ったんだ」

そう言ってわたしはミホの頭に帽子をかぶせた。

二つのボンボンの形を整える。

ミホの少し茶色がかかった長い髪に、白い帽子は良く映えた。

「あっありがとう! 嬉しいよ」

ミホは本当に嬉しそうに、帽子に触れた。

「ボンボン付きなんだ」

「うん。可愛いかなと思って…」

「あっ、可愛い~」 

「カナの新作?」

帽子を見たクラスメート達が、声をかけながら近寄ってきた。

「うん、ミホの為に作ったの」

「相変わらずカナは器用ねぇ」

「ホント。将来は手芸家?」

「うん…。それで食べていけたらと思ってる」

「カナならできるって! 何せ毛糸編みの他にレース編みもできるんでしょ?」

「ビーズアクセも可愛くてキレイだし。人気あるんだから、大丈夫だって!」

「…うん。ありがと」

クラスメート達やミホが明るくしゃべる中、わたしは静かに息を吐いた。

「じゃあ皆藤は将来、手芸で身を立てるんだな? 専門学校とかは行かないつもりか?」

「ちょっと迷っています…」

「そうか」

わたしのクラスの担任は、今年五十歳になる林田先生。

男性で、担当教科は数学。

落ち着いていて話が分かるので、生徒達の間ではそこそこ評判が良い。

今日の授業は午前中で終わり。

けれど午後から二者面談が入っていたので、お弁当を食べてから、職員室へ向かった。

「一応わたしの方で、県内の手芸専門学校の資料を取り寄せといた。目を通すだけ、しといた方が良い」

「あっありがとうございます」

差し出された分厚い紙袋の中には、専門学校の資料がずっしり入っていた。

「ご家族は進路のことについて、何も言ってこないのか?」

「聞かれはしました。専門学校のことも…。行きたければ行って良いと言われています」

「ふむ。まあまだ時間はあるし、しばらくは考えてみるといい」

「はい、ありがとうございます。失礼しました」

「ああ」

五分ぐらいで終わったけれど、気疲れが…。

「あっ、カナ。終わった?」

職員室を出ると、ミホと会った。

バスケ部の下級生二人と、廊下で話しをしていたみたいだ。

「うん、次はミホでしょ? もう入っても大丈夫だと思うよ」

「そだね。じゃ、アンタ達、またね」

「はい! ミホ先輩」

「またお話してくださいね」

二人はキャッキャッと華やかな空気を出しながら、行ってしまった。

「…最近、下級生を見ると、自分が老けた気分になるのは何でだろう?」

「言わないでよ。アタシも何となく気にしているんだから」

ミホは渋い顔で、職員室の引き戸に手をかけた。

けれどすぐに振り返り、わたしの顔を見る。

「あっ、どうせすぐに終わるんでしょ? 一緒に帰ろうよ。今日、駅ビルのケーキ屋、レディースデーで全品五パー引きだし、食べてこ」

「そだね。教室で待ってる」

「うん」

…でもミホの場合、時間かかりそうだな。

まだ進路が未定だから。

まっ、その間は資料を読んでいれば良いか。

そう思いながら、わたしは教室へ向かった。

教室に入って十分後に、ぐったりした様子のミホが戻って来た。

「おっ、お帰り。じゃあ行こうか」

「うん…」

駅ビルは学校から歩いて二十分の所にある。

五年前に建てかえられた駅ビルは、いつでも若い人でいっぱいだ。

特に夕方には学生達の姿でごった返す。

ケーキ屋は三階にあって、今日はレディースデーなだけに女子高校生の姿が多かった。

「三時なだけに、人も多いわね。わたし達、出遅れたかな?」

「二者面談なんて面倒なもんがなければなぁ。座れるかな?」

「行って見なきゃ、わかんないって」

グズるミホの手を掴み、店内へ入る。

幸運にも二人分の席が空いていた。

「さて、何を食べるかな」

席には財布とケータイ以外の荷物を置いて、カウンターに向かった。

「今日のオススメは季節限定のモンブランとスイートポテトか。…何かどっかで聞かなかった?」

「朝、わたしが栗味のチョコレート、あげて食べたじゃない」

「あっ、そっか。でもケーキとチョコは別だよねぇ」

他にもいろいろ美味しそうなのが並んでいる。

けれど季節限定のオススメは、やっぱり特別だよね。

「わたしはモンブランとスイートポテト、それにブルーベリーのタルトにしよっと」

「一口ちょうだいね」

「はいはい」

「じゃあアタシはショコラとアップルパイ、チーズムースにしよう」

店員さんを呼び、ケーキを皿によそってもらう。

他にわたしはホットコーヒーを頼み、ミホは紅茶を頼んだ。

代金を払い、それぞれ注文した品を載せたプレートを持って席に戻る。

フォークを手に取り、どれから食べようかと考えたところで、ふと気付いた。

「でもケーキ三個って、頼みすぎたかな?」

「その分、頭使ったから良いって」

「何に使ったのよ? そもそも午後からは授業無かったでしょ?」

「しゃべるのも頭使うじゃん」

…よほど職員室ではしゃべったんだな。

わたしはモンブランをフォークで一口分取って、ミホの口元に運んだ。

「ホレ」

「あ~ん。…んっ、美味い♪」

上機嫌でミホはショコラをフォークで一口分取って、わたしの口元に。

「ホラ」

「んっ。ん~、ショコラも美味しい♪」

普通の日ではこういうことはあまりしない。

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