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「言ってくれるわね!」
静かに火花を散らす姉と兄が近くにいるのに、両親はとっとと朝食を食べ始めた。
なので止めるのはわたしの役目。
「おねぇ、おにぃ、いい加減にしないと朝食冷めるよ?」
「おっと」
「食べる」
二人はすぐさま我に返り、各々自分のイスに座った。
「うん、美味しい! 肌寒くなってきたし、あったかいご飯が嬉しいわね」
姉は満面の笑顔で朝食を頬張る。
兄も黙々と箸をすすめる。
「アンタ達、少しは料理覚えなさいよ。いつまで妹に頼っているつもり?」
母がジロっと睨むも、二人はサっと視線をそらす。
「だってアタシ、料理苦手なんだもん。彫刻なら得意なんだけどなぁ」
「オレも…マンガを書くのは得意」
「二人ともそれが職なんだから、得意で当たり前! ちったぁ努力しろって言ってんの」
「なによぉ。母さんだって、料理しないじゃん」
「掃除とか洗濯なら…オレ達もやっている」
「掃除と洗濯は主に父さんがやっていて、アンタ等は手伝う程度でしょう! それにあたしは料理なんて毎日イヤッてほどしているから、うんざりなのよ!」
「母さんの作る料理、評判良いからね。特にお菓子とか、全国の人から注文くるぐらいだからね」
父が穏やかに言う。
…今までの会話で、大体は察せるだろう。
実はウチの家族、全員が外に働きに出ていない。
姉は彫刻家。まあ彫刻家と言っても、アクセサリーを専門で作っている。
姉は蝶々や花を彫刻するのが得意で、若い女性に絶大な人気を誇っている。
リクエストなんかも受け付けていて、そういう時はアトリエから一歩も出てこない日もあるぐらい、仕事熱心な人。
そして兄はマンガ家。週刊少年誌でマンガを書いている。
アシスタントは一人も使わず、部屋で黙々と書いているにも関わらず、毎回締め切りをキチンと守っている。
しかも大人気連載で、今ではアニメや映画化の話まできている。
そして母は料理家だ。料理のみならず、お菓子も大好評。
父が言った通り、全国から注文が殺到するぐらいの人気がある。
そう…『注文』。
姉と母は、自分の作品をネットで販売しているのだ。
販売を取り仕切っているのは、実は父だったりする。
新作をホームページに載せたりするのも、父の役目。
なので姉と母は、作品作りに没頭できる。
個人で作っているので、数に限りが出てしまうが、それが人気の秘訣でもあるだろう。
兄は兄で、家から出ようとしない。
地下の他に、各階に書斎がある。
専門書からマンガまで、家族の本好きが高じて書斎が四つもできてしまった。
下手な本屋より品揃えが良いので、家から出て行くという考えはおきないみたい。
まあかく言うわたしも、そういう職に就くつもりなのだから、血は濃いものだ。
高校二年の秋、進路がこれほどまでしっかり決まっているのも、珍しいことだろうな。
わたし、皆藤花菜(十六歳)は深く息を吐いた。
すると隣に座っている姉が、茶碗を差し出した。
「カナ、おかわりちょーだい」
「良いケド、おかず無いよ?」
「納豆か卵ちょうだい」
「分かった。おにぃは?」
「もらう…。オレは…ふりかけで良い」
「アンタ達、だから自分達でやりなさいってば!」
「母さんは?」
「あたしは味噌汁のおかわり」
それを聞いて、ガクッと姉と兄の姿勢が崩れた。
「母さんだって、カナに頼んでんじゃん!」
「…手本に、ならない親」
「だまらっしゃい!」
姉こと皆藤菜摘(二十三歳)は、絶対に母似だ。
兄こと皆藤菜月(二十歳)も根本的なところで、母に似ている。
言われたら、言われたままではいられないところとか…。
それを考えれば、わたしは父親似なんだろうな。
お盆に姉・兄・母の食器を載せていると、父が立ち上がった。
