7 / 7
消えた絆・よみがえった縁
1
しおりを挟む
アタシの実家は昔ながらの和菓子屋だった。
店が始まった頃から、お饅頭を中心にアメや金平糖など、素朴なお菓子作りを職業として、代々創立者の血縁者が店を継いでいた。
すでに400年以上の歴史を持つアタシの家は、かなり裕福で、店の数も数十店舗にも及ぶ。
アタシ自身、本家の血筋で、跡取りという立場だった。
…だから、知ることができた。
本家の家の蔵にあった、創立者の日記に目を通すことが。
かつて創立者は別の土地から訪れた。
しかし身内に大きな不幸が起こり、財産を持ってこの土地へとやって来た。
そして身内の魂を慰める為に、亡くなった者達が好きだった和菓子作りを自ら始めたのだと…。
だが1人だけ、もしかしたら創立者の息子が、生き残っているのかしれないと…日記には書かれていた。
息子が好きだったのはお饅頭。その土地の神様もまた、お饅頭が好きだったから、創立者は和菓子を作り始めたのだ。
…彼等にいつか、食べてもらう為に。
アタシは日記を閉じて、深く息を吐いた。
アタシが調べられる範囲だけど、一応調べてみた。
あの町と、あの土地の神様のことを。
2人の少年達が言っていた通り、あの土地には複数の神様が存在していた。
神様達はお地蔵さんの形を取り、人間達と関わってきた。
土地の人間はお地蔵さんにお供えをすることで、守ってもらっていたのだ。
そして人間の代表として、1つの血筋の者達がいた。
彼等は土地の神様達と交流ができ、特に気に入られた者はあちらの世界へ連れて行かれることもあったそうだ。
…こっちの世界ではそのことを、『神隠し』と昔は言っていた。
文字通り、『神が隠した』こと。
でもそれはまた、あの屋敷の惨劇も同じことなのだ。
『神が隠した』事件―。
永久に解けるはずの無い謎は、アタシという存在が知ってしまった。
…そう、あの大地主の血筋の者として。
もしかしたらアタシだけ見逃してくれたのも、少年達は気付いていたからかもしれない…。
アタシは日記を元の場所に戻し、蔵を出た。
そして表のお店へ行き、頼んでいた物を受け取った。
大きな紙袋の中には、お饅頭やアメ、金平糖などウチの店の主力商品の詰め合わせだった。
それを持って、アタシは電車に乗り込んだ。
…結局、6人は行方不明となった。
警察に事情聴取されたけれど、アタシはあの日、別行動を取ったことにした。
町の人達もアタシという存在を否定したことから、容疑をかけられることは無かった。
だから、お礼に行かなければならない。
あの2人に。
先祖の心を表した、この和菓子を持って。
…きっと待っている。
でももしかしたら…和菓子なんて飽きた、と言われるかもしれない。
だから背負っているリュックには、コンビニで買ったたくさんのお菓子が入っている。
もしかしたら、向こうへ引き摺りこまれるかもしれない。
だけど不思議に心は落ち着いていた。
あの2人とずっと一緒にいられるのなら…と思えるアタシは、すでに人でないのかもしれない。
体は現実にここにあるけれど、心はすでに…向こう側にある。
【完】
店が始まった頃から、お饅頭を中心にアメや金平糖など、素朴なお菓子作りを職業として、代々創立者の血縁者が店を継いでいた。
すでに400年以上の歴史を持つアタシの家は、かなり裕福で、店の数も数十店舗にも及ぶ。
アタシ自身、本家の血筋で、跡取りという立場だった。
…だから、知ることができた。
本家の家の蔵にあった、創立者の日記に目を通すことが。
かつて創立者は別の土地から訪れた。
しかし身内に大きな不幸が起こり、財産を持ってこの土地へとやって来た。
そして身内の魂を慰める為に、亡くなった者達が好きだった和菓子作りを自ら始めたのだと…。
だが1人だけ、もしかしたら創立者の息子が、生き残っているのかしれないと…日記には書かれていた。
息子が好きだったのはお饅頭。その土地の神様もまた、お饅頭が好きだったから、創立者は和菓子を作り始めたのだ。
…彼等にいつか、食べてもらう為に。
アタシは日記を閉じて、深く息を吐いた。
アタシが調べられる範囲だけど、一応調べてみた。
あの町と、あの土地の神様のことを。
2人の少年達が言っていた通り、あの土地には複数の神様が存在していた。
神様達はお地蔵さんの形を取り、人間達と関わってきた。
土地の人間はお地蔵さんにお供えをすることで、守ってもらっていたのだ。
そして人間の代表として、1つの血筋の者達がいた。
彼等は土地の神様達と交流ができ、特に気に入られた者はあちらの世界へ連れて行かれることもあったそうだ。
