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わたしの生活
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「んっと、ここをこうしてっ…と」
かぎ針を使って、わたしは編み物をしている。
作っているのは毛糸の帽子。
九月も末になると、編みたくなる物だ。
編んでいる白い毛糸は、触り心地が良い。
かぎ針編みは、二本の棒針を使うより楽。
網目さえ数を間違えなければ、スイスイ編めてしまう。
「よし! 完成♪」
そして完成したのは、二つのボンボン付きのニット帽。
ボンボンの長さをハサミで切ってそろえ、紙袋に入れて、背伸びをした。
「ふわぁあ。さて、寝ようかな」
夕飯を食べて、おフロに入った後、つい編み始めてしまった。
寝る前にやるものじゃないな、と思いつつ、ついやってしまう。
かぎ針や毛糸を片付け、わたしはケータイを手に取った。
一応、メールが来ていないかチェックする。
集中してしまうと、周囲のことに全く気が向けなくなってしまうのが、わたしの悪いクセだった。
メールは来ていなかった。
でも時刻を見て、固まった。
五時半。
…ちなみにわたしがいつも起きるのは、六時だったりする。
「あ~、もうっ! またやっちゃった」
編み物はいっぺん始めると、止まらなくなる。
ついつい夢中になり過ぎて、寝るのを忘れてしまうことはしばしばあった。
「どうしよう…。三十分だけでも寝ようかな?」
でも寝たら、六時に起きれない自信があったりもする。
眠りが深いのだ、わたしは。
五分ほど考えた後、観念して起きていることにした。
眠気覚ましに熱いシャワーを浴びれば、すぐに六時になるだろう。
そう思い、わたしは部屋を出た。
わたしの家は三階建て。
自室は二階にあって、各階におフロ&トイレがある。
なのでそのまま二階のお風呂場へゴー。
熱いシャワーを浴びてサッパリした後、制服に着替えて、カバンと帽子を入れた紙袋を持って一階へ下りた。
キッチンに入って、エプロンをかける。
冷蔵庫を覗き込み、今日の朝食とお弁当の中身を決める。
朝食は目玉焼きにウインナー、漬物とお麩のお味噌汁でいっか。
お弁当は…昨夜の夕食の残りのから揚げがあるから、後はウインナーと卵焼き、それに漬物と手抜きで良いや。
わたしの家族はまず両親、姉、兄、そしてわたしとなる。
手早く五人前の朝食と、一人分のお弁当を作ると、エプロンを脱いで姉と兄を起こしに行く。
まずは姉だ。
姉はリビングにある引き戸を開け、二メートルほどの廊下を歩いて、またある引き戸を開けた先にある。
そこは姉のアトリエ。
このアトリエは五年前に作られた。
しかし姉は仕事のことになると夢中になり過ぎて、しばしば食事や眠ることを忘れてしまう。
そこを心配した両親が、一階のリビングの壁をぶち抜き、引き戸と渡り廊下でアトリエをつないだのだ。
我が親ながら、派手な行動力だと思う。
けれど姉のことについては、わたしとの血のつながりをより強く感じてしまうので、両親には何も言えない。
アトリエにつながる引き戸を、わたしはドンドンと叩いた。
「おねぇ、朝だよ? 朝食できたよ」
「えっ! もう朝?」
中からはハイテンションな姉の声が返ってきた。
…どうやら徹夜で仕事をしていたらしい。
やっぱりわたしの姉だな。
変なところで感心しながら、ケータイをポケットから取り出し、時間を確認する。
「うん。六時半」
「ヤダぁ!」
引き戸の向こうから、
〈ガッシャン ゴロゴロッ!〉
という不吉な音が聞こえてきたので、両耳を手で塞いでやり過ごした。
「キャーッ! 売り物がぁ!」
「片付けたら来てね」
無情にも姉を見捨て、わたしは本宅に戻った。