「手伝うよ。花菜はお味噌汁を温めてくれ」
「分かった」
片付けは父に任せて、わたしはキッチンに入った。
言われた通り、味噌汁を温め直し、卵・納豆・ふりかけを用意する。
そうしているうちに、父がお盆と共にキッチンに入ってきた。
「ありがと、父さん」
三人の空の食器を受け取り、味噌汁とご飯をよそう。
「花菜はここまでで良いよ。学校に遅れるといけないから、もう用意しなさい」
「うん、あとお願いね」
リビングでは相変わらず三人がぎゃあぎゃあ言い合っている。
姉と兄は徹夜明けで、テンションがおかしいからな。
…わたしも気をつけなければ。
父こと皆藤柊(四十八歳)は、歳にしては落ち着いている。
いっつも穏やかで、怒ったところなんて見たことがない。
母こと皆藤菜雪(四十五歳)は、歳のわりには若く見える。
まだ三十代後半に見えるんだから、我が母なら恐ろしい人だ。
姉と一緒だと、姉妹に間違われてイヤだと言っている。
普通の母親ならば喜ぶんだろうが、母はそれが『母親らしくない』と言われているみたいでイヤそうだ。
そんな個性豊かな家族に、愛情いっぱいに育てられた。
だけどわたしには悩みがあった。
それは進路のことだった。
「はぁ…」
ため息がまた漏れてしまう。
重い足取りで、二階に上がった。
わたしの通う高校は女子校。
徒歩十五分で、途中にはコンビニがあってありがたい。
わたしはコンビニに入ると、温かい缶のブラックコーヒーと肉まんを一つ買うことを決めた。
お菓子売り場に行き、新作が出ていないかチェックする。
するとチョコレート菓子で、栗味とサツマイモ味の新作が出ていた。
「栗とサツマイモかぁ。…栗にしよ」
栗味のチョコと、缶コーヒーを持って、レジに向かった。
店員に肉まん一つを注文して、買い物終了。
「おはよー」
「おはよっ!」
学校近くになると、同じ制服に身を包んだ女の子達が増える。
静かに火花を散らす姉と兄が近くにいるのに、両親はとっとと朝食を食べ始めた。
なので止めるのはわたしの役目。
「おねぇ、おにぃ、いい加減にしないと朝食冷めるよ?」
「おっと」
「食べる」
二人はすぐさま我に返り、各々自分のイスに座った。
「うん、美味しい! 肌寒くなってきたし、あったかいご飯が嬉しいわね」
姉は満面の笑顔で朝食を頬張る。
兄も黙々と箸をすすめる。
「アンタ達、少しは料理覚えなさいよ。いつまで妹に頼っているつもり?」
母がジロっと睨むも、二人はサっと視線をそらす。
「だってアタシ、料理苦手なんだもん。彫刻なら得意なんだけどなぁ」
「オレも…マンガを書くのは得意」
「二人ともそれが職なんだから、得意で当たり前! ちったぁ努力しろって言ってんの」
「なによぉ。母さんだって、料理しないじゃん」
「掃除とか洗濯なら…オレ達もやっている」
「掃除と洗濯は主に父さんがやっていて、アンタ等は手伝う程度でしょう! それにあたしは料理なんて毎日イヤッてほどしているから、うんざりなのよ!」
「母さんの作る料理、評判良いからね。特にお菓子とか、全国の人から注文くるぐらいだからね」
父が穏やかに言う。
…今までの会話で、大体は察せるだろう。
実はウチの家族、全員が外に働きに出ていない。
姉は彫刻家。まあ彫刻家と言っても、アクセサリーを専門で作っている。
姉は蝶々や花を彫刻するのが得意で、若い女性に絶大な人気を誇っている。
リクエストなんかも受け付けていて、そういう時はアトリエから一歩も出てこない日もあるぐらい、仕事熱心な人。
そして兄はマンガ家。週刊少年誌でマンガを書いている。
アシスタントは一人も使わず、部屋で黙々と書いているにも関わらず、毎回締め切りをキチンと守っている。
しかも大人気連載で、今ではアニメや映画化の話まできている。
