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噂のオバケ屋敷で起こったこと
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―ほら、行くぞ。
けれど無愛想な男の子に手を引かれ、再び気を戻す。
…だけどあの襖の向こうの光景は変わらない。
そして…気付いてしまった。
あの屍達の中には、現代の者と思しき服装や髪型をしているモノもいた。
きっと、彼等に引きずり込まれてしまったのだろう…。
その肌は真っ白で、顔色もすでに生きた人間のそれではなかった。
屍達の宴―終わり無き悪夢だ。
2人の少年が再び歩き出したので、アタシも足を動かした。
「彼等は…もう戻れないの?」
―ムリだな。ああなってしまったのは、自業自得だ。
―それに『戻る』と言うより、『行く』ことができないと言った方が正しいかもね。…もっともあの人達、自分がどこに『行く』のかも分かっていないみたいだけど。
…そう語る少年の声は、少し沈んでいた。
彼等のことを、少なからず心配しているからだろう。
やがて、日の光が差し込んできた。
出口が近いんだろう。
アタシはぼんやりしながら、2人の少年を見た。
アタシの目の前にいる、2人の少年。
彼等のアタシの手を掴む小さな手は、とても冷たかった。
まるで…生きていない人間の手のように。
その後は3人とも無言で歩き進む。
時折、いろんな所から人の声や物音が聞こえてくる。
…楽しそうだ。
それだけが、彼等の唯一の救いなのかもしれない。
例え一生、この屋敷から出られずとも、彼等には心から笑い合える仲間がいるのだから…。
アタシと違って。
屋敷から出て、門をくぐった時、夕日の眩しさに目が一瞬眩んだ。
すでに外は夕方色に染まっていた。
入った頃はまだ、お昼過ぎだったのに…。
「随分…時間が経っちゃったのね」
―この屋敷には、時間なんぞ関係ないからな。
―まっ、戻って来れたのが『今日』なだけ、ラッキーだよ。今なら電車にも間に合うし。
そう言って、2人の少年は手を離した。
冷たい2人の手のおかげで、アタシの心も静かになっていた。
「…ねぇ、アタシの仲間達はどうなったの?」
―あの人達はすでに、彼等の仲間だよ。
笑顔の少年に言われた言葉に、思わず意識が飛びそうになった。
…いや、予想はしていたことだった。
「なら…どうしてアタシは無事なの? …いえ、見逃してくれたの?」
そう尋ねると、2人の少年達はお互いの顔を見合わせ、微笑んだ。
―だっておねーさんは、お菓子をくれたから。
―俺達だって鬼じゃない。ルールは守るさ。
お菓子、ルール…。
…ああ、そうか。確かに仲間達は彼等にお菓子を…いや、『お供え』をやらなかった。
だから見逃してはくれなかったんだ…。
―早く帰りなよ。大丈夫。おねーさんは無関係なんだから。
「…そういうワケにはいかないでしょう?」
この町へ来たことは、いろんな人に見られている。
―いや、そうなんだ。お前はここには来なかった。来たのはあの6人だけだ。
「そんなことがっ…!」
思わず顔を上げて、思い当たった。
この町の人は、地元の神様を大事にしている。…ならば、そういう事実もありとされてしまうんだろう。
「…分かったわ。帰る」
ぎゅっと唇を噛み締めながら言うと、明るい少年が大きく頷いた。
―今日のことはできれば忘れた方が良い。一度は見逃すルールがあるけど…二度目はないよ?
笑顔ながらも、目が笑っていない…!
「っ! 分かったわよ! もう二度と、ここへは来ない! さようなら!」
アタシは2人の少年の間を通り、道を歩き出した。
けれど…どうしても言っておきたいことがあって、どうしようか迷った挙げ句、やっぱり立ち止まり、振り返った。
―あれ? どうしたの?
―早く行け。電車に間に合わなくなるぞ。
アタシは息を吸って、顔を上げた。
「いっ一応アタシを助けてくれて、ありがと!」
大声で言うと、今度はすぐに道を走り出した。
遠ざかるアタシを、2人はしばらくキョトンとした表情で見ていた。
―…あ~あ、残念。どうせ引き込むんだったら、おねーさんみたいな人が良かったなぁ。
―お前のその女好き、絶対父親似だな。
―しっつれーな! …まっ、否定はできないけどさ。
少年は肩を竦めると、男の子の手を取った。
―さっ、おねーさんからもらったお菓子、食べようよ! 美味しそうなの、いっぱい貰ったし。
無愛想な男の子は、柔らかく微笑んだ。
―だな。久々に大収穫だったしな。饅頭にも飽きてきたところだ。
―お饅頭だけってのも、飽きてきたよねぇ。たまにはチョコとかポテチとかアメとかさぁ、食べたいよね。
―しばらくは不自由しないだろう。…まっ、またあんな人間が現れるよう、願うことだな。
―おねーさんみたいな奇特な人、今の世の中じゃ珍しいよ。あ~あ、もう一回ぐらい、来てくれないかなぁ。今度は僕達に会いに、さ!
―…こんな体験をしといて、来る人間なんぞ普通はいないぞ。
―残念★ じゃあしばらくは、大人しくしてようか。
…お客さんが来なければ、ね?
