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身内

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「お待たせしました、お嬢様。イチゴのショートケーキとブルーベリーのレアチーズケーキでよろしかったでしょうか?」
「ああ、すまんな」
 落ち着いたカンジの女性秘書はにっこり微笑み、テーブルに注文の品を置き、静かに出て行った。
 するとマカの眼が鋭く光り、低く呟いた。
「…読心能力か」
「うん、彼女の能力には随分助けられているよ」
 2人は特にタイミングを合わせたワケでもないのに、お茶をはじめた。
 そしてマカが半分ほどショートケーキを食べたところで、言葉を発した。
「…それで、誰なんだ? 依頼者は」
「うん…。そうだねぇ」
 言い辛そうに、マサキは苦笑した。
「そしてその目的も、だ。何の為に普通の人間に悪影響を及ぼすモノを作らせた?」
マカの心底暗い声に、マサキは苦笑を深くした。
「作らせた人は………キミの母親だよ」
「なっ…!」
マカの顔色が一気に白くなった。
「何っ…バカなことをっ…! そもそもっ、母様はあの部屋から出られないんじゃないのかっ!」
テーブルを叩いて立ち上がったマカは、まだ信じられないと言った顔をしている。
「確かにカノンはあの部屋からは出られない。だから僕が頼んだんだよ」
「っ! ふざけるなっ! 私は一族の次期当主の身なんだぞっ! その地位を捨てさせるつもりかっ!」
「そんなつもりはないよ。現に父…いや、当主には許しを貰っている」
「何を考えているんだ! あのクソジジイっ!」 
「まあ…カノンのあの状況を知っているからだろうけど…」
「ああなったのは他でもない。ジジイのせいだろ。生まれたばかりの私を、母から無理やり引き離し、当主の英才教育を受けさせたんだからな」
「うん…。それにマノンのこともあるから」
 ぽつりと呟いたマサキの言葉に、マカの体が強張った。
 カノンとはマカの実母。
 そしてマノンとは―マカの双子の弟だった。
 だったという過去系を使うのには理由がある。
 すでにこの世にはいないからだ。
 マカと共に母の胎内から生まれ出たマノンの体はすでに、冷たくなっていた。
 なのに現当主こと、マカの祖父は次期当主の教育の為と言い、カノンの手からマカを取り上げたのだ。
 そのせいでカノンは精神に異常をきたし、おかしくなってしまった。
 彼女は今、一族の本家の奥深くに閉じ込められている。
 閉じ込められていると言っても、普通の生活を送っているだけだ。
 ただ、外の世界には一切関わっていないが。
 マカは年に数回しか実母に合っていない。
 元より一族の教育係りに育てられていたせいで、両親とも遠縁になってしまっていた。
 それに…カノンは会いに行くと、まるでそこにマノンがいるように会話をしてくる。
 マカのことは分かっている。
 けれどマノンがまるで生きてそこにいるように話をするのだ。
 なのでマカは実母を苦手としていた。
 マサキとは月に何度か会うか、カノンとは年々減っていた。
 そのカノンがマサキに頼んで、あの人形を作らせた。
 ならばその最終目的は―。
「…まさか、マノンを生き返らせるつもりか?」
「ご名答」
 マサキはあっさりと認めた。
 だがマカの表情は複雑に歪んだままだった。
「…それを当主が本当に認めたのか?」
「『出来るなら』、良いってさ」
 マサキは深く息を吐いた。
「『出来るなら』って…もう出来ないだろう? この件には私が絡んでしまった」
 そう言ってふと気付いた。
 店主はきっと、このことを知っていたに違いない。
 けれどあえて言わなかったのは、きっとマカを思ってのことだろう。 
「なら、マカはどうする気だ?」
「…母様に会う。会って止める」
 マカの眼には光が宿った。
「だが、その前に」
 目の前にいる実父を睨み付ける。
「あの人形の製作をやめさせろ。どう取り引きしているのか知らないが、一般の人間に渡すのもだ」
「それは…カノン次第だね。あの家の中にはいるけれど、全てを取り仕切っているのはカノンだから」
「どうやってそんなことを…」
「まっ、会ってみれば分かるよ」
 そう言ってマサキは立ち上がった。
「さっ、行こうか。送るよ」

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