神隠し

hosimure

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噂のオバケ屋敷で起こったこと

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薄暗い中、2人の少年はそれでもしっかりした足取りで歩く。

―ねぇ、おねーさん。この屋敷の話、知ってる?

「んっと…、噂話程度なら。ここで多くの人が亡くなったとか…」

―その話なんだけどね。

笑顔の少年がクスクス笑いながら、そして無愛想の男の子は不機嫌に語り出した。

かつてこの屋敷であったことを―。



昔、この屋敷の主人は多くの女性と関係を持ち、子供がたくさんいた。

その中で、よりにもよってこの地方の神様を祀る女性に手を出し、男の子を産ませた。

その男の子は頭が良かった為、主人は母親から男の子を奪い、この屋敷に連れ去り、養子とした。

だが周囲の者達は、その少年が主人の実子であることに薄々気付いていた。

そして跡継ぎに、少年を選ぶのではないかと囁かれ始めた。

やがて疑惑は悪心を呼び起こし、主人が遠出している時、ついに家の者は少年を手にかけようとした。

しかし―逆に家の者が、皆殺しにあった。



「…そこまではアタシも知っているわ。でもその少年は…」

―うん、行方不明になったって言われているね。でも大事なこと1つ、忘れていない?

―大事なこと?

―ああ。その少年の母親が、巫女だったってことだ。

巫女…そう言えば、説明された中にそんな風な言葉があったっけ。

「でもそのことと、少年のことがどう関係するの?」

―この地域の神様ってちょっと変わっててね。この町にお寺や神社がないこと、知ってた?

「えっええ。看板も見当たらなかったわね」

―それはこの町に、寺や神社が必要ないってことだ。

「でも少年のお母さんは、神様に仕えていたんでしょう?」

―…まあそこがちょっと複雑なところでさ。

少年達の説明は続く。

この町には寺や神社は存在しない。

ここの神様は土地の神様で、町に点在するお地蔵さん自体がご神体となっている。



…だからお地蔵さんには、新しいお供えがしてあったんだ。



そして少年の母親は、お地蔵さんを統一する家の者。

少年はその家の最後の1人だったと言う。

だからその少年に何か被害を及ぼそうとするのならば…。

お地蔵さん達が、黙っていない。



……それじゃあ家の人達は、少年に返り討ちにされたのではなく、お地蔵さん達に…?

心に浮かんだ疑問を、言葉としては出せなかった。

言った途端、何か恐ろしい目に合う予感がしたからだ。


―お地蔵さんにもいろんな種類があってね。子供を守る優しいお地蔵さんもいれば、自分を祀る者を傷付ける者に厳しい罰を与えるお地蔵さんもいる。

「…じゃあ、この屋敷の人達を手にかけたのは…」

―ああ、守り神ってことだ。

「じっじゃあ、少年はどうしたの? お地蔵さんに連れてかれちゃったの?」

―そうじゃないよ、おねーさん。その少年は元の居場所に戻っただけだよ。

元の居場所?

…あっ、母親が神道系の者で、少年はその血筋の最後の1人だったなら…少年は『そこ』へ連れ戻されたんだ。

この町の、守り神の手によって。

だから少年は行方不明ということになってしまったんだ…。

―ところが話は終わりじゃないんだ。

突然、明るかった少年の声が低くなった。

―守り神によって死に絶えた人間はその後、悪しきモノとなる。この屋敷の者達全て、悪しきモノへと変貌したんだ。

不機嫌だった男の子の声も、真剣味を帯びる。

「あっ、じゃあ誰もいないはずの屋敷から、灯りや声がするって言うのは…」

―あながち、ただの噂じゃなかったってこと。だから近付かない方が良かった。迂闊に近付けば、彼等に引きずり込まれてしまうから…。

そう言った少年の足がゆっくりになり、ふと横を見た。

だからアタシも思わずそっちを見た。

5センチほど空いた襖の隙間から見えたのは…地獄、だった。

着物を着た男女が部屋いっぱいにいた。

そしてその誰もが、笑っていた。おかしそうに。

…その体を自身の血で濡らしながら。

血は切られた肌や、潰れた体の至る部分から絶えず流れ出ている。

中には臓器や目玉を垂れ下げながら、笑い、踊り狂う屍もいた。

あまりに異様な光景に、気が遠のきそうになる。

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