わたしの生きる道

hosimure

文字の大きさ
上 下
1 / 12

わたしの生活

しおりを挟む
「んっと、ここをこうしてっ…と」

かぎ針を使って、わたしは編み物をしている。

作っているのは毛糸の帽子。

九月も末になると、編みたくなる物だ。

編んでいる白い毛糸は、触り心地が良い。

かぎ針編みは、二本の棒針を使うより楽。

網目さえ数を間違えなければ、スイスイ編めてしまう。

「よし! 完成♪」

そして完成したのは、二つのボンボン付きのニット帽。

ボンボンの長さをハサミで切ってそろえ、紙袋に入れて、背伸びをした。

「ふわぁあ。さて、寝ようかな」

夕飯を食べて、おフロに入った後、つい編み始めてしまった。

寝る前にやるものじゃないな、と思いつつ、ついやってしまう。

かぎ針や毛糸を片付け、わたしはケータイを手に取った。

一応、メールが来ていないかチェックする。

集中してしまうと、周囲のことに全く気が向けなくなってしまうのが、わたしの悪いクセだった。

メールは来ていなかった。

でも時刻を見て、固まった。

五時半。

…ちなみにわたしがいつも起きるのは、六時だったりする。

「あ~、もうっ! またやっちゃった」

編み物はいっぺん始めると、止まらなくなる。

ついつい夢中になり過ぎて、寝るのを忘れてしまうことはしばしばあった。

「どうしよう…。三十分だけでも寝ようかな?」

でも寝たら、六時に起きれない自信があったりもする。

眠りが深いのだ、わたしは。

五分ほど考えた後、観念して起きていることにした。

眠気覚ましに熱いシャワーを浴びれば、すぐに六時になるだろう。

そう思い、わたしは部屋を出た。

わたしの家は三階建て。

自室は二階にあって、各階におフロ&トイレがある。

なのでそのまま二階のお風呂場へゴー。

熱いシャワーを浴びてサッパリした後、制服に着替えて、カバンと帽子を入れた紙袋を持って一階へ下りた。

キッチンに入って、エプロンをかける。

冷蔵庫を覗き込み、今日の朝食とお弁当の中身を決める。

朝食は目玉焼きにウインナー、漬物とお麩のお味噌汁でいっか。

お弁当は…昨夜の夕食の残りのから揚げがあるから、後はウインナーと卵焼き、それに漬物と手抜きで良いや。

わたしの家族はまず両親、姉、兄、そしてわたしとなる。

手早く五人前の朝食と、一人分のお弁当を作ると、エプロンを脱いで姉と兄を起こしに行く。

まずは姉だ。

姉はリビングにある引き戸を開け、二メートルほどの廊下を歩いて、またある引き戸を開けた先にある。

そこは姉のアトリエ。

このアトリエは五年前に作られた。

しかし姉は仕事のことになると夢中になり過ぎて、しばしば食事や眠ることを忘れてしまう。

そこを心配した両親が、一階のリビングの壁をぶち抜き、引き戸と渡り廊下でアトリエをつないだのだ。

我が親ながら、派手な行動力だと思う。

けれど姉のことについては、わたしとの血のつながりをより強く感じてしまうので、両親には何も言えない。

アトリエにつながる引き戸を、わたしはドンドンと叩いた。

「おねぇ、朝だよ? 朝食できたよ」

「えっ! もう朝?」

中からはハイテンションな姉の声が返ってきた。

…どうやら徹夜で仕事をしていたらしい。

やっぱりわたしの姉だな。

変なところで感心しながら、ケータイをポケットから取り出し、時間を確認する。

「うん。六時半」

「ヤダぁ!」

引き戸の向こうから、

〈ガッシャン ゴロゴロッ!〉

という不吉な音が聞こえてきたので、両耳を手で塞いでやり過ごした。

「キャーッ! 売り物がぁ!」

「片付けたら来てね」

無情にも姉を見捨て、わたしは本宅に戻った。

そして今度はリビングを通って廊下に出て、地下一階へ下りる。

そう、ウチには地下がある。

ここには季節外れの物や、使わない物を入れたりする部屋の他、書斎や兄の部屋もある。

兄の部屋の扉を叩く。

「おにぃ、朝だよ。朝食できたよ」

「ああ…もうそんな時間か」

か細くも、はっきりとした声が返ってきた。

扉はすぐに開き、ぼんやり顔の兄が出てきた。

「…シャワーを浴びたら、行く」

「分かった」

兄と共に廊下を歩く。

ちなみに三年前に改築して、地下にもおフロ&トイレが作られた。

これは兄の為に、だ。

「仕事、進んだの?」

「ああ…。今日には、渡せる」