けれど無愛想な男の子に手を引かれ、再び気を戻す。
…だけどあの襖の向こうの光景は変わらない。
そして…気付いてしまった。
あの屍達の中には、現代の者と思しき服装や髪型をしているモノもいた。
きっと、彼等に引きずり込まれてしまったのだろう…。
その肌は真っ白で、顔色もすでに生きた人間のそれではなかった。
屍達の宴―終わり無き悪夢だ。
2人の少年が再び歩き出したので、アタシも足を動かした。
「彼等は…もう戻れないの?」
―ムリだな。ああなってしまったのは、自業自得だ。
―それに『戻る』と言うより、『行く』ことができないと言った方が正しいかもね。…もっともあの人達、自分がどこに『行く』のかも分かっていないみたいだけど。
…そう語る少年の声は、少し沈んでいた。
彼等のことを、少なからず心配しているからだろう。
やがて、日の光が差し込んできた。
出口が近いんだろう。
アタシはぼんやりしながら、2人の少年を見た。
アタシの目の前にいる、2人の少年。
彼等のアタシの手を掴む小さな手は、とても冷たかった。
まるで…生きていない人間の手のように。
その後は3人とも無言で歩き進む。
時折、いろんな所から人の声や物音が聞こえてくる。
…楽しそうだ。
それだけが、彼等の唯一の救いなのかもしれない。
例え一生、この屋敷から出られずとも、彼等には心から笑い合える仲間がいるのだから…。
アタシと違って。
屋敷から出て、門をくぐった時、夕日の眩しさに目が一瞬眩んだ。
すでに外は夕方色に染まっていた。
入った頃はまだ、お昼過ぎだったのに…。
「随分…時間が経っちゃったのね」
―この屋敷には、時間なんぞ関係ないからな。
―まっ、戻って来れたのが『今日』なだけ、ラッキーだよ。今なら電車にも間に合うし。
そう言って、2人の少年は手を離した。
冷たい2人の手のおかげで、アタシの心も静かになっていた。
「…ねぇ、アタシの仲間達はどうなったの?」
―あの人達はすでに、彼等の仲間だよ。
笑顔の少年に言われた言葉に、思わず意識が飛びそうになった。
…いや、予想はしていたことだった。
「なら…どうしてアタシは無事なの? …いえ、見逃してくれたの?」
そう尋ねると、2人の少年達はお互いの顔を見合わせ、微笑んだ。
―だっておねーさんは、お菓子をくれたから。
―俺達だって鬼じゃない。ルールは守るさ。
お菓子、ルール…。
…ああ、そうか。確かに仲間達は彼等にお菓子を…いや、『お供え』をやらなかった。
だから見逃してはくれなかったんだ…。
―早く帰りなよ。大丈夫。おねーさんは無関係なんだから。
「…そういうワケにはいかないでしょう?」
この町へ来たことは、いろんな人に見られている。
―いや、そうなんだ。お前はここには来なかった。来たのはあの6人だけだ。
「そんなことがっ…!」
思わず顔を上げて、思い当たった。
この町の人は、地元の神様を大事にしている。…ならば、そういう事実もありとされてしまうんだろう。
「…分かったわ。帰る」
ぎゅっと唇を噛み締めながら言うと、明るい少年が大きく頷いた。
―今日のことはできれば忘れた方が良い。一度は見逃すルールがあるけど…二度目はないよ?
笑顔ながらも、目が笑っていない…!
「っ! 分かったわよ! もう二度と、ここへは来ない! さようなら!」
アタシは2人の少年の間を通り、道を歩き出した。
けれど…どうしても言っておきたいことがあって、どうしようか迷った挙げ句、やっぱり立ち止まり、振り返った。
―あれ? どうしたの?
―早く行け。電車に間に合わなくなるぞ。
アタシは息を吸って、顔を上げた。
「いっ一応アタシを助けてくれて、ありがと!」
大声で言うと、今度はすぐに道を走り出した。
遠ざかるアタシを、2人はしばらくキョトンとした表情で見ていた。
―…あ~あ、残念。どうせ引き込むんだったら、おねーさんみたいな人が良かったなぁ。
―お前のその女好き、絶対父親似だな。
―しっつれーな! …まっ、否定はできないけどさ。
少年は肩を竦めると、男の子の手を取った。
―さっ、おねーさんからもらったお菓子、食べようよ! 美味しそうなの、いっぱい貰ったし。
無愛想な男の子は、柔らかく微笑んだ。
―だな。久々に大収穫だったしな。饅頭にも飽きてきたところだ。
―お饅頭だけってのも、飽きてきたよねぇ。たまにはチョコとかポテチとかアメとかさぁ、食べたいよね。
―しばらくは不自由しないだろう。…まっ、またあんな人間が現れるよう、願うことだな。
―おねーさんみたいな奇特な人、今の世の中じゃ珍しいよ。あ~あ、もう一回ぐらい、来てくれないかなぁ。今度は僕達に会いに、さ!
―…こんな体験をしといて、来る人間なんぞ普通はいないぞ。
―残念★ じゃあしばらくは、大人しくしてようか。
…お客さんが来なければ、ね?
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