黒き手が…【マカシリーズ・4話】

hosimure

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宵の手

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 ケータイの表示を見ると、夜の6時50分。
 門の前で、ミナは深く息を吐いた。
 あの後、マカは必要以上に気を使ってくれて、家まで送ってくれた。
 いつもならマカ特製の問題集を出してきて、明日までの宿題にするのに、今日はいいからと言われた。
 マカの優しさが嬉しい反面、黙っていることへの罪悪感で胸が痛い。
「…今夜で終わらせないと」
 今夜の肝試しを終えれば、きっと二人の気も済む。
 きっと受験ムードに耐え切れず、言い出したことだろう。
 でももし、続くようであるようなら…。
 マカと一緒にいられないようにされるのであれば…。
「あれぇ、ミナ。早いのね」
「コンバンワ」
 アキとユマがやってきた。
 二人の後ろには、大人しそうな少女がいる。
 同じ制服を着ているので、同じ学校であることは分かるが、あまり見たことのある顔じゃない。
「そのコは?」
「ああ、隣のクラスのコ。フーカ」
「こっこんばんわ」
 メガネをかけ、長い髪を三つ編みにしているフーカはオドオドしながら頭を下げてきた。
 明らかに、自らの意思で来たコではない。
「アキ、ユマ。無理やり連れて来たでしょ?」
「違うよ。ちゃんと誘って連れて来たんだよ」
「そうだよぉ。人聞きの悪いこと、言わないで」
 ユマはアキの言葉を返すだけだが、それがミナには気に入らない。
 アキの腰巾着とも、影ともウワサされるユマは、元よりフーカのように大人しい少女だった。
 しかしアキのような強きものに憧れ、こっちの道に進んでしまった。
「…そう。で、中に入るのね」
 いい加減、会話をすることもイヤになり、話を進めることにした。
「そっ、こんくらい、乗り越えられるでしょ?」
 そう言ってアキは、ひょいひょいっと門を乗り越えた。
 …この身軽さは、マカに匹敵しそうだ。
 ため息をつき、同じようにミナは門を乗り越えた。
「っと…。さすがに二人はムリでしょう?」
 ミナはユマとフーカを指さした。
 二人とも、あまり運動神経は良いように見えない。
「そうね。じゃ、鍵開けるから」
 アキは門の鍵を開け、二人を招き入れた。
 そして校庭の隅にあるプレハブ小屋に行く。
 ここは元は外の体育で使う物が置かれていた。
 だが近年、校舎の近くに新しいプレハブ小屋ができ、そちらに物も移動した。
 今では何も無い。
「ここで何するってーの?」
「だからぁ、肝試し的なこと?」
 アキはクスクス笑いながら、引き戸に手をかけた。
 それはあっさりと開いた。
「…何でカギかけてないの?」
「元からよ。それにもうすぐ壊す予定だから、カギかける必要も無いでしょ?」
 なるほど、と納得。
 中は月の光が差し込み、薄暗かった。
 僅かに埃臭いが、それでも気になるほどではない。
「うん、やっぱりちょうど良いわね」
「何がよ。アキ、そろそろ説明してちょうだい。ここで何をやるのよ?」
「あっ、そうそう。実はね」
 アキの説明はこうだった。
 まず一人ずつ、部屋の隅に行く。
 そして一人ずつ壁伝いに歩き、前にいる人の肩をタッチする。
 タッチされた人は歩き出し、また前の人の肩をタッチする。
 タッチし終わった後は、その場で待機。
 そうやってグルグルと部屋を回るのだと。
「…それの何がおもしろいの?」
「やぁだ~。よく考えてみなさいよ。一人ずつ、位置はズレるのよ? だから途中で一人は二つの角を曲がらなければいけない。けれどもし、一人一つの角しか行かなくなったら?」
「そうなったら…」
 …一人、増えていることになる。
 つまり、ホラーだ。
 ミナは言葉に詰まった。
「じゃ、やり方の説明は終了。30分したらケータイのアラーム鳴るから、そしたらオシマイね」
 アキはそう言って、各々立つ位置を決めた。
 そしてアキ、ユマ、フーカ、ミナの順番になった。
 引き戸を閉めても、月の光が窓から差し込むので、足元は見える。
「じゃ、始めましょう」

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