そして母は料理家だ。料理のみならず、お菓子も大好評。
父が言った通り、全国から注文が殺到するぐらいの人気がある。
そう…『注文』。
姉と母は、自分の作品をネットで販売しているのだ。
販売を取り仕切っているのは、実は父だったりする。
新作をホームページに載せたりするのも、父の役目。
なので姉と母は、作品作りに没頭できる。
個人で作っているので、数に限りが出てしまうが、それが人気の秘訣でもあるだろう。
兄は兄で、家から出ようとしない。
地下の他に、各階に書斎がある。
専門書からマンガまで、家族の本好きが高じて書斎が四つもできてしまった。
下手な本屋より品揃えが良いので、家から出て行くという考えはおきないみたい。
まあかく言うわたしも、そういう職に就くつもりなのだから、血は濃いものだ。
高校二年の秋、進路がこれほどまでしっかり決まっているのも、珍しいことだろうな。
わたし、皆藤花菜(十六歳)は深く息を吐いた。
すると隣に座っている姉が、茶碗を差し出した。
「カナ、おかわりちょーだい」
「良いケド、おかず無いよ?」
「納豆か卵ちょうだい」
「分かった。おにぃは?」
「もらう…。オレは…ふりかけで良い」
「アンタ達、だから自分達でやりなさいってば!」
「母さんは?」
「あたしは味噌汁のおかわり」
それを聞いて、ガクッと姉と兄の姿勢が崩れた。
「母さんだって、カナに頼んでんじゃん!」
「…手本に、ならない親」
「だまらっしゃい!」
姉こと皆藤菜摘(二十三歳)は、絶対に母似だ。
兄こと皆藤菜月(二十歳)も根本的なところで、母に似ている。
言われたら、言われたままではいられないところとか…。
それを考えれば、わたしは父親似なんだろうな。
お盆に姉・兄・母の食器を載せていると、父が立ち上がった。
「手伝うよ。花菜はお味噌汁を温めてくれ」
「分かった」
片付けは父に任せて、わたしはキッチンに入った。
言われた通り、味噌汁を温め直し、卵・納豆・ふりかけを用意する。
そうしているうちに、父がお盆と共にキッチンに入ってきた。
「ありがと、父さん」
三人の空の食器を受け取り、味噌汁とご飯をよそう。
「花菜はここまでで良いよ。学校に遅れるといけないから、もう用意しなさい」
「うん、あとお願いね」
リビングでは相変わらず三人がぎゃあぎゃあ言い合っている。
姉と兄は徹夜明けで、テンションがおかしいからな。
…わたしも気をつけなければ。
父こと皆藤柊(四十八歳)は、歳にしては落ち着いている。
いっつも穏やかで、怒ったところなんて見たことがない。
母こと皆藤菜雪(四十五歳)は、歳のわりには若く見える。
まだ三十代後半に見えるんだから、我が母なら恐ろしい人だ。
姉と一緒だと、姉妹に間違われてイヤだと言っている。
普通の母親ならば喜ぶんだろうが、母はそれが『母親らしくない』と言われているみたいでイヤそうだ。
そんな個性豊かな家族に、愛情いっぱいに育てられた。
だけどわたしには悩みがあった。
それは進路のことだった。
「はぁ…」
ため息がまた漏れてしまう。
重い足取りで、二階に上がった。
わたしの通う高校は女子校。
徒歩十五分で、途中にはコンビニがあってありがたい。
わたしはコンビニに入ると、温かい缶のブラックコーヒーと肉まんを一つ買うことを決めた。
お菓子売り場に行き、新作が出ていないかチェックする。
するとチョコレート菓子で、栗味とサツマイモ味の新作が出ていた。
「栗とサツマイモかぁ。…栗にしよ」
栗味のチョコと、缶コーヒーを持って、レジに向かった。
店員に肉まん一つを注文して、買い物終了。
「おはよー」
「おはよっ!」
学校近くになると、同じ制服に身を包んだ女の子達が増える。
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