そして今度はリビングを通って廊下に出て、地下一階へ下りる。
そう、ウチには地下がある。
ここには季節外れの物や、使わない物を入れたりする部屋の他、書斎や兄の部屋もある。
兄の部屋の扉を叩く。
「おにぃ、朝だよ。朝食できたよ」
「ああ…もうそんな時間か」
か細くも、はっきりとした声が返ってきた。
扉はすぐに開き、ぼんやり顔の兄が出てきた。
「…シャワーを浴びたら、行く」
「分かった」
兄と共に廊下を歩く。
ちなみに三年前に改築して、地下にもおフロ&トイレが作られた。
これは兄の為に、だ。
「仕事、進んだの?」
「ああ…。今日には、渡せる」
「そっか。おフロで寝ないようにね」
「うん…」
ぼんやりしたまま、兄はお風呂場へ入って行った。
一階に戻ると、上から両親が下りてきた。
「おはよう、父さん、母さん」
「おはよう」
「おっはよ~。あ~、眠いわ」
両親は三階に寝室がある。
結婚して二十五年目になるのに、未だ同じ部屋で、同じベッドで寝ているんだから、本当に仲が良い。
「朝食、作ってくれたんだ。ありがとね」
母がわたしの頭を抱え込み、額にキスをする。
子供を大事に思ってくれる、ありがたい両親だ。
「うん、簡単なものだけどね」
「作ってくれるだけマシよ。上の二人なんか、料理したこともないんだから。全く二十歳を越えてんのに、何でこう子供なんだか」
プリプリと怒りながら、リビングに入っていく。
父は苦笑しながら、わたしの頭を撫でた。
「いつもありがとな。たまには私達で作るようにするから」
「いっ良いよ。料理好きだし」
照れる顔を隠しながら、わたしはリビングで朝食を準備し始めた。
五人分用意すると、姉と兄もリビングに顔を出した。
「おっはよー。ヤダなぁ、また徹夜しちゃったよ」
「オレも…。でも姉さん、テンション高いね」
「アンタは相変わらずテンション低いわね。よくそれでマンガ家が勤まるもんね」
「テンションと内容は関係無い…。ああ、性格は関係ある…かも?」
かぎ針を使って、わたしは編み物をしている。
作っているのは毛糸の帽子。
九月も末になると、編みたくなる物だ。
編んでいる白い毛糸は、触り心地が良い。
かぎ針編みは、二本の棒針を使うより楽。
網目さえ数を間違えなければ、スイスイ編めてしまう。
「よし! 完成♪」
そして完成したのは、二つのボンボン付きのニット帽。
ボンボンの長さをハサミで切ってそろえ、紙袋に入れて、背伸びをした。
「ふわぁあ。さて、寝ようかな」
夕飯を食べて、おフロに入った後、つい編み始めてしまった。
寝る前にやるものじゃないな、と思いつつ、ついやってしまう。
かぎ針や毛糸を片付け、わたしはケータイを手に取った。
一応、メールが来ていないかチェックする。
集中してしまうと、周囲のことに全く気が向けなくなってしまうのが、わたしの悪いクセだった。
メールは来ていなかった。
でも時刻を見て、固まった。
五時半。
…ちなみにわたしがいつも起きるのは、六時だったりする。
「あ~、もうっ! またやっちゃった」
編み物はいっぺん始めると、止まらなくなる。
ついつい夢中になり過ぎて、寝るのを忘れてしまうことはしばしばあった。
「どうしよう…。三十分だけでも寝ようかな?」
でも寝たら、六時に起きれない自信があったりもする。
眠りが深いのだ、わたしは。
五分ほど考えた後、観念して起きていることにした。
眠気覚ましに熱いシャワーを浴びれば、すぐに六時になるだろう。
そう思い、わたしは部屋を出た。
わたしの家は三階建て。
自室は二階にあって、各階におフロ&トイレがある。
なのでそのまま二階のお風呂場へゴー。
熱いシャワーを浴びてサッパリした後、制服に着替えて、カバンと帽子を入れた紙袋を持って一階へ下りた。
キッチンに入って、エプロンをかける。
