黒き手が…【マカシリーズ・4話】

hosimure

文字の大きさ
上 下
6 / 8

救いの手

しおりを挟む
「マカぁーっ!」
「ようやく呼んだな。ったく、遅いっ!」
「えっ?」
 マカが現れた。
 それこそ風のような速さで。
 フーカの体を抱え込み、光る右手でフーカの首元に触れた。
 すると黒い手のひらは黒いチリと化し、消えた。
「…まったく。余計なことにばかり首を突っ込みたがるな。ミナは」
 マカは険しい表情で、フーカの体を見た。
「まっ、ぎりぎりセーフってところか」
「あっ、フーカちゃん!」
 ミナは二人に駆け寄った。
 フーカは涙を流していたが、その寝息は安らいだものになっていた。
「気を失っただけだ。…それより、説明してもらおうか」
 いつものマカとは違った厳しい雰囲気に驚きながらも、ミナはこの前の夜のことを話した。
 するとマカはこめかみをぐりぐりと指で押した。
「…このプレハブ小屋を壊すよう、校長に進言したのは私だ。ここはあまりに邪気が集まり過ぎた」
「じゃっ邪気?」
「ああ。ここは人目に付きにくいだろ? 悪さをする生徒や、自殺をする生徒の悪しき気が溜まり、この場自体が手に負えなくなっていた。だからいっそのこと壊すように言ったんだが…」
「ごっゴメン…」
「ミナに謝られてもしょうがないさ。まずは、ここを何とかしなければな」
 マカはミナの後ろに眼をやった。
「おい。セツカ、ソウマ。出て来い」
「はいはい」
「こんばんわ、ミナさん」
「あっ、あなた達…」
 あの夜、ぶつかった少年と青年だった。
「マカの知り合いなの?」
「正確には血縁者だ。少年の方がセツカ、青年の方がソウマと言う。まっ、深くは気にするな」
 そう言いつつ、ソウマにフーカの体を渡す。
「例の物は?」
「急いで準備しましたよ」
 フーカを受け取る時、ソウマは手に持っていた紙袋をマカに渡した。
 紙袋の中身を確認して、マカは頷いた。
「礼は後で渡す。セツカ、手伝え」
「はいはい」
「あっ、ミナはソウマの近くにいろ」
「うっうん…」
 マカはセツカを連れ、プレハブ小屋へと入った。
「…またよく活性化しているな」
「こんなに溜まっているとはね。学校って怖いよね」
 マカは険しい顔で紙袋に手を突っ込んだ。
 ミナやフーカには視えないだろうが、小屋の中は黒い手でいっぱいだった。
 いや、視えない方がよかっただろう。
 いろいろな黒い腕が伸び、渦を巻いている光景など。
 そして取り出したのは、丸く平べったいロウソク。
 そのロウソクには魔方陣が彫られていた。
「ボクも手伝ったんだからね。半日でやるには苦労したよ」
「コレで前回のケータイの件は水に流してやる」
 そう言われ、セツカは言葉をなくした。
 マカは黒き手を何とも思わず、部屋の隅にロウソクを置いていく。
 最後に中心部に一つ置き、その前に立った。
「セツカ」
「はいはい」
 セツカはマカと向かい合うように立った。
 二人で手を合わせ、気を高める。
 眼を閉じ、神経を集中する。
 すると二人からゆらり陽炎のように、気が立ち上る。
 ロウソクが一気に燃え上がった。
 赤き炎が柱となり、部屋に光が満ちる。
 そしてゆっくりと開いた二人の眼は、赤く染まっていた。
 二人の放つ気と、五つの炎の光は部屋の闇を飲み込み、そして突如消えた。
「…ふぅ」
「う~。今夜はゆっくり眠れそうだよ」
 二人はぐったりとした。
 ロウソクはすでに影も形も無い。
 同じように、黒き手も無くなっていた。
「…おとなしくしていれば、壊すだけで済んだのに」
 物を移動する時は真昼間で、大勢の人を使った。
 そして普通に壊せば、その場に溜まった気も壊せるはず―だった。
 余計なことをしなければ。

 アキが言い出したあの儀式。
 実はその場に溜まる気を、練り固めるものだった。
 このプレハブ小屋のような場所で、人が何度も行き来することにより、場に溜まっている気を練り回す。
 そして強くしてしまうのだ。
 
「ったく…。どこで仕入れた知識なんだか」
「…言っておくけど、ボクじゃないからね」
 セツカは最初に言っておいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オマジナイ【マカシリーズ・9】

hosimure
ホラー
オマジナイは「御呪い」。 その意味は、神仏その他不可思議なものの威力を借りて、災いや病気などを起こしたり、また除いたりする術。 毒にも薬にもなる呪法こそが、オマジナイ。

いつも一緒【マカシリーズ・10】

hosimure
ホラー
わたしは昔、犬と一緒にいた。 毎日楽しくて、一緒にいるのが嬉しかった。 なのに…今はもう、近くにいない。 犬と言う、存在は。

チェーンメール【マカシリーズ・8】

hosimure
ホラー
私の周囲の学生達は皆、チェーンメールに怯えています。 いつの頃か、学生限定で送られてくるメール。 他の人に送ると、自動的に消えるメール。 いつまでもケータイに残しておくと…。

擬態【マカシリーズ・2話】

hosimure
ホラー
マカの周囲で最近、おかしなウワサが広がっている。 それはすでに死んだ人が、よみがえるというウワサ。 ありえない噂話ながらも、心当たりをソウマと共に探り出す。 しかし二人は同属の闇深くを覗き込んでしまうことに…。 【マカシリーズ】になります。

誘いの動画【マカシリーズ・22】

hosimure
ホラー
ケータイにまつわる都市伝説は数多い。 オレの周囲でも最近、ケータイの都市伝説がウワサになって、流行っている。 とあるサイトからダウンロードできる動画がある。 しかしその動画には、不思議な魅力があり、魅入られた人間は…。 【マカシリーズ】になります。

表現する気持ち【マカシリーズ・18】

hosimure
ホラー
摩訶不思議な雑貨を扱うソウマの店に、一人の少女がやって来た。 彼女は生まれつき体が弱く、そんな自分を何とかしたいと言ってきた。 店主・ソウマは彼女の願いを叶える品物を売りつけた。 それを身に付ければ、願いは叶うのだと言って…。

マスク・ドール【マカシリーズ・14】

hosimure
ホラー
夜遅く、女性が1人で歩いていると、襲われます。 女性は顔をそぎ取られ、絶命してしまいます。 なのでくれぐれも深夜遅く、1人では歩かないでくださいね?

crazy antique shop【マカシリーズ・19】

hosimure
ホラー
街の外れにあるアンティークショップにはくれぐれも注意してください。 普通のアンティークショップなのか。 それとも…。

処理中です...