黒き手が…【マカシリーズ・4話】

hosimure

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もう一本の手

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 ミナは軽く息が上がっていた。
 息苦しさを感じているのだ。
 やり始めて何分経っただろうか。
 壁伝いとはいえ、同じ所をグルグル回っているせいで頭が変になりそうだった。
 しかも異変に気付いてしまった。
 順番から行けば、アキはユマにタッチする。
 そしてユマはフーカに。
 フーカはミナに。
 そしてミナはアキにと、順番は回っていく。
 本当ならば、ミナは二つの角を曲がらなければならない。
 しかし…いつの間にか、一つの角しか曲がらなくなっていた。
 それは目の前に何かあるから。
 それに触れると、自分の番が終わるからだ。
 そして順序は巡り、再び自分の番になる。
 この異変に自分以外の者が気付くとなれば、それはアキだ。
 ミナがタッチしたモノは、アキにタッチしに行くからだ。
 しかしアキもミナも声を上げない。
 同じ所を回っているせいか、疲れがきていて、気のせいだと思っているからかもしれない。
 やがて、アラームが響いた。
 それはちょうど、ミナが目の前のモノに触れようとした時だった。
「おっし! 終わりね! みんな、入り口に集まって!」
 アキの高い声で、現実に戻った気がした。
 四人はくたびれていた。
 プレハブ小屋から出た後も何も言わなかった。
 でもアキは、ユマとフーカから少し離れたミナの元へとやってきた。
「ねぇ、ミナ」
「何よ」
「前みたいに、一緒につるまない?」
「はあ?」
 何を言われたのか、理解できなかった。
 もう二人の進むべき道は違っている。
 ミナはマカと一緒にいられるところまで進むと決めた。
 それがどんな道であれ、マカの存在無しではいられないからだ。
「…悪いけど、あたしにはマカがいるから」
 だからハッキリと断った。
「そっか。分かった」
 アキはアッサリと引き下がった。
 中学時代、このアキのサバサバしたところに惹かれていた。
 何にでも行動的で、自信家。
 周りがどう言おうと、自分の意思を正しいと思って進んできたアキ。
 けれど…人を傷付けることにすら、罪悪感を感じないアキに、ミナは少し恐怖を抱いていた。
 高校に入って、マカに出会ってからはそんな恐怖は抱かなかった。
 …まあアキとマカの仲が良くなかったというのもあるが。
 廊下でアキとちょっと話すことがあっても、マカは良い顔をしなかった。
 元より嫉妬深いと感じてはいたが、アキと世間話をするだけでムッとされてしまう。
 そんなマカの感情に気付いたのか、アキもマカに近付こうとはしなかった。
 まあ片や教師受けが良く、クラスメート達にも人望の厚い優等生。
 片や教師の間でも、生徒達の間でも評判が良くないギャル生徒。
 比べるまでもなく、性格的に合わないのだろう。
 だからこの誘いは断って正解だ。
 アキも何が目的で、元の鞘に戻ろうなどと言い出したのか…。
 分からないまま、校門の所でお開きになった。
 マカが最近、霧が濃いのを気にしていた。
 おかしな奴がうろつくだろうから、人通りの多く、明るい所を歩いて帰れと。
 できれば夜、出歩かないようにとも言われていてが、今夜は仕方なかった。
 ため息をつきながら歩いていると、すれ違った人と軽くぶつかった。
「あっ、ゴメンなさい」
「いえ、ボクの方こそぼんやりしていましたから」
「おや、どうかしました?」
 ぶつかったのは、ミナより幼い少年だった。
 そして少年には青年が一緒にいた。
「ちょっとぶつかっただけだよ。それよりキミ…」
「はい?」
 少年はじっとミナを見た。
 そして苦笑を浮かべる。
「―なるほど。彼女が苦労するわけだ」
「えっ?」
「あっ、いやいや。それより、あんまり危ないことには首を突っ込まない方が良いよ」
「えっ、えっ?」
 意味が分からず首を捻ると、二人は互いに苦笑いを浮かべた。
「まっ、彼女なら何とかしてくれるでしょう」
「そうだね。キミにベタ惚れだから」
 そう言って二人は歩き出した。
「えっ…」
 言われたことが分からず立ち止まっていたミナだが、ふと気付いた。
「あの男の子の声、どこかで…」
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