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人形とよみがえり
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マカは深く息を吐き、改めてマノンと向き合った。
「…大人しく、再び眠る気は?」
「さらさら無いね」
そう言ってマノンは立ち上がった。
「理由や原因はどうであれ、ボクは生き返れた。みすみす闇に戻るつもりは無いよ」
けろっと言い放つマノン。
マカは歯噛みした。
「ならっ、強制的にでもお前を闇に返す!」
「マカ! 止めて!」
「マサキ! カノンを止めておけ! 巻き込んでも責任は取らんぞ!」
マサキは頷き、カノンを抱き止めた。
「カノン…。これは二人の問題だよ」
マカは赤眼のまま、走り出した。
マノンの首を掴もうとするも、僅かな差で避けられる。
それから恐るべきスピードで急所を狙うも、軽々と避けられてしまう。
-死人に何故こんな力があるっ…!-
マカの顔に苦渋が滲んだ。
その心境を察したように、マノンは笑みを浮かべた。
「母さんがしてくれたことは、ボクだけの為の儀式だったからね」
「っ! …なるほど。そういう意味、だったのか」
マカはその笑みで悟った。
あの人形の本当の意味を。
店主の説明では、白い人形に自分の血と命、そして死者の肉体の一部を入れると、死者をよみがえらせるというモノだった。
だがその本当の効能とは―。
白い人形の本体とも言うべきが、恐らくは今のマノンの肉体だ。
そこに血と命を注ぎ込まれる。
そして死者のよみがえりの呪をかけられる。
―それでマノンはよみがえる。
よみがえるどころか、注がれた命と血のおかげで力を得る。
恐らく、よみがえった死者もそんなに長くは持たないだろう。
力の大半は、目の前にいるマノンに吸い取られているのだから。
「…てことを…。何てことをぉお!」
マカは激昂した。
誰だって死んで欲しくない、死にたくない人間はいる。
特に若い者であれば、尚更だ。
カノンが人形を与えるターゲットを、自分と近い歳の者を選んだのにも理由がある。
マノンと言う、もう一人のマカをよみがえらせる為に。
近い歳の者の血と命、そして呪が必要だったのだ。
でもこんなのは、人の悲しみと弱みに付け込んだ悪しき行動以外の何物でもない。
人の死は、とても悲しく苦しく切ない。
だからこそ、生は楽しく明るく嬉しいものなのだ。
生に闇や影があろうとも、生きていればどうにだって出来るし、何にでもなれる。
その人の絶望と幸福を利用して、得た結果が、目の前の闇のモノ。
すでに人成らざるモノなんていう次元じゃない。
あっては成らない、闇の眷属だ。
「マノンっ! 頼むから闇へ返れ! この世に存在するだけで災いとなるお前を、このまま野放しには出来ないんだ!」
「死ぬことを頼むなんて、ヘンな姉さんだね。イヤに決まっているじゃないか」
マノンは避けるだけで、攻撃を仕掛けてはこない。
だが体力の限界を、マカの方が感じていた。
すでに息は上がりつつあるのに、マノンは息一つ切らせていない。
…そういう肉体的な機能が無いのかもしれない。
昂る感情のせいで、涙が溢れてきた。
仮にも同じ両親を持ちながらも、己が半身は闇のモノと化してしまった。
元より、この血をもって生まれたことより、自分がただの人間だとは一度たりとも思ったことは無かった。
だが、あえて人としての道を外れようとも思わなかった。
例えそれに近い道に進んだとしても、必ず引き戻せる自信があったのに…。
けれど目の前の自分は、闇の道を進むことを決めてしまった。
それは血族の次期当主としても、普通の女子高校生としても許せることではない!
「…終わりにしよう。マノン」
マカは静かに息を吸った。
そして右手に気を溜める。
屈み込み、一気に走り出す!