…こっちの世界ではそのことを、『神隠し』と昔は言っていた。
文字通り、『神が隠した』こと。
でもそれはまた、あの屋敷の惨劇も同じことなのだ。
『神が隠した』事件―。
永久に解けるはずの無い謎は、アタシという存在が知ってしまった。
…そう、あの大地主の血筋の者として。
もしかしたらアタシだけ見逃してくれたのも、少年達は気付いていたからかもしれない…。
アタシは日記を元の場所に戻し、蔵を出た。
そして表のお店へ行き、頼んでいた物を受け取った。
大きな紙袋の中には、お饅頭やアメ、金平糖などウチの店の主力商品の詰め合わせだった。
それを持って、アタシは電車に乗り込んだ。
…結局、6人は行方不明となった。
警察に事情聴取されたけれど、アタシはあの日、別行動を取ったことにした。
町の人達もアタシという存在を否定したことから、容疑をかけられることは無かった。
だから、お礼に行かなければならない。
あの2人に。
先祖の心を表した、この和菓子を持って。
…きっと待っている。
でももしかしたら…和菓子なんて飽きた、と言われるかもしれない。
だから背負っているリュックには、コンビニで買ったたくさんのお菓子が入っている。
もしかしたら、向こうへ引き摺りこまれるかもしれない。
だけど不思議に心は落ち着いていた。
あの2人とずっと一緒にいられるのなら…と思えるアタシは、すでに人でないのかもしれない。
体は現実にここにあるけれど、心はすでに…向こう側にある。
【完】
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
桜の森の満開の下
hosimure
ホラー
わたしは10年前まで、違う土地で暮らしていた。
けれど今はダムの底に沈んでしまっている。
病床の祖母に言われ、故郷の桜を求めて帰ったわたしが体験したこととは…。
KITUNE
hosimure
ホラー
田舎に泊まりに来た女子高校生・りん。
彼女が山で出会った不思議な少年・コムラ。
二人が出会った山には昔から不吉な話があり……。
出会うべきではなかった二人に起こる事は、果たしてっ…!?
彼ノ女人禁制地ニテ
フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地――
その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。
柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。
今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。
地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――
携帯彼氏の災難!?【マカシリーズ・6】
hosimure
ホラー
かつてのクラスメートの女の子から、携帯彼氏・ハズミを押し付けられてしまったマカ。
その存在に困り、何とか開放する為動き出すも、共にいるうちに情が移ってしまい……。
携帯彼氏に対し、出したマカの選択とは………!?
普通の女の子とは全く違うタイプのマカに、さすがの【携帯彼氏】もタジタジになる?
珍しく、ラブコメ風に仕上げています。
月影の約束
藤原遊
ホラー
――出会ったのは、呪いに囚われた美しい青年。救いたいと願った先に待つのは、愛か、別離か――
呪われた廃屋。そこは20年前、不気味な儀式が行われた末に、人々が姿を消したという場所。大学生の澪は、廃屋に隠された真実を探るため足を踏み入れる。そこで彼女が出会ったのは、儚げな美貌を持つ青年・陸。彼は、「ここから出て行け」と警告するが、澪はその悲しげな瞳に心を動かされる。
鏡の中に広がる異世界、繰り返される呪い、陸が抱える過去の傷……。澪は陸を救うため、呪いの核に立ち向かうことを決意する。しかし、呪いを解くためには大きな「代償」が必要だった。それは、澪自身の大切な記憶。
愛する人を救うために、自分との思い出を捨てる覚悟ができますか?
短な恐怖(怖い話 短編集)
邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。
ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。
なかには意味怖的なお話も。
※追加次第更新中※
YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる