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「でもその目論見も、全て台無しね。ウチに来てしまったんだもの」
「そうだね。夫は神無月やお祖母さんの力を信じちゃいなかった。まさか本当の能力者だとは、つゆほど思っていないだろうね」
「…これからどうなるんだろうね? あの二人」
「さあね」
依琉は肩を竦め、息を吐いた。
「離婚問題はもめるとヒドイって聞いたことがある。あの二人は特に、夫は別れたい、けれど妻は別れたくないという思いがあるから、余計にこじれる。だから夫はあんな行動に出たわけだが…」
そこまで言うと、依琉の唇が上がった。
「ここで全てが台無しになった。これから妻の体調は良くなるばかり。どんなふうになるのか、見てみたいものではあるけどね」
「下手な修羅場に顔を突っ込むのはおよしなさいな。ヤケドだけじゃ済まない時だってあるのよ」
「分かっているよ。それに今は部活の方が楽しいしね」
手をブラブラ振りながら、楽しげに言う。
対して神無月の顔は険しくなる。
「依琉の場合、わざとおかしくしているような気がするんだけど?」
「否定はできないけど、逃れられないって言うのもあるよ」
二人は短い間、視線で火花を散らした。
それが解かれたのは、祖母が部屋に入ってきたから。
「お嬢、それに依琉さん。生徒さん達が帰ったから、本低に移りましょう」
「えっ!? あっ、お婆、ゴメン!」
壁にかけてある時計を見上げれば、すでに10時半。
習字教室が終わる時間になっていた。
「いいのよ。…さっきのお客さんのこともあるしね」
声をひそめて言ったが、すぐに笑顔を浮かべる。
「これからあんみつを作るの。依琉さん、良かった食べてかない?」
「わあ! 嬉しいです。あんみつ大好きなので♪」
そこでふと、依琉がかなりの甘党であることを、神無月は思い出した。
「ふふっ、良かったわ。それじゃあご馳走するわね」
「はい! 喜んで」
笑顔で出て行く二人を見ながら、神無月はため息をついた。
<視>る力こそ無いものの、神道系に身を置いているせいか、多少人間のことがよく分かる。
例えば病気になっているかどうか―。
それで妻の姿を見て、一目で病気にはなっていないことを感じ取った。
それは祖母も一緒で…でもだからと言って、余計なことはしないし言い出さない。
<言霊>使いとして、言葉の重みをよく知っているからだ。
だから来客の注文通りに動いた。―どのような結果になろうとも。
「はぁ~」
二度目のため息を吐きながら、神無月は外に出た。
青空に浮かぶ太陽を見ながら、あの二人の行く道を思い、三度目のため息をついた。
【終わり】
「そうだね。夫は神無月やお祖母さんの力を信じちゃいなかった。まさか本当の能力者だとは、つゆほど思っていないだろうね」
「…これからどうなるんだろうね? あの二人」
「さあね」
依琉は肩を竦め、息を吐いた。
「離婚問題はもめるとヒドイって聞いたことがある。あの二人は特に、夫は別れたい、けれど妻は別れたくないという思いがあるから、余計にこじれる。だから夫はあんな行動に出たわけだが…」
そこまで言うと、依琉の唇が上がった。
「ここで全てが台無しになった。これから妻の体調は良くなるばかり。どんなふうになるのか、見てみたいものではあるけどね」
「下手な修羅場に顔を突っ込むのはおよしなさいな。ヤケドだけじゃ済まない時だってあるのよ」
「分かっているよ。それに今は部活の方が楽しいしね」
手をブラブラ振りながら、楽しげに言う。
対して神無月の顔は険しくなる。
「依琉の場合、わざとおかしくしているような気がするんだけど?」
「否定はできないけど、逃れられないって言うのもあるよ」
二人は短い間、視線で火花を散らした。
それが解かれたのは、祖母が部屋に入ってきたから。
「お嬢、それに依琉さん。生徒さん達が帰ったから、本低に移りましょう」
「えっ!? あっ、お婆、ゴメン!」
壁にかけてある時計を見上げれば、すでに10時半。
習字教室が終わる時間になっていた。
「いいのよ。…さっきのお客さんのこともあるしね」
声をひそめて言ったが、すぐに笑顔を浮かべる。
「これからあんみつを作るの。依琉さん、良かった食べてかない?」
「わあ! 嬉しいです。あんみつ大好きなので♪」
そこでふと、依琉がかなりの甘党であることを、神無月は思い出した。
「ふふっ、良かったわ。それじゃあご馳走するわね」
「はい! 喜んで」
笑顔で出て行く二人を見ながら、神無月はため息をついた。
<視>る力こそ無いものの、神道系に身を置いているせいか、多少人間のことがよく分かる。
例えば病気になっているかどうか―。
それで妻の姿を見て、一目で病気にはなっていないことを感じ取った。
それは祖母も一緒で…でもだからと言って、余計なことはしないし言い出さない。
<言霊>使いとして、言葉の重みをよく知っているからだ。
だから来客の注文通りに動いた。―どのような結果になろうとも。
「はぁ~」
二度目のため息を吐きながら、神無月は外に出た。
青空に浮かぶ太陽を見ながら、あの二人の行く道を思い、三度目のため息をついた。
【終わり】
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