マノンの首を狙って。
しかし…。
「遅いよ、姉さん」
無邪気な笑顔に、一瞬手が揺れた。
その隙に攻撃の腕を捕まれ、地面に体を叩き付けられた。
「がはっ!?」
肺の空気が全て抜けた。
右腕と首元を捕まれた。
抗おうとしても、体への衝撃のせいで指一本動かせない。
ノドを締められ、空気が漏れる。
「ひゅっ…」
「人として生きるのもタイヘンだね。血族の力の使い方を忘れてしまうんだから」
「闇っ…に堕ちる、よりは…マシだ…」
「言うねぇ。流石はボクの姉さんだ」
マノンはククッと笑いながら、顔を近付けた。
「決着を付けたいのはヤマヤマだけどね。あいにく、まだボクの体はちゃんと出来ていない。延長戦といこうか」
「なにっを…」
マノンはニッコリ微笑むと、マカから離れた。
そして両手を広げると、白い光に包まれる。
「なっ…!」
マカは必死で顔だけ上げた。
しかし光の中に、白い物体を見つける。
それは人の形をした小さいモノ。
「まさか…」
例の人形。
それが次々にマノンの体に吸い込まれていく。
するとマノンは光の中に溶けていく。
「とりあえず、しばらくは維持できるかな? またね、姉さん。そして父さん、母さん」
マノンは笑顔で手を振り、光に溶けて消えた。
そしてそこにはマカとマサキ、カノンの三人が残った。
―誰一人、身動きが取れなかった。
「…大人しく、再び眠る気は?」
「さらさら無いね」
そう言ってマノンは立ち上がった。
「理由や原因はどうであれ、ボクは生き返れた。みすみす闇に戻るつもりは無いよ」
けろっと言い放つマノン。
マカは歯噛みした。
「ならっ、強制的にでもお前を闇に返す!」
「マカ! 止めて!」
「マサキ! カノンを止めておけ! 巻き込んでも責任は取らんぞ!」
マサキは頷き、カノンを抱き止めた。
「カノン…。これは二人の問題だよ」
マカは赤眼のまま、走り出した。
マノンの首を掴もうとするも、僅かな差で避けられる。
それから恐るべきスピードで急所を狙うも、軽々と避けられてしまう。
-死人に何故こんな力があるっ…!-
マカの顔に苦渋が滲んだ。
その心境を察したように、マノンは笑みを浮かべた。
「母さんがしてくれたことは、ボクだけの為の儀式だったからね」
「っ! …なるほど。そういう意味、だったのか」
マカはその笑みで悟った。
あの人形の本当の意味を。
店主の説明では、白い人形に自分の血と命、そして死者の肉体の一部を入れると、死者をよみがえらせるというモノだった。
だがその本当の効能とは―。
白い人形の本体とも言うべきが、恐らくは今のマノンの肉体だ。
そこに血と命を注ぎ込まれる。
そして死者のよみがえりの呪をかけられる。
―それでマノンはよみがえる。
よみがえるどころか、注がれた命と血のおかげで力を得る。
恐らく、よみがえった死者もそんなに長くは持たないだろう。
力の大半は、目の前にいるマノンに吸い取られているのだから。
「…てことを…。何てことをぉお!」
マカは激昂した。
誰だって死んで欲しくない、死にたくない人間はいる。
特に若い者であれば、尚更だ。
カノンが人形を与えるターゲットを、自分と近い歳の者を選んだのにも理由がある。
マノンと言う、もう一人のマカをよみがえらせる為に。
近い歳の者の血と命、そして呪が必要だったのだ。
でもこんなのは、人の悲しみと弱みに付け込んだ悪しき行動以外の何物でもない。
人の死は、とても悲しく苦しく切ない。
だからこそ、生は楽しく明るく嬉しいものなのだ。
生に闇や影があろうとも、生きていればどうにだって出来るし、何にでもなれる。
その人の絶望と幸福を利用して、得た結果が、目の前の闇のモノ。
すでに人成らざるモノなんていう次元じゃない。
あっては成らない、闇の眷属だ。
「マノンっ! 頼むから闇へ返れ! この世に存在するだけで災いとなるお前を、このまま野放しには出来ないんだ!」
「死ぬことを頼むなんて、ヘンな姉さんだね。イヤに決まっているじゃないか」
マノンは避けるだけで、攻撃を仕掛けてはこない。
だが体力の限界を、マカの方が感じていた。
すでに息は上がりつつあるのに、マノンは息一つ切らせていない。
…そういう肉体的な機能が無いのかもしれない。
昂る感情のせいで、涙が溢れてきた。
仮にも同じ両親を持ちながらも、己が半身は闇のモノと化してしまった。
元より、この血をもって生まれたことより、自分がただの人間だとは一度たりとも思ったことは無かった。
だが、あえて人としての道を外れようとも思わなかった。
例えそれに近い道に進んだとしても、必ず引き戻せる自信があったのに…。
けれど目の前の自分は、闇の道を進むことを決めてしまった。
それは血族の次期当主としても、普通の女子高校生としても許せることではない!
「…終わりにしよう。マノン」
マカは静かに息を吸った。
そして右手に気を溜める。
屈み込み、一気に走り出す!
マノンの首を狙って。
しかし…。
「遅いよ、姉さん」
無邪気な笑顔に、一瞬手が揺れた。
その隙に攻撃の腕を捕まれ、地面に体を叩き付けられた。
「がはっ!?」
肺の空気が全て抜けた。
右腕と首元を捕まれた。
抗おうとしても、体への衝撃のせいで指一本動かせない。
ノドを締められ、空気が漏れる。
「ひゅっ…」
「人として生きるのもタイヘンだね。血族の力の使い方を忘れてしまうんだから」
「闇っ…に堕ちる、よりは…マシだ…」
「言うねぇ。流石はボクの姉さんだ」
マノンはククッと笑いながら、顔を近付けた。
「決着を付けたいのはヤマヤマだけどね。あいにく、まだボクの体はちゃんと出来ていない。延長戦といこうか」
「なにっを…」
マノンはニッコリ微笑むと、マカから離れた。
そして両手を広げると、白い光に包まれる。
「なっ…!」
マカは必死で顔だけ上げた。
しかし光の中に、白い物体を見つける。
それは人の形をした小さいモノ。
「まさか…」
例の人形。
それが次々にマノンの体に吸い込まれていく。
するとマノンは光の中に溶けていく。
「とりあえず、しばらくは維持できるかな? またね、姉さん。そして父さん、母さん」
マノンは笑顔で手を振り、光に溶けて消えた。
そしてそこにはマカとマサキ、カノンの三人が残った。
―誰一人、身動きが取れなかった。
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