冷蔵庫を覗き込み、今日の朝食とお弁当の中身を決める。
朝食は目玉焼きにウインナー、漬物とお麩のお味噌汁でいっか。
お弁当は…昨夜の夕食の残りのから揚げがあるから、後はウインナーと卵焼き、それに漬物と手抜きで良いや。
わたしの家族はまず両親、姉、兄、そしてわたしとなる。
手早く五人前の朝食と、一人分のお弁当を作ると、エプロンを脱いで姉と兄を起こしに行く。
まずは姉だ。
姉はリビングにある引き戸を開け、二メートルほどの廊下を歩いて、またある引き戸を開けた先にある。
そこは姉のアトリエ。
このアトリエは五年前に作られた。
しかし姉は仕事のことになると夢中になり過ぎて、しばしば食事や眠ることを忘れてしまう。
そこを心配した両親が、一階のリビングの壁をぶち抜き、引き戸と渡り廊下でアトリエをつないだのだ。
我が親ながら、派手な行動力だと思う。
けれど姉のことについては、わたしとの血のつながりをより強く感じてしまうので、両親には何も言えない。
アトリエにつながる引き戸を、わたしはドンドンと叩いた。
「おねぇ、朝だよ? 朝食できたよ」
「えっ! もう朝?」
中からはハイテンションな姉の声が返ってきた。
…どうやら徹夜で仕事をしていたらしい。
やっぱりわたしの姉だな。
変なところで感心しながら、ケータイをポケットから取り出し、時間を確認する。
「うん。六時半」
「ヤダぁ!」
引き戸の向こうから、
〈ガッシャン ゴロゴロッ!〉
という不吉な音が聞こえてきたので、両耳を手で塞いでやり過ごした。
「キャーッ! 売り物がぁ!」
「片付けたら来てね」
無情にも姉を見捨て、わたしは本宅に戻った。
そして今度はリビングを通って廊下に出て、地下一階へ下りる。
そう、ウチには地下がある。
ここには季節外れの物や、使わない物を入れたりする部屋の他、書斎や兄の部屋もある。
兄の部屋の扉を叩く。
「おにぃ、朝だよ。朝食できたよ」
「ああ…もうそんな時間か」
か細くも、はっきりとした声が返ってきた。
扉はすぐに開き、ぼんやり顔の兄が出てきた。
「…シャワーを浴びたら、行く」
「分かった」
兄と共に廊下を歩く。
ちなみに三年前に改築して、地下にもおフロ&トイレが作られた。
これは兄の為に、だ。
「仕事、進んだの?」
「ああ…。今日には、渡せる」
「そっか。おフロで寝ないようにね」
「うん…」
ぼんやりしたまま、兄はお風呂場へ入って行った。
一階に戻ると、上から両親が下りてきた。
「おはよう、父さん、母さん」
「おはよう」
「おっはよ~。あ~、眠いわ」
両親は三階に寝室がある。
結婚して二十五年目になるのに、未だ同じ部屋で、同じベッドで寝ているんだから、本当に仲が良い。
「朝食、作ってくれたんだ。ありがとね」
母がわたしの頭を抱え込み、額にキスをする。
子供を大事に思ってくれる、ありがたい両親だ。
「うん、簡単なものだけどね」
「作ってくれるだけマシよ。上の二人なんか、料理したこともないんだから。全く二十歳を越えてんのに、何でこう子供なんだか」
プリプリと怒りながら、リビングに入っていく。
父は苦笑しながら、わたしの頭を撫でた。
「いつもありがとな。たまには私達で作るようにするから」
「いっ良いよ。料理好きだし」
照れる顔を隠しながら、わたしはリビングで朝食を準備し始めた。
五人分用意すると、姉と兄もリビングに顔を出した。
「おっはよー。ヤダなぁ、また徹夜しちゃったよ」
「オレも…。でも姉さん、テンション高いね」
「アンタは相変わらずテンション低いわね。よくそれでマンガ家が勤まるもんね」
「テンションと内容は関係無い…。ああ、性格は関係ある…かも?」
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