「そっか。おフロで寝ないようにね」

「うん…」

ぼんやりしたまま、兄はお風呂場へ入って行った。

一階に戻ると、上から両親が下りてきた。

「おはよう、父さん、母さん」

「おはよう」

「おっはよ~。あ~、眠いわ」

両親は三階に寝室がある。

結婚して二十五年目になるのに、未だ同じ部屋で、同じベッドで寝ているんだから、本当に仲が良い。

「朝食、作ってくれたんだ。ありがとね」

母がわたしの頭を抱え込み、額にキスをする。

子供を大事に思ってくれる、ありがたい両親だ。

「うん、簡単なものだけどね」

「作ってくれるだけマシよ。上の二人なんか、料理したこともないんだから。全く二十歳を越えてんのに、何でこう子供なんだか」

プリプリと怒りながら、リビングに入っていく。

父は苦笑しながら、わたしの頭を撫でた。

「いつもありがとな。たまには私達で作るようにするから」

「いっ良いよ。料理好きだし」

照れる顔を隠しながら、わたしはリビングで朝食を準備し始めた。

五人分用意すると、姉と兄もリビングに顔を出した。

「おっはよー。ヤダなぁ、また徹夜しちゃったよ」

「オレも…。でも姉さん、テンション高いね」

「アンタは相変わらずテンション低いわね。よくそれでマンガ家が勤まるもんね」

「テンションと内容は関係無い…。ああ、性格は関係ある…かも?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バンディエラ

raven11
青春
今はもうプレーすることから遠ざかった、口の中が血の味になりながら、ただひたすらにゴールにぶち込むことだけを考えながら走り続けた、かつての歴戦の選手へ。 また、その経験がなくても芸術的なシュートや、パスに心躍ることのできるあなたへ。

【完結】さよなら、私の愛した世界

東 里胡
青春
十六歳と三ヶ月、それは私・栗原夏月が生きてきた時間。 気づけば私は死んでいて、双子の姉・真柴春陽と共に自分の死の真相を探求することに。 というか私は失くしたスマホを探し出して、とっとと破棄してほしいだけ! だって乙女のスマホには見られたくないものが入ってる。 それはまるでパンドラの箱のようなものだから――。 最期の夏休み、離ればなれだった姉妹。 娘を一人失い、情緒不安定になった母を支える元家族の織り成す新しいカタチ。 そして親友と好きだった人。 一番大好きで、だけどずっと羨ましかった姉への想い。 絡まった糸を解きながら、後悔をしないように駆け抜けていく最期の夏休み。 笑って泣ける、あたたかい物語です。

ヤマびこ教科書

雨足怜
青春
ヤマびこ教科書。それはヤマを教えてくれる―― 友人の噂を否定する高峰だが、喋る教科書に出くわしてしまう。 魔が差して教科書を盗み出した高峰だが――

小江戸の春

四色美美
青春
新入社員の二人がバディとなり、川越の街を探索します。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

巡る季節に育つ葦 ー夏の高鳴りー

瀬戸口 大河
青春
季節に彩られたそれぞれの恋。同じ女性に恋した者たちの成長と純真の話。 五部作の第一弾 高校最後の夏、夏木海斗の青春が向かう先は… 季節を巡りながら変わりゆく主人公 桜庭春斗、夏木海斗、月島秋平、雪井冬華 四人が恋心を抱く由依 過ぎゆく季節の中で由依を中心に4人は自分の殻を破り大人へと変わってゆく 連載物に挑戦しようと考えています。更新頻度は最低でも一週間に一回です。四人の主人公が同一の女性に恋をして、成長していく話しようと考えています。主人公の四人はそれぞれ季節ごとに一人。今回は夏ということで夏木海斗です。章立ては二十四節気にしようと思っていますが、なかなか多く文章を書かないためpart で分けようと思っています。 暇つぶしに読んでいただけると幸いです。

ペンタゴンにストロベリー

桜間八尋
青春
高校生の秋山優雨はオフ会で恋をした。初めて顔を合わせることになったゲーム仲間「オジョ」は美人の大学生だったのだ。優雨はストーカー被害に悩まされていたオジョの助けになろうとするが、事態は殺人未遂にまで発展して……(全23話) ※他サイトでも公開中です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...